第215話 ファイヤーボール (翔)

「それにしてもお前さん、こんなところで一人で何をしてたんだ?」



 馬車が発車し出してから5分経った頃、御者からそんな事を訊かれた。

 返答に困るな…。



「あー、その、ちょっと何か、その、気分で魔物討伐に」

「気分転換かなんかで魔物を討伐してたらここまで迷っちまった、そういうことか?」

「そんな感じっスね」

「ふーん」



 ふー、なんとかこれで納得させることができたみたいだ。

 それにしても、向こうから話しかけてきてくれたのはありがてえ。こちらから話しかけやすくなる。



「あの…この馬車は何を運んでるんですか?」

「ああ、見たらわかるだろ? 獣人の奴隷さ」



 獣人…やっぱり、あの子達に耳とかが生えてたから普通じゃないとは思ってたが…。

 奴隷というフレーズに俺は思わず、顔をしかめる。



「お前さん、奴隷に同情するタイプか」



 俺の顔が曇ったのが見えたのか?

 御者はそう訊いてきた。もしかして、この世界じゃー、それはいけないことなのか? 

 そう考えたが、この人の表情からしてそういうわけじゃないようだ。



「ええ、まあ」

「そっか、この国じゃ少数派だな。あまり外でそういう顔はするなよ。変に見られちまう。だがな、気持ちはわかるぜ? 俺もその少数派だからな」



 じゃあなんで、奴隷を運んだりしてるんだ…。



「お前さん、今、なんで俺が奴隷を運んでるか不思議に思ったろ?」



 あ、よまれてた。



「正直言うと…はい」

「やっぱりか。…仕方ないんだよ、仕事なんだ。奴隷の運搬は普通に物を運ぶのに比べて払いが高い。生活のためさ」


 

 生活の為に仕方なく、いやいや、この人はこの子達を運んでるのか。

 …この人は責められない…か?

 


「奴隷が売買されて、その先どういう目にあうか……。それを考えるだけでも胸が痛くなる。特に後ろにいる奴等のような年頃の娘はな。……それも最近じゃ、慣れてきたがな」

「そうですか……」



 そういう話をしていた最中だ、突然、馬車馬がヒヒーンではない変な声を上げながら、その場で急停止した。

 何かを恐れているように思える。

 げんに、何かを恐れていたんだ、馬(みたいな動物)達は。



「おっ…おい、どうした? またなんか居るのか?」


 

 この道の脇の茂みの奥から、さっきのゴブリンなんかよりも一回り大きなゴブリンと、3匹の先ほどと同じようなゴブリンが飛び出してきた。

 御者の顔が青ざめる。



「はぁっ!? おい、こんな事って……嘘だろ?」

「そんなにやばいんですが、こいつら」

「ヤバイとかそういうのじゃねぇよ、ここら辺のゴブリン達のボス。ドンゴブリン…Dランクの魔物だ……。クソッ、マジでここら辺の結界仕事しろよ!」



 ゴブリン達のドン…確かにそれはヤバイな。

 とんでもねー不運だ。どうする…?

 ……そういやさっき、レベルが上がってSKPとSTPが上がったんだったな……。

 せっかく貰ったチートスキルだ。ここで使った方がいいかもしれねー。


 俺はステータスを開いた。レベルが上がったことにより50増え、547もSKPがある。

 神炎に500のポイント振り、一段階習得。火術にMAXの15ポイントまで振ってファイヤーボールという魔法を覚えた。

 どのくらいの威力が出るかわかんねーが……やってみっか。



「ど…どうする? 反対側に逃げるか?」

「いや……ちょっと待っててください」


 

 俺は『ファイヤーボール』と、頭の中で考えた。

 ま、危ないから、馬車の近くからは出さないようにして……。とりあえず、lv5の通常サイズを1個だけ。


 すぐに、ファイヤーボールは馬車の少し前に現れた。

 めちゃくちゃデカイファイヤーボールが。

 バランスボールぐらいか?

 俺はこの世界の魔法を初めて見るが、それでも明らかに異常だというのがわかる。



「はっ……はぁ!? 何っじゃ…そりゃ……」



 御者は驚きすぎて声が裏返ってんな。

 それに、後ろにいる子達からも、驚きの声が聞こえる。

 で…えーっと、こいつをあいつらに向けて撃てば良いんだな?


 俺はファイヤーボールをドンゴブリンとゴブリンの群れに向かって放った。

 火焔の巨大な球体は、ドンゴブリンとゴブリンにぶち当たり、小規模の爆発を引き起こした。

 ………やべー…。

 

 身体が温かくなる。レベルが上がったんだな。

 つーことは、あいつらは倒せたのか。

 ちょびっとだけ、ステータスを覗いてみる。



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-ステータス-


name:ショー


Level : 13


EXP:2500


HP :130/130

MP :135/135 (+5)


A(攻撃力):65

C(器用度):65

D(防御力):65

W(魔法力):65

S(素早さ):65


STP:1150



-スキル-


SK1)


[E(X):火術]Lv MAX [E(X):水術]Lv 1

[E(X):風術]Lv - [E(X):土術]Lv -

[E(X):念術]Lv - [E(X):癒術]Lv -

[E(X):強化術]Lv - [E(X):弱化術]Lv -


SK2)


[剣技★]Lv 2 [体技★]Lv 2

[槍技★]Lv - [弓技★]Lv -

[炎神★★★★★]Lv1


SKP:632


称号: [ノーレッジ][異世界からの招来者]

印: -


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 ありゃ…いつの間にか体技も増えてんな。

 ゴブリンを投げ飛ばしたからか。


 それと、火術を進化させることができるようになったな。……今は無理だが、近いうちに生活が整ったら進化させてみっかな。SKPとSTPも後だな、後。



「お前さん……何もんだよ?」



 御者がそう訊いてきた。

 そして、続けてこう言った。



「つーか、そんなに魔法が強いんだったら、最初から魔法使えっての」

「MP切れてたんです、ほとんど」

「あー、なら仕方ねぇな」



 御者は何故だか馬車から降りて、魔物達の死体を集め始めた。そういや、さっきもこんなことしてた気がする。

 トドメを刺すたんびになんか袋をゴチョゴチョしてんのな。



「なにやってんスか?」

「あ? 魔物の死体や魔核を集めてんだ。金になるからな。まー、お前さんが倒したから、お前さんのもんだが、どうやらマジックバッグは持ってきてねぇみたいだし、俺のに入れてやるよ」

「あー、ありがとうございます」

「いや良いんだ、後で少しくれれば……。それにしても、この道の結界のこと役所に報告しねぇとな、面倒くせ」



 俺達はまたすぐに馬車に乗り、出発した。

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