第184話 戦争後の帰宅

「ふぃ…疲れたよ…」



 俺はまず帰ってくるなりソファに転がり込み、溜息をついた。

 伝説級のソファ…やはり座り心地が至高だ。



「本当、アリムすごく頑張ったもんね」



 ミカも俺の隣に座った。

 そして、俺の頭を撫で始める。

 そういえばミカに撫でられるなんてこっちに来てから初めてなんじゃないか?

 いや、そうでもないか。



「ん…ミカも頑張ったじゃん。おかげで敵は全滅したんだから」

「そうだけれど…途中で死んじゃったから、折角1日かけて作った魔法がすぐに消えちゃったのは残念だったかなぁ…」



 確かに1日ずっと瞑想してたからな、ミカは。

 頑張ってためた魔力が途中でパーにされたらそりゃ残念だろう。

 


「まぁ、あれをする機会は今後、そうそうないと思うよ」

「そうだと良いんだけどね」



 ミカは俺の頭を弄るのをやめ、手を握ってきた。

 俺はその手を握り返す。



「でもさ、これからまた、一緒にゆっくりできるね! アリム」

「いや……多分2ヶ月くらいずっと忙しいよ? こんなにゆっくりできるのは今日ぐらい」



 そう言うと、ミカは残念そうな顔をした。



「ぁ…そうか、勇者だもんね。それにアリムは元々人気があるから……仕方ない…か。でも、私、待ってるから…」



 ミカは俺の肩にもたれかかってきた。

 その頭を握ってない方の手で、今度は俺が撫でる。

 それにしても、ミカは何か勘違いをしているようだ。自分は忙しくならないとでも思ってるのだろうか?

 


「……多分ミカも忙しくなるけど?」

「ふぇ?」



 案の定、そうだった。

 ミカは豆鉄砲でも食らったかのような顔をしている。かわいい。



「いや、だってさ…ミカはボクの唯一のパーティメンバーであって…さらに今回の戦争で大活躍したんだよ?  きっと、すごく忙しくなるよ」

「うわぁ……やだなぁ…」



 ミカは心の底から嫌そうな表情をしている。

 それにしても今日はコロコロと表情が変わるなぁ。

 俺はミカの頭を撫でながらふと、時計を見た。

 いつの間にやら帰ってきてから30分経っていた。

 そろそろ夜飯にしようかね。



「……だから、今日はのんびりしよう! …とりあえず、そろそろお夕飯食べようか。ボクが作るよ。何がいい?」

「やったぁ! …うーんと、今日は日本食が良いかなぁ……」

「わかったよ、じゃあ今日はねぇ……」



 何にしようか。

 折角の戦争に勝利してからの料理だし、何か、お店で食べたら値がはりそうな料理がいいよね。

 

 鯛の塩焼き……?

 お寿司…?

 懐石料理みたいなのもいいかな。


 いや、俺らは疲れてる。

 ここ五日間働きっぱなしだったから…うーんと、だったら……うなぎ!

 そう、うなぎが良いんじゃないかな。

 精力がつくっていうじゃない?


 よし、決めた! うな重にしよう。



「うな重にしない? 疲れてる時には精力がつくものが良いって、よく言うじゃん?」

「そうだね! うん、良いんじゃないかな?」



 というわけで、うな重を作った。

 タレにこだわった以外は特に普通のうな重(伝説級)。

 それを俺は机に並べた。



「美味しそうね、相変わらず」

「えへへ、でしょー!」



 ミカはいただきますと、言うなり、一口食べる。



「ん! すごく美味しい」

「ありがと」



 そして次に、自分のうな重の端を箸で切り崩し、掴んだ。

 そのうな重を箸の下に手を添えながら俺の口のそばまで持ってくる。



「はい、アリム! あ~ん」



 俺は言われた通りに口を開け、ミカの箸の上にあるうな重を口に頬張った。



「あむっ! …うん、我ながらうまくできてますな」



 俺が感想を述べると、今度はミカが口を開ける。



「え、ミカもやってほしいの?」



 コクリと頷く。

 俺はミカと同じようにうな重の端を切り崩してつかみ、ミカの口まで持って行った。

 ミカは俺の箸の上にあるそのうな重をとても嬉しそうにほうばった。



「んふふ、美味しいっ」

「よかった」


 

 しばらくして夕飯を食べ終わった俺達は次に風呂に入ることにした。



「じゃあ、お風呂入ろっか…ミカからどうぞ」



 ミカに先に入ることを促すが、ミカは首を横に振った。



「じゃあ、ボクが先に入るね?」



 またしてもミカは首を横に振る。

 そしてこちらを何かを訴えるようにジトッと見つめてくる。



「あ……じゃあ、一緒に入る?」



 ミカは嬉しそうに首を縦に振った。

 


「そんなに一緒に、ボクとお風呂入りたいの?」

「ん…ん…まぁね」



 照れくさそうに、そう言った。…なら。



「じゃあ、ボク…男に戻って一緒に入ろうか?」

「えっ! …まぁ、それも良いかも」


 

 予想外の反応だ。

 エッチ、だとかバカだとか言われるかと思ってた。 

 それによくよく考えたら、俺がゆっくりできなくなるな。 お風呂で男に戻るのはやっぱりやめておこう。



「あー、やっぱごめん、ボクが良くないかも」

「なにそれ…まぁ、良いけど。とにかくお風呂に入ろう? 早くさっぱり____」



 どうみたって、俺チキンじゃねーか、これ?

 それにしても…この反応。


 もしかしたら、いけるんじゃないか? 近いうち…いや、今夜、風呂から上がって、一緒に寝るとき。もうちょっと、ミカにせまってみてもいいかもしれない。男として。 お風呂は流石に恥ずかしいけど。


 キスまでなら何回かしている、でもそれ以上はした事がない。

 それにキスをしていると言ってもほとんど、女の状態で…だ。


 俺もミカも……また、いつ死んでしまうかわからない。 もうちょっと付き合ってるらしいことしても良いんじゃないか? 

 この世界、俺らは今、割と優雅に過ごせているけれど、いつどこで、何があるかわからない。……例えば、死…以上の別れとかがある可能性もある。封印とかね。

 もし、そういうことになった時に、もっとああしとけばよかった、こうしとけば良かったと後悔はしたくない。


 でも本来なら……俺はそういう行為は好きじゃない。  

 個人的に、不純だと思っている。それに、ミカを大切にしたいんだ。

 

 だったら……やっぱり、やめるべきか?

 その…デ…ディープキスなるものをやってみるのは…。

 やっぱり早いか? 求め過ぎてミカに嫌われたりしないか? 嫌われたらどうしよう。

 かと言って、『今からキスするか許して』なんて言うとか流石にカッコ悪いしなぁ…。


 でもなぁ…。

 ううん、俺も外見は女だし、精神感覚も女だけれど、心や記憶は男だ。

 ならば、やっぱり腹を据えてアタックしてみよう。今よりもっと。

 もし、嫌がられたり嫌われたりしたら、外で頭でも冷まして、しばらく家には帰ってこないようにしよう。

 それが良い。



「アリム…どうしたの? お風呂はいらないの?」



 ミカは俺の顔を覗き込んだ。

 しまった、しばらく考え込んでたか。



「ああ、ごめんごめん」



 とにかく、そろそろお風呂場に行こう。

 話はそれからだ。

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