第183話 先代勇者
俺達は城前までやってきた。
ギルマーズさんの姿が見えた。
他に二人…男の人と…カルナさんに似てるような気がする女の人が居る。
ギルマーズさんが会わせたい人って、この二人のことだろう。
でも、本当に誰だろう?
ギルマーズさんのパーティのメンバー…でもないよな。
勇者宣言の時見なかったし、あの二人。
「すいませんね、呼び出してしまって…王様」
「いや……構わんよ。ギルマーズはこの戦争でも大いに活躍してくれたしな」
この会話の間に、ティールさんはその二人をジッと見つめ始めた。
「それで、その者らは?」
「こいつら…いえ、この方々はですね……」
ギルマーズさんがそこまで言ったその時である、ステータスを見ていたはずのティールさんは、うわっ…と、大きな驚きの声を上げた。
「ん? どうしたんだ、ティール」
「い、いえ、お父様……ギルマーズさんが連れているあのお二人……先代の勇者と当時、悪魔神の生贄となったメフィラドの血筋の女性…全くの同姓同名です」
「なんだと!?」
今度、驚いたのは国王様だけでなく、俺もミカも、他三人全員が驚いた。
いや、確かにメフィストファレスが先代勇者かもしれないなぁっ…て、考察したりしたけど、あれは光さんだったし…もう、先代の勇者が実は生きてるなんてことは無いと思ってた。てか忘れてた。
でも、そう、確かに俺が生き返らせた人達の中に、そう言えばハルマゲドンが死因じゃない若い人が二人居たんだよな、まさか。
「ほら、ヘレルからも…なんか言えよ」
ヘレルと呼ばれた元勇者であろう人が、口を開いた。
「お…俺は…ヘレル・ベンサハルと言います。この間まで、悪魔の幹部として……悪魔神に仕えておりました」
「なっ……………なんと!?」
本人から語られる、衝撃。
国王様は、小声で『二人も居たのか』と呟いた。
…元勇者が悪魔達の幹部として働いていた…だと。
やはり、俺の推測もあながち間違ってなかったのか。
「それは…どういうことなんだ?」
俺が思ったことを口にした大司教さん。
それに、男は答える。
その話はあまりに壮大であった。
かなり、俺達みんなが知っている勇者の物語とは話が違うからだ。
俺は、話の最中に密かに嘘発見器を作成し、使ってみたが、どうやら彼が話している話は全て本当のようだ。まじかよ。
「____そして今、ここでこうして蘇りました…現勇者殿の御力で」
「成る程……な」
国王様も半信半疑だ。
しかし、ティールさんは彼のステータスの中から『ブレイブ』の称号を見つけ出し、さらに俺が国王様に嘘発見器の結果を報告したため、その話は信じられることとなった。
「で…どうしたいんだ? 元勇者よ」
国王様は少しきつめにそう言った。
それにヘレルは、覚悟をしているのか、しっかりとした口調と顔立ちで返答をした。
共に、ゆっくりと土下座する。
「それは……俺の…やったことは、国を裏切る行為、無論、許されません…俺が裏切ったことにより『ブレイブ』を持つ者も300年間生まれなかった。ですからいかなる罰でも受ける覚悟でございます、現メフィラド国王様。ですが……」
伏せていた顔を上げ、国王様をヘレルは見上げた。
「俺の…俺の愛する人も共に生き返ったのです…300年の時を超えて、再開できた……どうか、数日間だけ慈悲を下さいませんか? お願いします、どうか……」
再度、頭を下げ、おでこを地面に擦り付ける元勇者。
300年……だもんな。
300年も愛しい人と会えないって、どんな気持ちなんだろう。
きっと、それは耐えられないぐらいに苦しいに違いない。
仮に俺だって、ヘレル…いや、ヘレルさんと同じ境遇だったとしたら、恋人を生き返らせられる手段があるのならば、星だって壊すと思う。
「ぁ…お、お願い致します……!」
エル…さんでいいか。
彼女も元勇者の横で共に土下座をした。
この人は元は姫だったはずだ。
もともと、メフィラド王家って腰が低めだと思ってたけど、土下座までするのか。
そして、その様子をただ、じっと見ていた国王様は口を開いた。
エルさんに対して。
「………エル、いやエル姫。顔を上げて下さい。王族が…そんな簡単に頭を下げて良いものではない」
俺に散々お願いしまくってるくせに、どの口が言ってるんだ。と、思ったことは内緒。
「は、はい……」
エルは言われた通り、顔を上げた。
その表情は明らかに涙で濡れていた。
今日は人の泣き顔を沢山見る日だな。
「そして、元勇者、ヘレルよ…顔を上げなさい」
「は、はあっ!」
元勇者は顔を上げた。
地面に額を擦りつけすぎて、赤くなってる。
「そうだな…貴方の処分はどうするかは…後日、メフィストファレスとやらの判決と一緒にする」
国王様が鋭い目つきで、元勇者の事を見る。
ヘレルさんは生唾を飲んだようで、ゴクリという音が聞こえたような気がした。
あの目は俺でさえブルッとくるわ。
「メフィスト…ファレスもいるのですか?」
恐る恐る、ヘレルとかいう人は国王様にメフィストファレスのことを問う。
「そうだ。……元は人間だと、牢中の本人から聞いた。確かか?」
「はい、自分は人間だったと…何回か聞きました」
「そうか」
国王様は自分の顎髭を弄り、何かを考えるように数秒、沈黙してから、ヘレルを睨みつけ、そのまままた話し出した。
「ともかく……ヘレル、お前の処分を決めるまで城で自由にしてて良い」
「ほ、本当ですか……!?」
「あぁ、ただし、行動を制限するマジックアイテム等はつけてもらおう…」
今度は、エルさんに向かって話しかける。
「エル姫、貴女はどうしますか? 貴女は罪人ではない。この国に留まりたいのなら、留まってもなんの問題もない」
「ゎ……私は……」
エルさんは、ちらりと元勇者の方を見ると、彼の肩に寄り添った。
「ゎ…私はこの方と居られれば何処へでも」
「そうですか……わかりました」
その様子を見て、頷いた国王様。
今度はギルマーズさんに目を向ける。
「ご苦労だった、ギルマーズよ」
「いえ……」
国王様に向かって、ギルマーズさんは一礼した。
国王様、今度は俺とミカの方を向いた。
「アリムとミカも…ご苦労だった。色々と話したい話も事はあるが………今日はもう疲れただろう。自宅へ帰ると良い。すまぬが、今日は泊めさせられぬ」
「いえっ…大丈夫です! お気持ちありがとうございます。今日は残りの時間、ゆっくり休みますよ」
「そうしてくれ」
ニコッと笑った国王様一向と元勇者の一行は、一言ずつ俺に声をかけながら…国王様はマントをひらつかせながら、くるりと後ろを向き、城へと歩き出した。
俺とミカとギルマーズさんは残る。
「なぁ…アリムちゃんよ」
「はい?」
「その…ありがとな。俺や…俺の大事な仲間達を蘇らせてくれてよ」
「いえ、ボクはできることをしたまでです!」
「そのできる事が多すぎるだろ」
「っ! それもそうですね!」
ギルマーズさんは後ろを向いた。
「俺もアリムちゃん、ミカちゃんと話したいことはあるが…やっぱり、休まないとな。…また今度な」
「はい、また今度」
そう言うと、ギルマーズさんはこちらに後手で手を振りながら去っていった。
「さぁ…ミカ、帰ろうか……大事な話があるんだ」
「うぇ…? うん、わかった」
俺とミカも、家へ帰った。
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