第216話 城下町 (翔)

「そろそろ着くぞ、城下町に」



 目で視認できるほどに、大きなお城やその街を囲っているであろう壁が近づいてきた。

 俺は最初、ファンタジックできらびやかな感じを想像していたんだが、外側だけ見るとそうでもないっぽい。



「そういやお前さん、身分証持ってるか?」

「あっ……持ってない…」



 あー、やっぱりそういうの要るよな。

 いきなりでかい壁にぶち当たったが……どうする?


 そう思ってたんだが、御者がアドバイスをくれた。



「まあ…門兵に身分証を無くしたって言えば、身体検査された後に身分証を仮発行させて貰えるから、問題はねぇな」

「あ、そうなんでスか」



 良かった。

 でも、国がそんなに審査がガバガバで大丈夫なんだろうか? こちらとしては都合が良いが…。

 おそらく、自国の強さに余程の自信があるとかだろうな。

 

 それはともかく、もうほとんど目の前に城下町の門は迫ってきていた。



「お前さんは身分証を仮発行しなきゃいけないだろ? ここで一旦降りてくれ」

「はい、あー…ありがとうございました」

「いや、こっちはお前さんがいなきゃ、後ろの娘達と一緒に死んでたからな……。助かったぜ。荷物は中の馬車停留所で渡すからよ」



 俺は馬車から降りた。

 御者は鞭を振るい、馬を動かし、門兵と何かを話した後に門の中へと入っていった。

 俺も門の前へと行く。



「身分証は?」



 そう、チーターのコスプレをしてる様な見た目の門兵に話しかけられた。何ぞこれ。

 ま……、それは置いといて、身分証を失くしたという嘘をつかなければ。

 


「すいません、失くしちゃいまして」

「そうか、なら検査の後に仮発行できるが…するか?」

「お願いできますか?」

「よし、ならこちらへ来い」



 門兵の後についていくと、門から少し離れた場所でなんかの棒を彼は取り出した。

 それで頭中心にその棒を俺にかざしていき、最後に軽いボディーチェックをした。



「よし、大丈夫だろう。これが仮の身分証だ。役所でちゃんと作り直してこいよ」

「はい、ありがとうございます。ところでその棒は何ですか?」



 そう訊くと、あからさまに驚いた顔をされた。



「これを知らないのか? おまえ、まさか田舎から来たか?」

「ええ、まあ…」

「これはな、相手の思考を少しだけ読み取れるマジックアイテムなんだ。最先端なんだぜ? わかったか田舎者」

「あ、そうなんですか」

「そうだ……もう、門を通って良いぞ」



 俺は門まで戻り、もう一人いた門兵に仮発行した身分証を提示して、城下町の中まで入った。


 城下町は…そう、まるでフランスか…イタリアか…よくわからないが、そういう雰囲気の場所が、より幻想的になった感じだ。

 特に、遠くから見えたあの城が、味を出してるんだと思う。

 そこらへんを見渡してみると、馬車停留所への案内板があった。

 それの通りに、御者が待っているであろう馬車停留所へと向かう。

 

 3分くらい歩いた先。思ったより歩かなかったな。

 馬車停留所には、さっきまで俺が乗せてもらっていた馬車と、御者が居た。

 御者は馬車から降りて葉巻をふかしていた。


 

「おお、来たか」



 こちらに気付いた彼は、葉巻を口から外し、手に持ったままそう言いながら、こちらに近づいてくる。



「ええ」

「俺の雇い主が来るからよ、もう少し待ってくれ。その人にゴブリンらを買い取って貰うと良い」



 俺は御者と一緒にその、雇い主というのを待つことにした。

 馬車の中にいる女のコ達は、ブルブル震えていたり、項垂れたり、ただボンヤリと、こちらを見つめていたりしている。


 そーいや…この人の雇い主つーことは、正真正銘の奴隷商か。漫画やラノベ通りの悪い性格だと仮定するとして、俺は怒りを表情に出さずにソイツと話せるか?

 ……わかんねー。わかんねーよ、マジで。


 そんなに待つこともなく、すぐにその奴隷商人は来た。


 見た目は金色の糸で刺繍が入った豪華な服や帽子に身を包み、靴もあからさまに高そうなもの。そして手の全ての指にはめられた大きな宝石がはめられている指輪…。

 

 商人は御者に声をかけた。



「グホホ、奴隷ちゃん達は無事に連れて来たかな? フレッド」



 フレッドとは、この御者の名前だろう。



「ええ、この馬車の中に。ご覧になりますか?」

「グホホ、そうさせてもらおうか」



 俺を気にとめることもなく、その商人は馬車まで歩いて行った。

 そして、御者が馬車の後扉を開くと、商人はそこを覗き込んだっぽい。

 俺は馬の横に立ってるから、ここからじゃよく見えないけど。



「グホホ、うんうん、今回も高く売れそう……だが…。あれ、アレが連絡を受けてた"不良品"か?」

「っ……間違いありません」



 人のことを物、それも不良品呼ばわりか。

 やっぱりろくな性格じゃねーな。



「おい、不良品。出てこい」



 そう、商人が呼びかけると、一人の女の子が出てきた。

 ここから見える限りの情報じゃ…犬っぽい耳が片方千切れてて、犬のような尻尾の先端が不自然に短い。

 そして、少しつついただけで倒れそうな弱々しさがある。見ているこちらが辛い。

 数日間、何も食べてないような感じだ。



「グホ……この狼族の獣人に移動中に飯をちゃんと食べさせたのか? フレッド。あと数日で死にそうだぞ」

「はい…ですが、食べさせたら食べさせた分だけ、全て吐いてしまいます。故意に吐いてるわけではないみたいですが……」

「グホホ…だとすると…連絡を受けたことはすべて本当か。顔も悪くは無いし、出ているとこは出ているのだが……それ以外がてんでダメだと。…売り物にならんな。もしこんな不良品を売ろうものなら、店の名が廃れてしまう。さて、どうするか」



 何も食べないわけでなく、わざと吐いてるわけでなく……そして、奴隷という過度なストレスが溜まる環境に置かれてる……とすると、考えられるのは摂食障害か?

 あんなにボロボロになって……一体、あの子には何があったというのだろうか?

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