第192話 パレード

 おはよう! と、元気にいきたいところだけど。


 ……やべえ、腕の感覚がねぇ。

 片方はミカがずっと抱きついてたから。これは良しとしよう、前もあったから。

 もう片方…つまりカルアちゃんだな。

 まさか寝てる間にミカと同じ格好をしているとは思わなかった。腕が痺れる、そして動けない。


 どうする? 俺が最初に起きたからと言って、二人を起こすのは申し訳ない。

 仕方がないからもう一眠りするかな?



「んっ………ふぁ」



 と、思っていたらミカが起きた。

 それと同時に俺の腕から離れる。すごい、腕に血が流れこむ感覚がする、なんつー強さで俺の腕にしがみついてたんだ。


 ミカが起きた直後、カルアちゃんがなんの物音ひとつ立てずにスッと起き上がった。

 俺の腕に未だにしがみついたままだ。



「おはよう、カルアちゃん」

「おはようございます、アリムちゃん……あっ!」



 慌てて俺から離れたカルアちゃん。

 こっちの腕にも血が流れてくる感覚がある。



「ご、ごめんなさい!」

「気にすることないよー、カルアちゃん。アリムだって嫌がってないし」



 ミカは痺れがおさまり始めていた片腕に再度しがみついた上に、ほっぺをプニプニとつつき出した。

 それにつられ、カルアちゃんは恐る恐るというわけでもなく割とノリノリで俺の腕にしがみつき、同じようにほっぺたをつつき出した。



「相変わらず柔らかいねー」

「本当ですわ」



 この後2分ほどこのままだったけれど、メイドさんが起こしに来たから解放された。

 そのまま食堂に向かい、料理長さんが作った朝食を食べる。

 今日はパレードだからか、朝っぱらから豪華なものばかりだ。



「今日のパレード…お祭りっていつからでしたっけ?」



 俺はたまたま近くに居た大臣さんに訊いた。



「おお、始まるのは午前10時、今から3時間後ですな。ですが…一度外を見てみて下され」



 俺とミカ、そしてカルアちゃんは言われるままに食堂の窓から王都を見る。

 その光景はまさにお祭り。

 たくさんのお店や屋台は飾りつけをしており、いつもとは全然雰囲気が違う。

 それに、普段も人が多い王都だけれど、今日は多いなんていうレベルじゃなかった。

 なんて言うんだっけ、こういうの…ごった返してるだっけな。


 とにかく…楽しそうだ。



「うわぁっ…すごいですね!」

「うん本当…あの飾りつけって、いつの間に準備したんだろうね?」


 

 そんなカルアちゃんとミカの疑問に大臣さんは答えた。



「あれらですかな? どうやら皆、勝利宣言が終わってからすぐに準備をしていたみたいですな。主に飾りつけ用のマジックアイテムを使った様で」



 なるほど、装飾を早くすませる効果があるマジックアイテムもあるということか。


 朝食を摂り衣服の準備をした後、俺ら3人は10時になるまで遊んだ。


 途中、ダメもとでカルアちゃんに街中を一緒に巡ってみないか訊いてみたら、即答でOKが出された。

 カルアちゃん曰く、前もって国王様に俺とミカとパレードが終わり次第に街中を巡っても良いか訊いていたそうで、魔法やマジックアイテムを使用して3人とも別人に変装するならば構わないとのこと。良かった。



 あっと言う間に10時になる。

 勝利宣言、勇者宣言をした場所と同じ場所に国民達が集まっていた。

 そこで、昨日と同じ様に国王様は演説をした。


 

「______というわけだ! 今日は祭りを楽しむが良い!」



 国王様の演説が終わった同時に、彼は何かに合図を送る。そして鳴り響く軽快なトランペットの音。

 それとともに城の中から大勢の兵士が行進し、楽器を手にしながら出現した。

 この世界でもパレードというのは、地球のものと変わらないのだろう。



「さ、行くぞカルア、アリム、ミカよ。後ろについてこい」



 国王様の言う通りに国王様の後ろについていく。

 国王も城から出て、いつの間にか合流したカルナさんを加え、楽器を持った兵士達の最後尾へとついた。



「きゃーーー! アリムちゃん、ミカちゃん可愛い!」

「おぉ…聖女様だ…ありがたや…」

「恵みの巫女様と、カルア姫様、カルナ妃様もいらっしゃる……」



 そう、野次馬から声が聞こえた。

 ちなみに、『恵みの巫女』とは、ミカについたあだ名である。自力で魔物を滅ぼす雨を降らせ、その魔物により国に潤いを与えたからこの名前がついたのだと、ミカは推測していた。それで合ってると思う。

 また、ミカも『魅惑の女神』を手に入れたのだとか。


 パレードの行進は街の中を練り歩く。

 俺らはひたすら国王様の後ろをついていく。

 それにしても俺に声をかけてくる人が多すぎる。

 この様子じゃ、今後、変装やらなんやらをしなければロクに外も出れそうに無いな。


 それにしても、中々楽しい。

 軽快で響き渡り、元気が出る様な音楽と、度々行われるパフォーマンス。

 友らと一緒に参加して、楽しさを共有できるのがなお、楽しい。


 町を一周する様に歩き回り、パレードが終わったのはその3時間後であった。

 城に戻った俺たちは国王様からカルアちゃんの面倒を頼まれ、3人で街へと駆け出す____。

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