第181話 親友達に冥福を。
(なんでだよ……なんでなんだよ……)
お経の声と、幾人のすすり泣く鳴き声が響き渡る葬式会場の中で、喪服のかわりに制服を着た俺は、自分の無力さと、悪い意味での神の仕業・運命の悪戯としか言えない様なこの現実に嘆いていた。
俺は周りに迷惑にならないよう、至極小さな声でこう呟く。
「有夢……美花…」
有夢は俺の小学生からの友人……いや、親友で、高校2年生になってからもほぼ毎日つるむぐらいの仲だった。
修学旅行一緒に行動したりな。
来年は受験だけれど、やっぱり二人で集まって、暇さえあれば一緒にゲームする予定だった。あいつが_____死ななければ。
彼奴は…そうだな、一言で言えば『ゲーム廃人』だったな、RPG専門の。
そのくせ顔はいいからモテてたんだぞ。
告白してくる女子も一年に1~3人は居たな。
まぁ、あの野郎は一途だったから『ずっと好きな人が居る』つって、断ってたなぁ…,。
んで、そんな有夢の好きな奴が『美花』。
有夢の幼馴染なんだ。
綺麗なストレートの黒長髪に大きな黒い瞳を持った、まぁ、いわゆる可愛い系美人でよ。
男共が寄ってくるよってくる。
かくいう俺も、小学生の時に一度だけ虜になったことがある。
だけど俺は有夢には、美花への愛では勝てないって思ったとある出来事がある。
それは…小六か、小五か? ある日、美花の真上にあった窓ガラスが、飛んできたボールで割れて、その破片が美花に降り注ぐ…つー事故があってな。
その時、有夢は咄嗟に美花を庇ってよ、全身至るところに窓ガラスの破片が刺さって血だらけになったんだ。
その時、一番大きな破片が腕に刺さった。
その傷は、ずうっと残ってたな。
庇うだけなら俺にもできる。
だけどな、彼奴は美花にこう言ったんだ。
『泣かないで美花。俺は大丈夫。美花が傷つかず、俺が傷ついただけで済んだんだ。美花が傷ついてたら、俺はいやだな』
これを、ガラスの破片が刺さって血だらけの小学生が言ったんだぜ?
ありえるかよ…。
そんなわけだから、俺は美花には有夢が一番良い相手だと、考えてきたわけだ。
いや、そのことを知っている全ての男子はそう思ってただろうな。多分。
あ、因みにその時、先生呼んできたの俺だから。うん。
美花と有夢はいつも一緒に行き帰りしてたなぁ…。
もう夫婦なんじゃないかってぐらいに。
そんなんだから、俺はいつも『結婚式の仲人は俺がやる』って言っておちょくってたんだよ。
割と本気だったけど、それも。
あいつら、両思いのくせにいつまでたっても『親友以上恋人未満』を徹底してたからな。
見てらんなかったぜ。
そんなだけど俺は……二人はいつか幸せな結婚を、するもんだと思ってた。
だけどな、二週間前にそれが叶わなくなったんだ。
有夢が……死んじまったから。
死因は、マンションの屋上から花瓶が落ちてきて、それに当たったんだ。
落とした主は………わからない。
そのマンション、ベランダが無い上に、窓際に物が置けないような構造になってると警察が言っていた。
つまりは……誰かが故意に落としたということなんだが……その犯人がみつからねぇ。
しかも運の悪いことに、美花は、有夢が救急車に血だらけに積まれているとこ、医師が脈を測って首を横に振ったところまで見ていたらしい。
その日から、美花がおかしくなった。
メールにも出ねぇ、通話アプリにも出ねぇ。
美花の妹の桜ちゃん曰く、ご飯もほとんど食べず、部屋に引きこもって有夢の名前を叫びながら泣いていたとか。
葬式でもずっと泣いてたなぁ。
有夢の名前を呟いてよ。
粗方、告白しなかったことを後悔していたのだとか。
あとは、幼馴染という立場に甘えて、強気に当たってたこともひたすら、居ないはずの有夢に謝っていたらしい。
美花、有夢に強気に当たってなんか、いなかったんだが…。
むしろ、ラブラブだったというか…。
とにかく、色々と精神的に弱りきっていたらしい。
そんな美花だが、昨日、周りの説得のお陰で二週間ぶりに学校に行くと言い出し、実際登校したらしい。
しかし、その登校中に_____。
トラックに跳ね飛ばされて死んだ。
そして今、美花のお葬式中ってわけだ。
皆んな、有夢が死んだショックにより自殺したんだと最初は思っていた。
だが違った。
防犯カメラにバッチリ映ってたからな、ミカが歩道をスマホをいじりながら歩いてる最中に、歩道に乗り上げたトラックを。
警察も、少なくとも自殺ではないと言っている。
早く、犯人に捕まって欲しい。
有夢を殺したヤツも、美花を殺したヤツも。
こいつらの前であやまってほしい。
坊さんのお経が終わり、遺体を火葬前の顔の最後の顔合わせの時間となった。
各々、花を持ち、白い衣装を纏った美花の身体の周りに並べていったり、親族の方々は美花の口に濡らした葉をつけたりしている。
死化粧をした人の腕が確かだからか?
美花は寝ているようにしか見えない。すごく美人だ。
「あの世で…有夢と元気でな」
俺はそう、美花に声をかけた。
棺の蓋は閉じられる。
_____
___
__
「以上でございます。気をつけてお帰りください。火葬に向かう、遺族の方々は______」
葬式が終わった。
俺はどうしようも無い虚無感に襲われ、無意識に斎場の裏の庭にふらりと来てしまった。
「お姉ちゃん……うっ…うっ……お姉ちゃん……」
「桜……」
葬式場の裏で、眼鏡を外して泣きじゃくっている、ふたつ結びをしている少女と、可愛い系イケメンの少年。二人の中学生がいた。
あの二人は…中学二年生の、有夢の弟の叶君と、美花の妹の桜ちゃんだ。
あの二人も美花と有夢と同じように、幼馴染。
…生まれた時からだから、あの二人よりそのうち長くなるだろうな。
叶君は桜ちゃんの背を優しく、宥めるようにさすっていた。
その姿は有夢と重なる。
ここはそっと見守っておこうと思ったが___。
「あ、翔さん……」
叶君が俺に気づいたようだ。
「翔さん……ほ、本日は姉のためにわざ…わざ…」
「いや、言わなくていいよ。辛いだろう」
「はい……うぁぁ……」
俺は桜ちゃんが礼句を述べるのを止めた。
喋るのもものすごく辛そうだったからな。
「翔さん……俺…なんだろう、このなんとも言えない気持ち」
「さあ…だが、俺も同じ気持ちだ」
叶は下を向き、唇を強く噛み、悔しそうに拳を握る。
「………二人は今頃、天国で…何してんだろうな」
「……あの二人のことだから……どうせイチャイチャしてるのでしょう」
「お姉ちゃんと、アユム兄が……そうね、多分」
俺達は空を向く。
天国で、あの二人が幸せに暮らし始めてると信じて___。
____
___
__
_
__
___
____
「じゃあ、そろそろ、美花の火葬に向かおう。お父さんお母さん達、待ってるぞ」
「そう……ですね」
「はい………」
俺達がその場から立ち去ろうとした時である。
突然、足元に……よくゲームなどでみる魔法陣が現れた。
桜ちゃんはあまりに突然のその出来事に驚き、眼鏡を魔法陣の外に落としてしまった。
叶君がそれを必死に拾おうとするが、不思議な力で腕が弾かれているようだ。
そうしている間にも、俺達はどんどんと強く発光していく魔法陣に飲み込まれていき___。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます