第193話 勝利のお祭り
俺とミカとカルアちゃんは3人で城から出て街を周り始めた。
3人で…と言ってもカルアちゃんはこの国のお姫様だし、俺は勇者、ミカもまた然り。
俺らのうち誰か一人にでも何かあったら、大きな問題になるから、俺たちの邪魔にならない数メートル後ろから、私服を着た騎士達が付いてきてる。
俺らの見た目は勿論、俺が作ったアイテムによって顔の構造やら色々と変化しているように周りに見えている。
大きな変化は…俺なら、赤色の髪だったところをオレンジ色にしてるし、ミカは黄緑色の髪を青にして三つ編みに、カルアちゃんは金髪を銀髪に変え、ポニーテールにしている。
ただ、一定以上の親密な関係の知り合いだったら、俺らのことがわかるようになっている。
「たくさんお店がありますね!」
「そうだね…どこからが良いかなぁ?」
「私はどこでも良いけれど…」
そんな中、俺は焼き鳥屋さんに目がいった。
「じゃあ、なんか食べようよ! そこの焼き鳥とかさ!」
「良いわね、カルアちゃんもホラ!」
「はっ…はいっ!」
俺たちは焼き鳥屋さんへと駆けて行き、その店の前で脚をとめた。
その焼き鳥屋さんではちょっと調子が良さそうな顔をしているおじさんが、焼き鳥を焼いていた。
「おじさーん!」
「あいよっ! おお、可愛いお嬢ちゃん達、何が食べたいんだい?」
メニューには塩とソースとがあった。ソースは多分、タレだという認識で良いだろう。
「じゃあ…塩3本で!」
「塩3本ねっ」
おじさんは塩の焼き鳥3本を俺たち一人ずつに手渡した。
「一本11ベルだけど、嬢ちゃん達にはオマケしちゃうよ! 10ベルでいいぜ」
「わぁ! ありがとうございます!」
俺らはおじさんに大銅貨3枚を渡し、その店の前を去った。
「はい、カルアちゃん」
「あ、ありがとうございます……」
カルアちゃんに焼き鳥を一本、渡したが、食べずに何やらまじまじとその焼き鳥を見つめている。
「どうしたの?」
「いえ、お祭で何かを食べるというのは初めてで…。なにせお祭の時にお城の外に出たことがありませんでしたから…」
「そうなんだ、お祭りで食べる物は美味しいとかそういうの関係なしに風情が楽しめるからね」
「は、はぁ…」
カルアちゃんはおそるおそるその焼き鳥を口に入れた。
そして串から一個だけ肉がなくなった焼き鳥をまた、まじまじと見つめながら噛んでいる。
「どうかな?」
「そうですね…なんかこう…また、お料理とは違った感じがありますね…特別な感じというか…アリムちゃんの言った通りです」
「でしょー!」
そんな中、唐突にミカが俺の肩を軽く叩いた。
「どうしたの、ミカ?」
「………私の分……」
「あ、ごめん」
俺はミカに焼き鳥を渡そうとしたが、ミカはそれを受け取らず、無言で口を少し開いている。
「…いらないの?」
「見てわかんないの? あーん」
「えっ…でもカルアちゃんが見てるし……」
「ふふふふふ、私は構いませんよっ」
「ほら、カルアちゃんもそう言ってるし」
マジか。
てなわけで、俺はミカの分の焼き鳥をミカの口の中に一個分入れた。
ミカはそのままそれを食べる。
「ん、ありがと。じゃあ後は自分で食べるから」
「あぁ、そうなの」
ミカは自分の分の焼き鳥を俺の手から取っていった。
しかし、また、俺は誰かから、肩を叩かれた。
というか、叩いた相手はカルアちゃんだ。
「どしたの?」
「はい、これ。私もお願いいたします」
そう言って、自分の焼き鳥を俺に手渡そうとするカルアちゃん。
カルアちゃんもやって欲しいのか、アレを?
「やって欲しいの?」
「えぇ、ミカちゃんがとても嬉しそうでしたから、私もやって欲しくなりまして…ダメでしたか?」
「いや……いいけどさ」
俺はカルアちゃんからカルアちゃんの分の焼き鳥を受け取り、ミカにしてあげたのと同じように食べさせた。
カルアちゃんは一つ、肉を口に入れてから無言で噛み続ける。が、なんか納得したような感じではない。
「んー、特に味とかは変わらないのですね?」
「まぁ、そりゃそうだろうね」
「よくわかんないです」
そう言って、カルアちゃんは俺の手から自分の焼き鳥をもどし、それを食べ始めた。
俺は誰からも、特にアーンをさせてもらうことはなく、ただ普通に食べただけだった。
なんか焼き鳥を食べていた間、終始、周りにいた人たちが微笑ましくこちらを見てたような気がする。
焼き鳥を食べ終わった後、また食べ物系の屋台を巡る。
次に食べたのはりんご飴のように、このアナズムで広く出回っている果物丸ごとを飴で絡めた代物。
結構、こういうのってどこへ行ってもあるものなのね。
んで、サンドイッチの屋台もあった。
当たり前のことだけど、今年から出店したらしい。メニューに書いてある具材から好きなものを選ぶと、パンに挟んでくれるという形式。
でも高い。まずパンのベースの料金が30ベル。んで、おそらく20ベルくらいの果物4分の1カットの蜂蜜漬けを挟むとプラス15ベル。
大体原価10ベル程度で45ベルかかる。
でも、かなり買ってく人が居た。
俺たちも買った。特になんの変哲もないフルーツサンドだったよ。
サンドイッチを食べた後に、近くにあったナイフ投げ屋さんなるものの屋台に行ってみた。
「ナイフ投げ屋さんかぁ…ナイフを投げて当たった番号の景品がもらえるんだって、やってみる?」
「はい! 私、やってみても良いでしょうか?」
「カルアちゃんやりたいの? じゃあやってみようか」
そんなわけで、カルアちゃんはそのナイフ投げに挑戦した。50ベルで5投できる。
俺とミカはやるつもりがなかったから、カルアちゃん1人の分を屋台のおじさんに支払った。
「頑張ります!」
「おぉ! がんばれー!」
まず1投目。
なんと1投目からカルアちゃんは14番と書かれている的に当たった。
「わあ! 当たりました!」
「すごいー! カルアちゃん!」
カルアちゃんはおじさんから景品を受け取った。
日本で言えば、お菓子の大袋とでもいうべきの物だった。
ちなみに、カルアちゃんはレベル1らしい。
この間、ティールさんが言ってた。
というか、この世界の人は基本、冒険などの戦う職に就かない限りはみんなレベル1らしいけどね。
カルアちゃんは2投目、3投目と外し、4投目……なんと、1番に当てた。
1番はその番号のとおり、かなり難しい箇所にあったんだけど…。
おじさんがどこからともなくハンドベルを持ち出し、それを鳴らした。
「すごい! お嬢さん1番に大当たりっ!」
周りの人も、感嘆の声を漏らしている。
カルアちゃんは照れている。
その屋台のおじさんからカルアちゃんが受け取ったものは、大きなオドド鳥を可愛くしてぬいぐるみにしたやつ。
それも、俺らぐらいの大きさがある。
そのぬいぐるみはカルアちゃんが自分のマジックバッグへとしまった。ちなみに5投目は外した。
ナイフ投げ屋さんの次は、くじ引き屋。
これにもカルアちゃんは興味を持った。
「アリムちゃん、カルアちゃん! 私、これやりたいです!」
「いいよー!」
「さっきのカルアちゃん、すごかったもんね。またなんか取れるかもよ」
ミカのその言葉は本当となった。
10ベルで一回のくじに挑戦したカルアちゃんは、見事、1発で一等を引き当てた。
それにはさすがの俺とミカも口をアングリ。やっぱりすごい豪運だな。
因みに、カルナ様はそんなカルアちゃんよりも豪運であるわけだけど。
その店での一等の景品はマジックバッグだった。
確かに、普通のよりはかなり量が入るみたいだったけど、俺たちにはいらない。
カルアちゃん、一応もらったみたいだけど、実用することはないと思う。
その後も沢山の店を、夜の6時までまわった。
沢山遊んで、城に帰ってくるなり俺はまた料理を作り、魔法により作り出された、この祭りの目玉だという花火を見ながら食べる。
今日は中々楽しかった。カルアちゃんもどうやら心底楽しんでくれたみたい。よかった。
全てのことが済んだ後、昨日と同じように城に泊まる。
相変わらず、ミカは俺の腕にしがみついている。
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