第180話 ミカの選択
マジックルームへと入った俺とミカ。
「じゃあ、なんか良いのを考えちゃおう…一滴でもかければ生き返るんだから、スポイトみたいな感じで……」
「いや、それはもう決まっててさ、霧吹きにしようと思う」
「え、もう決まってんじゃん。じゃあどうしてこの部屋に入ったの?」
ミカは疑問に思ってることを体現するかのように、首を傾ける。可愛い。
って……そんな事考えてる場合じゃない。
俺はすこし、この戦いを思い返す。
長かったようで短かった戦いもこれで終わりなのだ。完全に。
唯…まだやるべき事はある。
みんなを生き返らせなきゃいけない。
でも、でも…その前に一つ…試したい事がある。
「ミカ、ボク…ううん、俺達も帰れるかどうか一回試してみない?」
「えっ…あ………。生き返らせるのが先って、言いたいところだけど……なにか考えがあるのね? わかった」
「ありがとう」
ミカは何を言われるのかわからないからか、真面目な顔をしてる。
ただ……俺はこの世界から離れられるのかどうかを考えたかったんだ。言うなれば、ただの確認。
んで、ここの世界を全うした後に、そのうちミカと一緒に帰る…みたいな。
それで、その確認が今じゃなきゃいけない理由というのは、ミカに先に帰るかどうか訊くためだ。
もし、ミカが先に帰るんだったら、今、俺が残れば周りに説明しやすい状況にある。いや、それだけが理由じゃないんだけど_________。
「おーい? アリム?」
「んっ…あぁ、ごめんごめん。ちょっと考え事してた。お地蔵様を出すね」
俺はお地蔵様を出した。
「それじゃ…どっちからやってみる?」
「あ……うーん……有夢の方が道具の扱いが上手いはずだから、有夢からで」
「わかった」
俺は幻転地蔵様の頭に手を置いた。
頭の中にメッセージが浮かぶ。
それは、あまり納得のいかないものだった。
【あなたは使用できません】
……どういう事だ?
なんで、どうして?
どうして俺は使う事が出来ないんだ?
わからない。
「どうだったの?」
そう、ミカが訊いてきた。
「んー…よくわかんないや、ミカもやってみてよ」
「うん?」
とりあえず、ミカにも試させそう。
もしかしたら最初の一回きり、光さんを帰しただけで終わりかもしれない。
ミカは首を傾げつつも地蔵様の頭に手を置いた。
そしてすぐに、地蔵様から手を離す。
「どうだった? ミカ…あなたは使用できませんって言われなかった?」
「ううん、そんな事ないよ。『別の世界へ行きますか?』って訊かれたから、いいえって答えたよ。そしたら『またのご利用お待ちしております』…って」
ん?
ますますわかんない。
俺は使えなくて、ミカは使えるのか…。
「で、でも俺は使用できませんって言われたよ?」
「本当…? ちょっともう一回やってみてよ」
「うん」
俺はミカの提案に従い、もう一度地蔵様、もとい別世界移動装置の頭に手をおいた。
しかし、頭の中に浮かんだメッセージはさっきと同じものだった。
「やっぱり無理」
「えぇ…ど、どうするの? 有夢は帰れないってこと?」
「……そうなるね、でもミカは帰れる…」
俺はチラリと、ミカの方をみる。
ミカは帰れて、俺は帰れない。
やっぱり、今、……ミカだけを帰してあげるべきなんじゃないだろうか?
せっかく帰れるのだから。
ミカの妹、桜ちゃんは目が悪い。
桜ちゃんが3歳ぐらいだった時だっけ…?
顔に四角い時計が落ちてきて、両目に当たり、それっきり右目の視力は著しく低下した。
左目も常人と比べたらかなり悪い。
専用の眼鏡がないと人の顔はおろか文字も読めず、目の前ですら良く見えず、生活に大きな支障が出ている。
まぁ、眼鏡があるからなんの問題なく暮らせてるけどね。
それにあの子はお姉ちゃんっこだし、おじさんもおばさんも、ミカの事をすごく大事にしてた。
だから…みんな、きっとすごく悲しんでるはず。
一方俺の弟、叶は厨二病だけど基本はしっかりしてる。
ウチは俺がいなくてもなんとかなるはずだ。
だから_____やっぱり、ミカは日本に帰してあげるべきなんじゃないだろうか?
「ミカ…話が」
「やだ」
俺が言い終える前に、ミカはそう答えた。
「…何を言おうとしてたか、わかったの?」
「どうせ、私だけ帰れとか言うんでしょ? 有夢がこんな時に言おうとしてる事なんて、予想がつくわ」
そうか、完全に思考がよまれてたか。
長い付き合いだしね…。
…でも、ミカにとっては俺とこの世界に残る…それで良いんだろうか?
「でも…さ…ミカ、桜ちゃんが心配じゃないの? おじさんも、おばさんも、ミカの事を心配してるんじゃない?」
「そりゃあ…そうだけ…ど……でも…」
ミカは顔を塞ぎこみ、目に涙を浮かべた。
「だったら……」
「やなの、それでも嫌なの! 私、有夢とまた離れたくない! 絶対にイヤ……それに、またこっちの世界に戻ってこれるとも限らない…し」
確かにそうだ。
地球には魔法もマジックアイテムもない。
だから、こっちに戻ってこれるとはか限らない。
俺だってミカと離れるのは嫌だ。
だけど…だけど、本当にそれで良いのだろうか?
「本当に帰らなくていいの? ミカ………」
「……有夢は、私の事は嫌いなの?」
ミカは伏せていた顔を俺の方に向かせ、赤くなった目でこちらの目をじっと見つめている。
目で、必死に何かを訴えている。
なら、俺の本心を答えてあげよう。
「嫌いなはずないじゃないか……好き…大好きだよ。俺だって、俺だってミカとは離れたくないよ…でも…ミカにとって、それって本当に幸せなの? 帰って普通の暮らしをした方が良いんじゃないの?」
「…ううん………すごく幸せ…だよ? それに有夢が居ない…私、そんな日常は欲しくない」
ミカは本気で言ってる。
なら、仕方ない。ミカがそう言うんだったら、俺はミカの言う通りにするだけだ。
ミカは俺と一緒に居ることを選んだんだ____。
「……わかった、じゃあこのお地蔵様はしまうね」
俺はマジックポーチに幻転地蔵様のような別世界移動装置をしまった。
そして、ミカを抱きしめる。
泣かせちゃったから…本当は、もっとゴタゴタが済んだ後まで抱きつくのは封印するつもりだったけど。仕方ない。
「私、私、有夢と絶対に離れたくないから。でもそれって迷惑じゃない? 私、おもくないかな?」
顎を肩に乗っけつつ、ミカはそう言った。
「ううん、大丈夫。俺も同じ気持ちだから」
「えへへへ、そ、そうかな?」
「うん」
「じゃあ、光さんも国王様も待たせてるから、ここを出ようか」
俺は地蔵様をしまい、ミカとは手を繋いでマジックルームからでた。
その後、俺とミカと国王様は光さんを城の地下の牢に閉じ込めた後、アムリタを使って、先ずランクが高くて信用できる人達……SSSランカーの3人や、バッカスさんなどから生き返らせていき、手伝ってもらいながら王都内、王都周辺のハルマゲドンの魔の手によって死んでしまった人たちを全員生き返らせた。二日かかった。
また、国王様の命令で、全員の記憶から俺が人を生き返らせられることを、俺とミカ、国王様、そして生き返らせるのに手伝ってくれた人達以外から液体型記憶抹消アイテムをアムリタに含んで消した。
生き返らせる薬…それは必ずイザコザを生む…って国王様は言ってた。
ただ、その薬の効果によると使用者に助けてもらったという感覚は残るらしい。いわゆる『あの人には感謝してるけど、なんで感謝してるかは忘れた』状態だ。
……なんじゃそりゃ。
因みに、町人を生き返らせた際、その中で尋ね人や犯罪者は生き返らせた後に牢屋に放り込まれた。
その中には、この町で最初に俺を路地裏に連れ込んだ奴らもいた。ザマァみろ。
___
__
_
アリム達だけじゃない、誰も気づかなかった。
マジックポーチの異空間のその中で、幻転地蔵が一人、ほくそ笑んでいることを。
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