第153話 勇者宣言-2-
国王のその言葉と共に、テラスの戸の奥からかの少女は現れた。
その姿はまるで天使でも降りてきたかのようだったと、後に語られている。
アリムのファン達は、相変わらず……いや、服装のお陰か、いつも以上の彼女の可愛さに歓喜し、名前を連呼…コールする。
他国から来た者は瓦版などに掲載されていた写実と確かに同じ人物だと認識しながらも、その愛くるしさは写実の数倍だと感じていた。
早くもこの時点で『アリムちゃんを愛でる会』に入ると決めた者も少なくない。
それ以外の者達も老若男女問わず、総じて魅了されていた。
……ただアリムがこの時、『魅惑の女神』という称号の力を全解放し、放出していたことは誰も知らない。
アリムは国王から拡声器を受け取り、喋り始める。
「ん…皆さん、おはようございます!」
そう、アリムが挨拶をすると、方々から「おはよう」や「アリムちゃん可愛い!」などの声が聞こえる。
「もう皆さん、ご存知かと思いますが、ボクは悪魔神を倒すため、勇者になるために此処に立っています」
この場に集まった『アリムちゃんを愛でる会』の会員は悲鳴や嘆きの声を発した。
また、会員でない者や、他国から来た者達も、アリムが可愛い等の感情を含めて、幼い少女に悪魔神を任せて良い者かと困惑している。
「……ボクは…ボクはまだ幼いです。普通の冒険者として活動するならまだしも、勇者となって悪魔達の元締と戦うことに反対する人もいるかもしれません」
ですが、とアリムは呟いた。
「ボクはきっと、きっと悪魔神を倒してみせます! この戦争で誰に被害は出させません! ……その為に皆さんに配る物があります」
そう言うや否や、1万5000人もの人間に配られる、1本のポーションと腕輪。
どういった力を使ったのか人々には見当もつかなかったが、いつの間にか足元に丁寧に置かれていたのだ。
総じて、それを拾いまじまじと見つめたり、装備してみたりする。
主に腕輪を装備してみた者は気づいた。
その腕輪を装備しただけで、自分が飛躍的に強くなる事を。
「皆さんに行き渡りましたね? その腕輪とポーションはボクが作ったんです。全て。効果を説明しましょう! 上の画面をみてください」
人々はアリムが1万5000人分全て作ったという事実に心底驚きながらも、おずおずと上を見た。
人々はさらに驚かされる。
なぜなら空中に、いつの間にやら、巨大な映像を映すマジックアイテムが浮いてるのだから。
「あ、このアイテムも驚いてくれました? それより、腕輪とポーションの説明ですね」
そう言って、アリムは空中に浮いている画面に書いてある事柄を朗読していった。
嘘みたいな物凄い効果ばかりだが、不思議と皆はアリムの言葉を信用していた。
そして、たった一人の少女が伝説級の腕輪と、これまた昔話にしか出てこないようなポーションを、日数の限定はあるものの作り出したこと対し、驚くなど生易しい言葉では足りないくらいに驚愕していた。
「というわけですから、ボクと共に、皆さん…一緒に悪魔達を倒すの、頑張りましょう! ね?」
ね? の部分でアリムは首を少し傾け、口元に手を添えた。
自身でもあざといとわかっていてやった行為なのだが、十分すぎるほどの効果があった。
伝説級のアイテムを幾つも作り出せる…アリムのその実力を疑う者はもう誰もいない。
人々には"この娘ならできる"という確信と安心感が生まれた。
その為にアリムの可愛いさを十分に堪能する心の余裕が生まれた者も多く、その一部には興奮しすぎて鼻血を垂らし始める者までいる始末だったのだ。
「再度、言います。ボクはきっと悪魔神を倒してみせます! 皆さんと一緒に!」
そう言いつつ、アリムは勇者の剣を取り出し、高らかに空に掲げ、鞘を引き抜いた。
人々が子供の頃から本で読んだり、大人から語り継がれたりしてきた勇者の剣。
アリムが手にしていた物はまさにその伝説のまま。
そんな勇者の剣はアリムの手中で空気中に露わになったその美しい刀身を白く、悪を浄化させるかの如くに輝いていた。
なぜ輝いているのか、それはアリムがそのようにエンチャントを組み直したからなのだが、そのことをメフィラド家の者かその重鎮達しか知らない
剣の光がおさまると、メフィラド国王は再度前に出てきた。
アリムは彼に拡声器を渡し、国王は語り始める。
「というわけだ、これにて『天の魔剣少女』ことSSランクパーティ『ジ・アース』のリーダーでありSSランカーのアリム・ナリウェイ。この少女は勇者となったのだっ!」
その声と共に大きな歓声。
止まらぬアリムコール。
そのコールの中にはアリムに手を振る事を要求したり、何か萌えるようなポーズを要求している声もあった。
アリムはできる限りそれに答える。
その中の一つのとあるポーズをした時、倒れる者もかなりの数居たという。以後、アリムがそのポーズを公の場でするのとは禁止となった。
なにはともあれ、この勇者宣言は末長く(もちろん色々美化されて)語り継がれる事だろう。
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国王は諸連絡や作戦を戦争に参加する人々に説明をし始めた。
その合間にとある傭兵は隣にいる冒険者に言った。
「なあ、おまえさん。俺…やっぱり『アリムちゃんを愛でる会』に入る事にするよ」
そう言われたあまりの興奮に鼻血を垂らしている冒険者は、はなから垂れている液体を拭き取りつつ、返事をした。
「ようこそ、『アリムちゃんを愛でる会』へ!」
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