第152話 勇者宣言
メフィラド王国国内では、現在、一般市民或いは戦争に参加しない者は避難をしていた。
一方、冒険者やこの国の兵士、他国から来た戦士達はこれから行われる勇者誕生の宣言を聞くためにおおよそ1万5000人もの人が、城前に集まっていた。
ちなみに、この宣言は避難している一般市民にも、国所有のマジックアイテム等を通してリアルタイムで伝えられる。
勇者が宣言・発表される…と言っても、すでに皆、一般市民ですら、それが誰だかを知っていた。
300年前まででは勇者を事前に知るなど出来なかったのだが、瓦版という情報伝達方が発達したためだ。
今回、勇者となる者の名はアリム・ナリウェイという、12歳の少女。実に300年ぶりの勇者だ。
そんな彼女の容姿は端麗。絶世の美少女とでも言うべき顔立ちであり、多くの者を虜にしてきた。地球でいうファンクラブまである。
また、強さも天才的であり、本来ならば15歳からしかちゃんとした冒険者には成れないハズなのだが、彼女は違った。
たった数ヶ月で武闘大会Aランクの部を圧倒的強さで優勝。
その後の国王との食会ではとある不届き者の冒険者からこの国の姫を死守。
更には、ふらっと何処かに行ったかと思うと、戻ってくるなり、彼女の幼馴染だという少女と共にSSランカーになってしまった。
そんなアリム・ナリウェイの噂は、近隣の他国にまで報じられている。
もっとも、本当はアリム・ナリウェイは男であり、歳も17。ましてやアナズム出身ですら無いことは、一人の例外を除いては、知る余地も無いのだが………。
人々はアリム・ナリウェイのその天才的な強さを十分把握していた。
だが、アリム・ナリウェイを戦争に参加させるのはおろか、勇者にしてしまうのは多くの人々が反対している。
国はこのような幼い少女に頼るしか無いのかと、嘆いている者もいた。
特に『アリムちゃんを愛でる会』というアリム・ナリウェイのファンクラブの会員の冒険者や兵士達は死んでも、かの少女を守ると息巻いている。
「おい、あんた。マジであの記事の通り、アリムちゃんが勇者だと思うかい?」
とある冒険者の一人が、隣にいた傭兵らしき男に問いかけた。
問いかけられた傭兵は首を振った。
「さあな、発表されるまではわからないさ……俺は隣国から来たばかりだからな。お前さんはどう思う? アリムとかいう娘が勇者になったら……」
「ん? 俺か。俺は『アリムちゃんを愛でる会』の会員だからな。どういう結果であれ、アリムちゃんに大事が無いように死力を尽くすだけさ」
「……何というか、すごいな」
傭兵の男の顔は、少し呆れていた。
冒険者の男はそれには気づいてないようだが。
「そうか? 可愛い娘を守りたくなるのは当たり前のことだろ…。 折角だ、あんたも『アリムちゃんを愛でる会』に入らないか?」
「いや、遠慮しておこう」
午前10時になった。
城の中央大テラスの戸が開かれ、そこからこのメフィラド王国の重鎮達や名のある冒険者達がゾロゾロと出てきた。
この国の王は中央大テラスの前方の柵ギリギリの場所に立つ。
その左右前後には大臣、騎士団長、大司教が来た。
城前に集まった者達は一斉に黙り、背を正した。
「良くぞ集まってくれた。戦士達よ」
国王の大きな声がエコーと共に響き渡る。
「このような急な戦いに、これだけの勇敢な戦士が方々から集まってくれた事を心から感謝する。敵は悪魔…その幹部達と悪の魔神、サマイエイルだ」
この話を聞いた者は、騒然としていた。
総じて瓦版にて敵が伝説上の悪魔であるという事と、勇者が発表されるという事まで把握はしていた。
だが、皆、どこか心の奥では信じられなかったのだ。
「……皆の信じられないという気持ちもわかる。何せ以前、悪魔が現れたのは300年前の事なのだからな。だがしかし、現にこうして! ………悪魔は居るのだ」
そう言って、国王が大臣に合図を送ると大臣はテラスの奥から、厳重に拘束された何者かを連れてきた。
その者は基本的な形こそ人間であったが、紫色の皮膚、小さなツノと羽を有していた。
その者はただ生気はなく、廃人になってはいたが、この話を聞いている者達全員を驚かせるのには十分な糧となった。
なにせ、自分達が先祖達から習いうか、書物を読む事でしか知りえなかった存在が、絶滅したと思っていたその存在が、生きて目に映っているのだから。
実を言うと、この戦争のために集まった戦士達の中には半信半疑でこの場に来ていた者は半数以上いる。
例えば、上からの命令で仕方なく。
もしくは、とりあえず戦争に参加し、金を得るのが目当てで。
一部では、アリムが一番の目当ての者もいた。
こういう者らは精々、魔物の大型討伐程度にしか考えてなかったのだ。
無論、このメフィラド王国が信用が無いのではない。それほど悪魔という存在が突破なのだ。
「では……そろそろこの式の本題と移ろう。そう、勇者宣言にな」
城前がドヨドヨとし始めたのを察した国王は、もう少し話したい事もあったのだが、兵を無駄に怖気付かせて減らすわけにもいかずに勇者宣言をしてしまう事とした。
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