第157話 東西南
:王都東口____
東口ではパラスナを筆頭に軍が組まれている。
「アリムちゃん、ミカちゃんも頑張ることだし…私も頑張らないとね……SSSランカーとして」
誰に言うでもなく、パラスナはそう呟いた。
「パラスナさん! お久しぶりです」
そんな彼女に、一人の少女は近づいてきて声をかけた。
と言っても、歳はパラスナと5歳程しか変わらないのだが。
その少女はSランクの冒険者であり、過去に何回か、パラスナと共に仕事をしたことがあるのだ。
「あら、久しぶり。元気だった?」
「はい! おかげ様で」
パラスナとその少女は5ヶ月ぶりの再会である。
少女はすぐに以前パラスナと出会った時とは違う点に気付いた。
「あれ…? パラスナさん杖、変えました? 珍しい…」
パラスナは杖を滅多に変えない。
彼女がSSSランカーに就いてから3年になるが、彼女が杖を新しく変えたのは初めてのことである。
「ええ、いいでしょう? これ伝説級の杖なのよ」
「えっ? 前の杖も伝説級じゃありませんでしたっけ?」
「伝説級の武器にもそれぞれ性能があるわ。これは伝説級の武具の中でも一級品なの」
パラスナは胸を張って、そう言った。
「はぁ……私にはよくわかりませんが……。いい杖だってことはわかりますよ。ところでパラスナさん、今日もローブのフードを被ってるんですね」
「ん、まぁね」
パラスナはローブを片手で少しいじりつつ、そう答えた。
「どうしてずっと、フードしてるんです?」
「誰にだって秘密はあるわ」
「んー…そうですけど……パラスナさん、折角の美人さんなのに、フードで顔が見えにくいなぁ…なんて」
パラスナは嬉しそうに微笑んだ。
「あらそう? ありがとう。でもこのフードは外せないかなぁ…。別に、見られて困るって訳じゃないんだけれどね」
「ん? じゃあなんで?」
少女は首を傾げる。
「まぁ…そうね、一言で言えば大切な思い出だから……かしらね?」
「むぅ…ますますわかんないですよぉ~」
少女はぷくりと頬を膨らませてみせる。
「いいのよ、わかんなくて。ほら、そんなことよりちゃんと仕事しないと、ね? そろそろ」
「…むぅ……わかりました」
パラスナに仕事をするように促された少女は持ち場に戻って行った。
:王都西口______
西口ではラストマン率いる、メフィラド国内から奴隷という制度を撤廃して見せた、奴隷撤廃組と呼ばれる者達が主に活動していた。
「ヒャッハー! オレ達が4人で仕事するのは久しぶりだぜぇぇ! なぁ、ラストマンさん」
「アア、久シブリダナ。大体1年半クライカ?」
ウルトはいつも通りの特撮ヒーローのような格好に片言を交えて喋っている。
それさながら宇宙人。
ちなみに、ウルトがラストマンだと知っているのは一部の人間のみである。
「本当だね……ま、この戦争に勝利して、美味しいお酒でも皆んなで呑もうよ、アリムちゃんも交えてさ」
「……バッカスさん、アリムはまだ適性年齢以下のため、酒は飲めないが……?」
「ふふ、冗談だよ」
この場にはラストマン・バッカス・ラハンド・ガバイナと、ラハンドの仲間であるゴッグ・マーゴの6人が居る。
「アリムちゃんって、ミカちゃんの幼馴染だっていうあの娘でしょ? ラハンドさん」
「あぁ…まさか勇者になっちまうなんて思わなかったがな……」
「ミカちゃん…か…今はどうしてるんだろう? ラストマンさんは知ってますよね? あの娘達がどうしてるか」
ゴッグはウルトに二人は元気かどうか訊いた。
ラストマンは頷きつつ答えた。
「ソレハモウ、マルデ姉妹ノヨウニ仲ガ良イ」
「そうだね、ぼくも良くあの二人を目にするよ。結構あの二人とは縁が有るみたいなんだ。まぁ、答えはラストマンと同じだよ」
バッカスもゴッグの問いに割って答える。
「そうか、良かった……だが、やはり俺はあの娘は勇者になんてなって欲しくはなかったがな」
「ワタシモダ……ダガナ」
ガバイナの呟きにラストマンは呟き返した。
「アリムちゃんハ強イ、ソレハ私達ハ十分二理解シテイルダロウ? 私ハ今昼、ソレニキヅカサレタ」
ラストマンは、アリムが居るであろう方角を見てそう言った。
:王都南口____
南口では、ギルマーズ率いるメフィラド屈指の大冒険者チーム、ピースオブヘラクレスのメンバーが主にして、軍が組まれていた。
「リーダー、久々の大型緊急依頼でごんすな」
そう、ギルマーズに声をかけたのは、ピースオブヘラクレスのメンバーであり、その中でも上から6番目の実力者のSランカーである、モーニングスター使いのごつい男。
ちなみに、ピースオブヘラクレスの2~4番目は全員、SSランカーだったりする。
「あぁ…そうだな。だがこれは…緊急依頼と言うよりはマジものの戦争だがな」
ギルマーズは武器の手入れをしながら答えた。
「ふんすっ! 俺のモーニングスターが唸るでごんすよ!」
「…だがお前のモーニングスター、そろそろ替え時じゃねぇか? 刃こぼれがひどいぞ」
「ぐぬ…そうでござんすが……リーダーも知っているでごんしょう? モーニングスターは中々売ってないのでごんす」
彼は少ししょんぼりとした。
「まぁな……メジャーな武器じゃないし。お前に何回も武器を替えたらどうだと言ってるだろ?」
「それは嫌でごんす。俺はこのパワフルなのが好きなのでごんす。それに俺の親父もモーニングスター使いだったのでごんす」
「知ってるって、何回も聞いたよ」
ギルマーズは背中にしょっていた大剣の手入れを終え、脇に刺していた魔剣の手入れを始める。
「……いいでごんすなぁ…剣や杖、弓は巷にそれなりに伝説級があって。モーニングスターは良くて高級でごんす。まずダンジョンからはモーニングスターは出てこないでごんす」
「あぁ、確かにお前の実力なら武器さえ良けりゃSSランカーになれるもんな。惜しいな」
「そうでごんす。どこかに最高級以上のモーニングスターが作れる職人は居ないでごんすかねぇ?」
男は、今ギルマーズが手入れしている魔剣をうらめしそうに見つめた。
「そういえば、その魔剣。最近、リーダーのコレクションに加わったのでごんすよね? どこで入手したんでごんすか? 確か買ったと……」
「あぁ、そうだぜ」
「へぇ、いやぁ、何回見ても良い剣でごんすな。どこのオークション会場で買ったんで?」
その問いにギルマーズは答える。
「いやいや、オークションとか既成の物を買ったんじゃねぇんだよ、作って貰ったのさ。 オーダーメイドってやつだな」
「な……なんと! その魔剣は確か、伝説級……。伝説級の武器を作れる人物が存在するのでごんすかぁ!?」
男は異様にその話に食いついた。
ギルマーズはその目を見て、何を言いたいか察した。
「…….お前、モーニングスターを作って貰おうと思ってるな?」
「あ、わかっちゃったでごんす? ええ、是非その御方を紹介してほしいでごんす。どんな人なんでごんすか? 伝説級の武器作れる実力者…熟練のお爺さんドワーフとか?」
「いや、お爺さんでもないし、ドワーフでもないぞ。そもそも男じゃない」
「えええええええええええっ!? て事は女性でごんすかっ!? へぇ…女性で伝説級の武器を作れる職人……………あれ?」
男は何かに気付いたようである。
「ところで、皆んなしているこの腕輪……伝説級でごんすよね?」
「そうだな」
「この腕輪の製作者は……麗しのアリムちゃん……そう、アリムちゃんは美少女……はっ! リーダーまさかっ」
男はサスペンス小説を読んで、犯人がわかった時のような顔をしている。
ギルマーズはアリムの迷惑になりそうだから、話さなきゃ良かったかもしれないと今更ながらに考えていた。
「うん、お前の言いたいことはわかるが、アリムちゃんは今、忙しいからな」
「そっ…そんなぁ…リーダーずるい」
男はひどく肩を落とし、落胆している様子を見せた。
「伝説級の武器も得られる上に、あの、アリムちゃんとお近づきになる、もう一度お願いするでごんす、紹介してくださいごんす」
因みに、この男、アリムちゃんを愛でる会会員ナンバー10だったりする。
「お前….必死すぎだろ。……まぁ、しょうがねぇか。わかった、この戦いが終わったら、話をつけてやるよ。その代わり、代金と主軸になる素材を用意しろよ? あと、断られたらそれっきりだ」
「リーダーぁぁぁぁぁ! ありがとうでごんすぅ!」
男はギルマーズに涙と鼻水を流しながら抱き付こうとしたが、ギルマーズにかわされてしまった。
「ぶえっ! かわされたでごんす……あ、代金っていくらでごんすか? それと素材は」
ギルマーズは男に自分がアリムに武器作りを頼んだ時の詳細を話した。
「1000万+数百万ベル、さらにミスリルとSランク以上の素材でごんすか……まぁ、なんとかなると思うでごんす」
男はニコニコしながらそう言った。
「あぁ、ただ武器を楽しみにするのはいいが……この戦争で勝てよ? じゃねぇとなんの意味もねぇからな」
「……はい、でごんす!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます