第176話 悪と正義と終焉と
「ち、ちょっと! ウルトさん、それに触れたら……」
その声を聞いたからか?
いや、違うか?
とにかく靄に手を出そうとしたウルトさんは靄の少し手前で手を止めた。
「アリムちゃんは…本当に強いよ」
ウルトさんはそう言った。
「それって、どういう…」
「アリムちゃんが昨日、俺達に言った?じゃないか。『自分は負けない』って…強いんだってさ。本当にその通りだ。めげずに、まだ闘おうとしている」
あぁ、そのことが。
実際そうだったしな。
そんなこと言ってるにも関わらず、ウルトさんは相変わらず、死んだような目をしてる。
「………アリムちゃん、皆んな死んだんだ。王都の中の国民も死んでた。パラスナも……バッカス達も…ギルマーズさんも、国王様もミカちゃんも」
「それは…そうですが……でも、まだ…」
まだ、生き返らせられる。
そう言おうとしたが、ウルトさんはそれを遮った。
「まだ…そうだね、希望はある。悪魔神を倒す、君という希望がね」
「いや、そうじゃなくて……」
「…俺にできることは、これだけだ」
そうとう、パニックになってるんだろうか。
ウルトさんは俺の話を聞こうとしない。
仕方ない、この人は皆んなを生き返らせられるということを知らないんだ。
それを話そうとしてるんだけど____っ
「それじゃあ、がんばって」
ウルトさんはそう言うと、一瞬でラストマンの姿となり、俺の周りを漂っている黒い靄を手でかき消した。
それと同時にウルトさんは地面に倒れ込み、動かなくなった。
ウルトさんは不死じゃなかったのか?
生き返る様子がない。
……今、生き返らせるべきか?
いや、ミカと同じように後で安全な時にするべきだろうね。
ウルトさんがかき消した場所から、外に出れる。
俺はウルトさんの行為を無駄にしないように、そこから出た。
そう……後で、ちゃんと生き返らせますから。
俺は靄の包囲網から出ると同時に、メフィストファレスが飛んで戻ってきた。
地面に降り立った姿をよく見ると、傷だらけだ。そうとう強く投げ飛されたんだろう。
「チッ……邪魔者のせいで…ハルマゲドンの網から出てしまいましたか……」
メフィストファレスはまた手を天に掲げたけれど、俺はゾーンを展開し、羽を切り取り、MPを吸収した。
今は、煙にはなっていないようで、攻撃は通った。
この機会を逃さぬよう、そのまま、伝説級の拘束具をたくさん作り出し、メフィストファレスにつけていき、最終的にはオリハルコン製の檻の中に閉じ込める。
そしてゾーンを解除する。
「くぅあっ……MP切れ…!? それにこれは…」
よし、もう俺の勝ちは確定したようなもんだ。
もっとあっさり倒せばよかったかな。
そしたら、ウルトさんが犠牲にならなくて済んだもんね。
この戦争で俺は…反省すべきことだらけだな。
舐めプしてたが為に、守るべき人達全員殺されるとか、本当……もうね。
もし、俺が人を生き返らせる手段を持ってなかったらと思うと……。
「ボクの勝ちだよ、メフィストファレス。諦めて。MPも、もうないでしょ?」
メフィストファレスは唖然とした顔でこちらを見ている。
しばらくして、メフィストファレスはそのような状態でいたが、再度ニタニタと笑い出した。
まだ、何かあるというのだろうか。
「く…ふふふふ…ふふ……いや…これほどまでとはねぇ…。時間停止のスキルと、アイテム作成スキルの併用ですか? ……とても敵いませんねぇ…チートですよ、こんなの……。MPも無くされて、契約も煙魔法も使えない。それに、悪魔神の羽が切り落とされ、即死攻撃もできないときた」
あ、あの靄って羽から出てたんだ。
気づかなかった。
「はぁ……俺の負け…ですね、これは。完敗。もうちょっと…もうちょっとで…帰れたんですけどねぇ…」
メフィストファレスはニタニタと笑い続けている。
まるで壊れたように。
ところで、メフィストファレスは今、帰りたいって言ったか?
どこに? やっぱり地球か?
俺の中の、メフィストファレス同郷人説を確認しよう。本人に。
「メフィストファレス…帰るって…どこに?」
その問いを聞いたメフィストファレスは笑うのを辞め、こちらを見つめた。
しかし、しばらくしてまたすぐに、ニタニタと笑い出した。
「貴女にはわかりませんよ……ああ、ですが…そうですね、別世界…とでも言いましょうかね」
どこか遠くを眺めるような、懐かしむような、そんな雰囲気を彼は出している。
別世界、きっと…きっとそれは俺と美花が居た世界だろう。そんな気がする。
「ねぇ、メフィストファレス」
「…………なんですか?」
「メフィストファレスのその帰りたい場所って…もしかして………地球?」
メフィストファレスはさっきよりも、より、愕然としたのか、目と口を、大きく見開いた。
その顔は、今までのピエロの怪しげで不思議なのとは違い、とても人間らしかった。
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