第144話 勇者になるということは
医務室にはミカはいなかった。あの後、すぐ起きたんだろうね。
ひとまずはカルアちゃんの部屋に戻ると、ミカとカルアちゃんが部屋に居た。
予想通り、ミカはカルアちゃんの部屋に戻ってたんのか。
部屋に入ってすぐに、カルアちゃんは俺に問いかけてきた。
「お父様とお話ししたのでしょう? アリムちゃん……? あ、話せない内容なら別に…」
別に話せない話じゃない。
ただ、ミカには心配かけちゃうかもしれないけれど…。
もう引き受けちゃったからね。
正直に話そう。
「勇者にならないかって話だったよ?」
「え……」
二人共、こちらを驚いた顔で見た。
そして、俺に詰め寄り口々に質問を浴びせてくる。
「なんで……アリムが勇者に?」
「そ、そうですわ。それに勇者になるってことは悪魔神と戦わなくちゃいけないということ……」
なるほど、二人共俺のことが心配なのか…でも勇者は俺しかできないしね。
詳しく説明するしかないかな。
「うん。できるのはボクしかいないらしいから」
「それってどういう……」
「今回、悪魔神を倒すのに必要な勇者の剣……ううん、大勇者の剣はボクが作ったものだから、つまりボクはその剣を抜ける。そしたら神様から勇者だと認められなくても、ボクは人民からは勇者だって認められるでしょ? いまから勇者の剣を抜ける人を探すわけにもいかないからね」
「そうですか…」
その説明を聞き、カルアはひどく落ち込んだ様子を見せた。一瞬だけ。
しかし、すぐに何かを思い出したかのように顔が明るくなったんだ。
「…そういえばアリムちゃん、先代の勇者様よりよっぽど強いのでしたわ! どうして心配する必要がありましょうか」
確かに、俺の強さによる心配はいらない。
それに関してはミカも同感のようだ。
だけれど俺も勝てる、勝てないかとは別に心配ごとがあるんだよ。
「そうだね、だけど、カルアちゃん……おそらく悪魔達はカルアちゃんのお母さんの遺体をサマイエイル復活の媒体として使用してくる……いいの? ボクがカルアちゃんのお母さんの身体を傷つけることになるんだよ?」
俺は国王様にもした全く同じ心配をカルアちゃんに投げかけた。
しかし、
「問題ありません! お父様が許可したならば、私はそれに従うまで。それにアリムちゃんは身体に傷つけない戦闘方法を持ってるじゃないですか。私は何も懸念してませんよ」
そう、返答した。
そうか、国王様と全く同じような考えか。やっぱりカルアちゃんの性格は国王様に似たんだね。
つくづくそう思うよ。
じゃあもう一つの心配ごとも晴らしちゃわないと。
「ミカ…無茶しないって約束したのに、ゴメンね? ボク…また…」
「はぁ……」
ミカは大きな溜息を一つ吐き、ジトっとした目でこちらを見た。
怒ってるのかな? いや、ミカが怒ってる時の表情じゃないんだな、これ。
「あのね、アリム。私は一人で無茶しないでって意味で言ったの。今回は私も一緒に無茶するから、気にしなくていいよ……ただ、絶対無事でいること、いい?」
あぁ、そうか。
ミカも回復兼攻撃のために明日1日中瞑想して、当日には多大なMPを使うんだった。
直接サマイエイルと戦うわけじゃないけれど、ミカもまた、無茶をするんだ。
俺と一緒じゃん。
「うん、ミカ。ミカも絶対無事でいる事…いいね?」
「勿論」
俺との約束に対し、ミカは頷いた。その時、カルアちゃんの部屋のドアをノックする音が聞こえる。
「おーい、カルア。アリムちゃんとミカちゃんはそこに居ないか?」
声の主はルインさんだ。
カルアちゃんが「ルインお兄様、少しお待ちください」と、言いつつドアを開けると、その先にはルインさんの他に、オルゴさん、ミュリさん、リロさん、テュールさんが表情を暗くして立っていた。
「……お父様から聞いた。アリムちゃん…勇者になるんだって?」
テュールさんがそう言った。
そうか、国王様、ルインさん達にはもう言ったんだね。
俺は頷く。
「本来ならば……」
オルゴさんがポツポツと話し出した。
その声にはどこか、悔しさが込められているような気がする。
「アリムやミカ…と言ったか、お前らは戦争に参加すらしては、いけないはずなのだ」
彼は俺らの方に半歩近づいて、俺の身長と同じくらいまで腰を屈め、頬を差し出した。
「俺は…これほど自分の力の無さを呪ったのは初めてだ。俺の強さでは…ろくにアリムを手助けする事が出来ない。敵を数体、葬ることしか出来ないのだっ……アリム頼む、俺を一発、殴ってくれ」
あれ、この人M気質だったっけ?
それとも、12歳のロリっ娘に殴られるのが好きな性癖だったとか……?
いや、違うか。こういうのって漫画の中とかだけだと思ってた。
騎士としのプライドがある人系って本当にこんな感じなんだなぁ……ガバイナさんとかも同じこと考えてそう。
ただ、俺は殴らないよ。
「ガバイナさん、立ってください。ボクはオルゴさんを殴りませんよ。だいたい、オルゴさん達がボクを見つけてくれなかったら、野たれ死んでたんですから」
「そ…そうか…? そうか」
そうかを連続して言いながら、オルゴさんは立ち上がった。
俺は半ば立ち上がりかけたオルゴの真後ろに俊足で回りこみ、膝裏にめがけて怪我をしない程度の威力でチョップをした。
「どわぁっ!?」
そう発し、彼は尻から転んだ。
ふふ、ただ、歯を食いしばって殴られるのを覚悟してる人を殴るのはつまんないからね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます