第203話 元、竜の少女 -4-

「よぉーし、じゃあ…衣類とマジックバッグは揃ってるから……武器、冒険者として必要な、武器だね! ローズは武器、何を使うか決めてるの?」



 アイテムを選んだローズに、早速どんなのが欲しいか俺はきいてみる。いや、剣とか槍とか弓とか杖とか全部作っちゃっても良かったんだけどさ。



「我は…魔法主体で戦うのだ」

「あれ、そうだっけ? ボクのイメージでは暴れてるって記憶しか…」

「魔法を披露する前に、アリムに倒されたからな……」

「あ、そうだったね。じゃあ杖が必要だ!」

「そうなるな」



 どんな杖がいいだろうか…と、そうだった。その人が得意な魔法ごとに杖も変わるんだったな。

 ローズは、どんな魔法が得意なのかな?



「主にどんな魔法を使うの?」

「全種最大まで扱えるぞ。しかし、得意なのは木、植物だな」

「植物かぁ…」


 

 じゃあ、植物魔法が強くなる杖を作ろうかな、さっそく…。いや、待てよ。

 あれじゃん、ずっと宝の持ち腐れになってたあの杖があるじゃん。ダンジョンから見つかったやつ。

 あれを俺がより強力になる様な改造をしてローズに渡せば良いんだ! そしたら在庫整理にもなる。



「実はね…ローズ。君のダンジョンから見つかった、君にぴったりな、伝説級の杖があるんだけど」

「な……なに? 我が母なる迷宮から見つけた杖…だと? それはあれか、ダンジョンを攻略した時に貰える宝箱で出たやつか?」

「まぁ、そうだね」



 俺は自分マジックバッグから、あの杖…えっと…名前はなんだっけかな…んーと…ゴ…ゴールドローズだったっけ…? いや、違うな。ゴー…ゴー…ゴルディ…あぁ、そうだ、ゴールディローズだ。

 ローズの名前ほとんどそのまんまじゃん。

 とにかく、そのゴールディローズを取り出した。



「はいコレ」

「いや…悪いがそれは汝らが手に入れた物で……」

「んー、でも良いの? 君のお母さんである、ダンジョンの形見みたいなものだけど…」

「しかし……」

「それに、この杖の名前…ローズのフルネームと同じ、ゴールディローズって名前なんだけど…もしかして…」

「ん……母なる迷宮が、我を意識して作ったかもしれない…か? そう言いたいんだな」



 ローズはおずおずとその杖に手を伸ばし、掴んだ。

 俺はゴールディローズから手をはなし、ローズに託す。

 ローズは何故かわからないけど、ゴールディローズの匂いを嗅いでいる。

 


「懐かしい…母なる迷宮の匂いがする……」

「まぁ…手に入れてすぐにバッグにしまったからね」

「………本当に良いのか? これを貰っても」

「…いいよ」

「そうか、感謝する」



 ローズは杖を、すごく大事そうに抱きしめる。

 かなり喜んでもらえてるみたい、よかった。

 あぁ、そうだ、エンチャントとか追加をしなくても良いのかな?



「なにか、エンチャントを追加しようか?」

「いや……いい。このままが良い」

「そっか。わかったよ。……で、これらはボクが今作ったんだけど、あげるね」



 実は、ローズが杖を抱きしめているその数秒の時間に、薔薇の髪飾りと薔薇の腕輪を作ったんだ。無論、伝説級。

 素材は主に、ゴールドローズクィーンドラゴンの薔薇鱗とか、あのダンジョンから手に入れた物。

 効果は自動回復速度を速めたり、ステータスを上げたり、あと…植物の魔法の威力を高めたりかな。



「薔薇の髪飾りと…腕輪か…やはり伝説級なのだろう?」

「うん。どっちもあのダンジョンから出てきた魔物の素材で作ったんだ。効果は主にステータス上昇。あとでまた詳しく説明するよ」

「かたじけない」

 


 ローズは杖を抱きしめたまま、髪飾りと腕輪を受け取った。

 そして髪飾りを頭に、腕輪を右腕につけた。その瞬間、また、ローズは驚いた顔をしたんだ。



「わかるぞ…力がみなぎるな」

「えへへ、でしょー!」



 そうなんだよね、慣れるとわかんなくなるけれど、最初に大幅なステータス底上げ系のアイテムを着けた時は俺もなんかがこみ上げる感じがしたんだ。


 このあとは、生活に必要そうなアイテムをダークマターで次々と作ってあげた。

 マジックルームとか…レジェンドポーション数百本とか…解体ナイフとか…まぁ、その他諸々ね。

 

 

「結局…かなりアイテムを貰ってしまったな」

「いいのいいの、好きでやってんだからさ」



 ローズは俺があげたマジックバッグをさすりながら、満面の笑みで笑ってみせた。



 このあとは、冒険者として必要なスキルを教えてあげたり、この国や有名な人についての情報とか、いいお店とかも教えたんだ。

 前に図鑑でドラゴンはかなり頭が良いと見たことがあるんだけど、それは本当だったみたいで、スルスルと知識を吸収していった。


 そうそう、ローズってば、俺達があの例のダンジョンから、ゴールドローズクイーンドラゴンを倒した際に見つけたスキルカードの内容…例えば『光爆咆の薔薇園』とかは憶えてたんだよ?

 正直、俺達じゃなかったあのダンジョンクリアできなかったかもね。


 そうして…あわただしく準備しているうちに、1日はあっという間に過ぎてしまったんだ。

 


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 俺とミカは今、屋敷の玄関に居る。



「門の前まで行けなくてゴメンね、ローズ。屋敷から外に出ると目立っちゃうんだ、ボク達」

「いや、見送ってくれるだけでも良い」

「ちょくちょく、メッセージで連絡してね?」

「あぁ、そうさせてもらう」

「あと…コレ…」



 俺は宿に5泊はできるだろうお金と、アイテムを1個渡す。



「金は要らんぞ?」



 そう言って、俺が渡そうとした金貨5枚を拒否した。

 だけど、ローズは肝心なことを忘れてるよ。



「それ、宿代だから。無一文じゃなにもできないよ?」

「あっ………それもそうだな。すっかり忘れていた。ありがたくいただこう……で、このアイテムは?」



 すんなりと、お金を受け取ってくれたが、今度はお金と一緒に渡したアイテム…ペンダントが気になるみたい。

 


「それは透明になるアイテムだよ、ボク達の家に出入りする時は絶対にこれをつけてね。でないと、大変なことになるからね」

「あ……ぁぁ、わかった。今からか?」

「うん、この屋敷をでたらすぐに透明になってね」

「了解した」



 さっそく、ローズは渡したペンダントを首からさげた。

 ふふ、ローズに合うようにデザインしたからね、やっぱり、すごく似合ってるよ。



「じゃ……そろそろ行こうと思う。1日、世話になった」

「本当に1日で良かったの? 生まれたばかりなのに」

「大丈夫だ、汝らは心配症だな。ふふ」



 そう言いながら、ローズはこの屋敷の大きなドアを開け放った。



「また、近い内に会おう! さらばだ…我が初めての友…アリムとミカよ!」

「うん、またね!」

「またねー!」


 ローズは光が差す外へと飛び出て、柄にもなく手を振りながら、閉じる屋敷の戸の外で嬉しそうに笑っていた。

 俺達も閉めきるまで手を振った。



「……行ったね」



 どこか寂しげに、ミカはそう呟いた。



「うん」



 俺は頷く。



「もし…私たちに子供ができてさ」

「うん」



 唐突にミカがそんなこと言い出したけれど、ここはとりあえず返事をしておくことにする。

 子供とか…何年後の話なんだろ。



「成長して…手元を離れる時が来たらさ、こんな気持ちなのかな?」

「いや、ローズは1日だしもっと深い感じになるでしょ」

「だよね…生まれて1日で1人立ちって、行動力すごいよね」

「本当にね」



 俺達は戸を見つめながら、しばらくそう、話し続けていた。



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 ローズは、街を歩いていた。

 初めて見る人、初めて見る物、初めての青空!

 何もかもが、ローズにとって新鮮だった。



「あぁ、世界は素晴らしいなっ…! 世話をしてくれると言っていたアリム達には悪いが、1分でも早く、この世界を見たかったのだ…我は…ふふ」



 そんなローズは、冒険者の登録をするその前に、とある本屋で足を止めた。

 と言っても、この本屋はアリムの家から徒歩2分の場所にあるのだが。


 足を止めた理由は、簡単だ。

 気になるものが、目に映ったから。



「なんだ…これは…アリムと…ミカだよな?」



 一冊の写実雑誌をローズは手に取る。

『週刊アドベンチャー』というタイトルだった。

 ローズがこの雑誌を手に取った理由は一つだけ。

 なぜか雑誌のコーナーにこの一冊しかなかったからだ。

 他の雑誌は全て売れ切れてた。そのことをローズは知らない。


 その雑誌の表紙にはとても可愛い格好をしたアリムとミカの写実が描かれていた。



「本当に有名人だったのだな…」



 そう言いながら、彼女はパラパラと立ち読みをしてみていたのだが、あるページで手を止める。

 それはアリムとミカのインタビューと活躍の詳細が書かれたページ。


 そこで、ローズはアリムとミカが何者なのかを知る。



「…………とんでもない奴らだな、あの2人は……。そうか、魔神の一柱を倒したか。近い内に会いに行くと言ったが…こんな偉大な者に気軽に会って良いものか……」



 ローズはその記事の内容を読むのに夢中で、後ろにいる小太りの男…その本屋の店長に気がつかなかった。



「嬢ちゃん、立ち読みはやめてくれんか?」

「ん…うわぁ…あっ…えっと…すまな…いや、ごめんなさいっ……」



 とっさに、ドラゴンとしての偉そうな喋り方ではなく、普通の話し方をするローズ。

 こういう知識はスキルの力だ。



「まぁ、わかれば良いさ。ところで君は竜族か?」

「え、ええ、まぁ」


 

 ローズは声がすこしうわずったまま返事をした。



「そうか、なら他の国から来たばかりだろう? 他に竜族は居ないからな、この国は。その娘達のことは知ってるか?」

「んと…ぇ…っと」

「なに、知らんのか? ならその雑誌はタダであげよう。何故か1冊だけ残ってたんだ」

「い…いいのか?」

「まあな、この娘達のことは、この国…いや、もう既に全アナズム中で有名だ。知っておくべきだからな。それに、この娘達のおかげで、最近、本がよく売れるんだ」



 ガハハと、さも気前が良さそうに店長は笑う。



「あ…その、感…いや、ありがとうございます」

「おぅ、いいってことよ」



 ローズはその店を出た。


 新しい世界を求めて歩き始めて早2分。

 彼女はなんだか、今まで広く感じた世界が、急に狭く感じた。



 

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