第201話 元、竜の少女 -2-

 ゴールドローズクィーンドラゴンのステーキが完成した。

 椅子の上に律儀に座っているローズの前に、ステーキを出した。



「うぉぉ…すごく美味そうだな…いい匂いだ」

「ナイフとフォークの使い方はわかる?」

「大丈夫だ、おそらくな」



 そう言って、彼女はフォークとナイフを器用に使い、ステーキを一口大に切る。



「いただきます」

「召し上がれ」



 ローズはステーキを口に含み、噛んだ。

 カランと音がする。ナイフとフォークを机の上に落としたみたいだ。それに、なんだか身体が震えているみたい。

 やっぱり、元自分の身体の肉なわけだし……口に合わなかったかな?



「うぅ……美味だ……何たる美味っ!! この世のものとは思えないっ!」



 あ、おいしくて震えてたのね。



「そう、喜んでもらえて良かったよ」

「いや…美味いなどという段階ではない……なんなんだ、どうなってるんだ? 母なる迷宮から得た知識でも、料理がここまで美味いとは……」

「まぁ、アリムは『アナズム一の料理人』って称号持ってるし」

「な…なんとっ…!? アナズム一の料理人だと?」

「えへへ、まぁね」



 ローズは席を立ち上がり、俺の元へ駆け寄ってきて手を握った。

 なんだ、何事だ。



「頼む…稀にで良いから、我に飯を作ってくれ…」

「あぁ…まぁ、いいけどね」

「恩にきる!」



 すごく、嬉しそうな表情をしている。

 俺にそう、お礼を言うなり席に戻り、ステーキを再び食べ始めた。


 ミカが俺の耳元までやってきて、囁く。



「(頼まれちゃったけど…どうするの? どのくらいのペースで作るの?)」

「(いや…今日からしばらくは毎日かな? しばらくしたら3日に1回ぐらいにしようかと)」

「(それってローズも一緒に食べるの? 私と二人っきりであーん…とか食後のチューとかする時間は?)」



 食後のチュー……!? なんだそれ、初めて聞いたぞ。

 ミカは俺の肩を掴んで身体を揺さぶっている。



「(ん…まぁ基本は料理だけ持って行って…たまーに一緒に食べる位でいいと思うけど……ところで、食後のチューって何?)」

「(食後のチューは食後のチューだよ? 今度から食後にキスしよっかなーって)」

「(そりゃまた、なんで? 寝る前とか朝起きた時とか、添い寝してる間とかじゃダメなの?)」

「(あ…そっか、ならそっちで)」



 ということは今後、ミカとは毎日最低3回はキスするのか…。えへへ、構わん。



「ごちそうさま! 食べ終わったぞ!」



 そう、ローズの元気な声が聞こえる。

 ミカと俺が話してる内に食べてしまったか。早いな。

 俺とミカはそちらに向かう。



「おぉ、よく食べたね。結構、量があったと思うんだけど」

「おいしかった……食事をするというのは至極幸せだな……」



 ローズの目がウットリとしているのがわかる。

 そのうち大食らいになりそうだなぁ。

 で、ローズがご飯を食べ終わったから、次はローズが今後、どう暮らしていくか決めないとね。



「ローズ、食べ終わったばかりで悪いんだけど、大事な話をするからソファに座ってくれる?」

「む…了解した」



 俺の言った通りに素直にソファに座る。



「大事な話ってのは…ローズが今後、どう暮らしてくかなんだけど……」

「なんだ、そんなことか。我に考えがある」



 なんだ、考えって…。ニ、ニートとか?

 俺の実験のせいで、人間になってしまった責任があるからそう言いだされても断れないな。

 

 しかし、ローズは俺の考えとは別の答えを言った。



「まず、明日にでも冒険者になろうと思ってな」

「え…? 冒険者に?」

「なんだ? なにかおかしいことでもあったか?」



 冒険者、冒険者になるだって…?

 なんでまた、冒険者を選んだんだ?



「どうして?」

「どうしてって…働いて金を得るためだが……? それに、我は戦うこと以外できぬしな」



 ローズはもしかして一人立ちする気でいるのか?

 でも確かに一人立ちする気なら、ローズが暮らしていくにはそれが良いかもしれない。

 ローズってば、ステータスはSSランク亜種のままだし。


 それでも…人間になってすぐに自立しようだと考えるとはね。



「確かにそうだけどさ、まだ人間になったばっかりなんだよ?」

「そうだがな。我はいろんなものを見たいんだ。汝らに迷惑はかけたくないしな。準備が出来次第…そうだな、明日にでも冒険者になると同時にここも出でいくつもりだ」

「迷惑をかけたくない……?」

 


 迷惑…でもやっぱり、多少なりとも迷惑をかけられても、こっちは文句は言えないんだけどなぁ…。

 それに準備って割とすぐできそうだから、すぐにででいくという事になりそうだけど…。



「あぁ、そうだ。汝ら、もし冒険者ならば、ランクがかなり高いだろう? 何ランクだ」

「私も…アリムもSSSランカーだけど…」



 ミカの返事を聞いたローズとは深く頷く。



「やはりな。この我を圧倒する強さだ…SSSランクのはずだ。ならば忙しかろう?」

「ま、まぁそれなりには…」

「それに…………」



 俺とミカの方をキョロキョロと交互に、ローズは見比べる。

 それを数回繰り返すと、何かに納得したように軽く頷いた。



「汝らはこの屋敷に2人で恋人同士として住んでいるのだろう? 同性だが」

「うん、そうだよ?」

「なら、我は邪魔だろう?」

「ぁぅ…でも…ボクには君を半強制的に人間にしちゃった責任があるし……」



 そう言うと、ローズはやれやれとと言った表情をしてから、少し微笑んでこちらをじっと見つめてきた。



「我は人間になれて心地良い。感謝すらしているのだ。汝らが責任を感じる必要はない。どうしてもと言うのなら…我が人として暮らせる手助けをいくらかしてくれれば良いわ………あと、稀に飯な」



 俺とミカはローズのその発言に、互いに顔を見合わせた。

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