第202話 元、竜の少女 -3-
「本当に…それだけでいいの? ローズ」
ミカがローズにそう訊いた。
一人立ちの準備とご飯をご馳走するだけで本当に良いのか?
ローズは、今度はジトッとした目で不満を言いたげに、こちらを見てくる。
「何度も言わせるな。我は望んでいる」
「そっか……まぁ、ローズがそう言うなら」
「そだね…全力でサポートするだけだよね」
新しい暮らしのサポートなら、俺の得意分野だ。
なんせ、アイテムマスターだからな。
「ふむ、そう言ってくれるとありがたいな。冒険者になると同時に我はここを去るつもりだ」
「うん…わかった。本当にそれでいいんなら、仕方ないね。ローズの考えを優先するよ。だったら、まずは準備しちゃおう、ね?」
「あぁ、了解した」
ソファの上に両手を置き、ローズはコクリと首を頷かせた。
「じゃあ…まずはどうしよっか? 屋敷の案内は…今日しか居ないんだから必要無いよね?」
「いや……稀に遊びに来たい。案内してくれ」
「ん、わかった。じゃあ今から案内しよっか」
俺は瞬く間にお皿を片付け、ローズとともに2時間ほど、この広い屋敷の案内をした。
どの部屋に入るにもローズは目を輝かせていたが、ミカもどうやら知らない部屋が結構あったみたいで、新鮮だったと言っていた。
最後に、客間…つまり、今日だけ彼女を泊める部屋を見せた。
ローズはしばらく息を飲む。
「なあ、アリムよ。我はこの部屋にぴったりな言葉を知ってるぞ?」
「なぁに?」
「無駄に豪華…とは、この時に使うのだ」
んー、そうかな…?
ただ単にメフィラド城の最重要客間をベースに、自分が憶えてる限りの超高級ホテルとかを参考にしただけの部屋なんだけどな。
「それに……あの汝ら二人のためだという部屋に居た時から思ってた事があるのだ」
「なぁに?」
「……我が以前、ダンジョンのボスだったからか…なんとなくだが分かるのだ。この屋敷自体…とんでもない宝の山だろう? 例えば、あの窓ガラス1枚にしろ、カーテン1枚にしろ……今、私が着ている服も含めて」
そう言って、ローズは廊下の窓を指差した。
へぇ、感覚で価値がわかるのか…たしかに、ここは物の価値がわかる人にとってはとんでもない宝の山だろうね。
なんせ、消耗品と衣類以外は全部伝説級なんだもんね。
普段、俺とミカはアイテムの効果をすべて、わざと一時的に価値を下げるエンチャントを使って、力をセーブさせて使ってるから大丈夫なんだけど…。例えばベッド。
セーブを外すと…多分、今までちゃんとした寝床で寝た事が無いひとならば、一度寝たら二度とベッドから降りれなくなるんじゃないかな?
まぁ…とにかく、屋敷にあるアイテムほとんど全部、そんな感じなんだよね。
「あ、わかった? ほとんど伝説級のアイテムなんだ。いや、この屋敷自体、伝説級のアイテムなんだよ。普段着とかは人目につくから、わざと最高級や国宝級で止めてるけど……」
「ね、ね、アリム。ローズがなんか魂抜けたみたいになってるけど……」
「あ、ほんとだ」
ローズは口をあんぐりと開け、立ったまま気絶していた。
そうか…普通の人がこの屋敷の価値を知っちゃうとこうなるのか。
とりあえず、ローズとは俺とミカでローズを泊める予定だった客室のベッドに、勿論、価値をセーブして寝かせた。
20分たってもなかなか起きないから、しまいにはアイテムを使って無理矢理起こしちゃった。
「はっ……!? 我は一体…」
「びっくりしたよぉ…ローズ。いきなり気絶しちゃうんだもん」
「これはすまない。なんだか、悪い夢を見ている気分だ」
ローズは目をこすりながら、フッと、呆れるように笑った。
「へぇ、どんなの?」
「至る所に、当たり前のように宝が転がってるんだ」
どうやら衝撃的すぎて記憶まで飛んじゃたみたいだね!
「ん? それ夢じゃなくてウチのことでしょ? あ、他言禁止ね、泥棒さん入ったら困るから…絶対に侵入できないようにはできてるらしいけどね」
ミカはローズにそう言った。
ローズは自分の額に手を当て、溜息をつく。
「なんだ…夢ではなかったのか……汝らはどういうことなんだ? おかしいだろ、どう考えたって。こんなこと、他言しても信じてはもらえまい……。で? 本当に仕組みはなんなのだ? まさか、ダンジョンを500以上完走したとかでもあるまい?」
このまま、疑問を残してもかわいそうだし、俺は自分のスキルの力を教えることに決める……前に、ミカに相談だ。
今、ヒソヒソ話すわけにはいかないから、メッセージで。
【ミカ、ボクのスキル、教えるべきかな?】
【別にいいんじゃない? だって、この国の人達はみんな知ってるじゃないの】
【そうだったね】
てなわけだから、俺はローズに自分のスキルの能力がどういったものかを教えた。
教えている間、ローズはずっと驚いていた。
「道具を自由に作れるマスターのスキルか、それは強くて当たり前だろうな。しかし、伝説ですら自由自在に作れるというのは嘘だ……と、言いたいところだが、それ以外ではこの宝の山の屋敷は説明できぬよな」
「えへへ、そういうことっ! ちなみに、ローズに渡したマジックバッグも伝説だし、これから一人立ちの準備するときに渡すアイテムもほとんど全部、伝説級だと思ってね?」
俺がそう言うと、ローズは黙ってしまった。
暫くして、ローズは一つ大きな溜息をつき、こちらを見た。
「なにも……準備は少しでいいんだぞ? 5000ベル程借りられたらそれで…。無論、金は生活が安定し次第返しに来るし…」
「えー、お金渡すんだったら…ねぇ? ミカ」
「そうだね…50億ベルくらい渡すけど……」
「はぁーっ!?」
ローズ、今度は大声を出して驚いた。
「ごっ…ごご…50億ベルっていくらかわかってるのか!?」
「1億ベルの50倍だよ?」
「それはそうだが、いや、そうじゃなくて……なんで汝ら子供が…SSSランカーとはいえ、そんな額を持っているんだ? おそらく嘘ではないな。渡すということは、その50億ベルですら全財産の一部なのだろう?」
「まぁね……色々とあったから」
そう答えたミカは、遠い目をしている。
そうだね、一言であらわすには色々あった…が一番だよね。
「……ますます、わからぬ。汝ら…何者だ?」
「王都で暮らしてるうちに、嫌でもわかるよ? ねーっ」
「ねーっ!」
俺とミカはにっこり笑いながら首をかしげて声を合わせる。1ヶ月半もの間、たくさんのファンを虜にしてきたしぐさの1つだ。最初、これのなにがいいのかさっぱりわからなかった。
しかし、カイムさんにその写実を見せられて以来、俺自身、それの良さがわかった気がしなくでもない。とりあえず、ミカが可愛いかった。
「そ…そうか…。じゃあ今、きかなくとも良いな」
「ま、そだね。で…結局、生活の準備はアイテムとお金……どっちがいい?」
「我が汝らから何かもらうことは決定しているのだな…」
「うんっ!」
ローズは諦めた様な表情を顔にあらわにしてから、数分悩んだ結果…。
「ならば……アイテムでたのむ」
「了解!」
アイテムを選んだ。
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