閑話 ミカの悪夢

エイプリルフール用です。


エイプリルフール用に書いた話なのに、かなり内容が暗いです。

そういうのを求めてない方・読みたくない方は読まない方が良いかもです。

ストーリーに関係ないですし。

主にミカが可哀想…ま、夢オチなんですけどね。

本当、最後のシーン書きたかっただけなんです。

後悔はしています。反省はしていませんけど。


____________________________________





「じゃあミカ、寝ようか」

「うん」



 私とアリム、もとい有夢は同じベッドに潜り込んだ。

 私は片脇に、彼からもらった熊の人形を抱き抱えている。

 

 ベッドに潜り込むと、私と有夢は互いに顔を見つめあう。

 最初はかなり、これは恥ずかしかった。

 だけれど、ある日、私がつい勢いで『これからも抱きしめて』なんて言っちゃったもんだから、それ以来、現在では然程、顔が赤くならない。

 それでも恥ずかしいものは恥ずかしいけれど。



「ミカ……好きだよー」

「ちょっと…何よ、いきなり」

「えへへ、言ってみた。良いよね別に? だってボク達…付き合ってるもん」

「まっ…まぁね! うん。私も好きだよ、有夢」



 4日にいっぺんはこんなやりとりがある。

 私はそのたんびに驚かされるし、内心、とても照れてる。

 今、部屋が暗くて良かった。

 絶対顔がにやけてるもの。

 我ながらリア充よね……えへへへへ。



「じゃあ、ミカ、おやすみ」

「ん、おやすみ」



 そう言いながらアリムは背をこちらに向ける。

 ただ、手だけはこちらに何故かほっぽりだすから、私はその、元、男だったとは思えないような、華奢な手を握る。ちょっとひんやりしてて気持ちい。

 アリムは私の手を優しく握り返してきた。


 布団に潜って20分。

 手を握ってから15分。

 私の瞼は完全に閉じた………。



_________

_______

____



「お姉ちゃん…起きて…気持ちは……。わかるけど……もうお昼だよ……」

「ん……ん…?」


 

 私はよく聞き慣れた女の子の声で目覚めた。

 この声の主は私の妹の、桜のものだ。



「んー、起きる起きる。おは……」



 私は『おはよう』と言いかけ口をつぐんだ。

 いや、唖然とした。


 ここ、この部屋…アリムと私のマイホームという名の愛の巣じゃなくて、私の部屋だったのだ。

 それに、隣に有夢がいない。


 片脇のお人形はそのまま。

 だけど何故か、枕がビショビショに濡れている。

 汗…もあるけど、どちらかというと涙かな?



「お姉ちゃん?」

「ねぇ、桜……有夢は? 私の隣に居たはずなんだけど。それに…なんで私は私の部屋に居るの? アナズムは?」



 桜は首を強く振りながらガクンと膝を落としてすすり泣き始める。

 私は何がなんだか全くわからない。



「お姉ちゃん…あゆむにぃ は……あゆむにぃ は…もう……」

「えっ……えっ? は?」



 いや、ほんに何を言ってるの?



「お姉ちゃん! …あゆむにぃ はもう居ないんだよ!? 私達、昨日お葬式が終わったばかりじゃない!」

「いやいや…え? だって私も死んで…アナズムで再開して、相思相愛で付き合うことになって……結婚するって約束までしてっ……デートしたりキスしたり……添い寝したり……昨夜だって『好きって』言い合ってから寝て……」

「お姉ちゃん……」



 妹が、桜が、私を憐れむような、同情するような顔でこちらを見てくる。

 え、何これ何なのこれ?

 お葬式…え? だれの、有夢の?



「お姉ちゃんは死んでないし……今、家にいるのはお姉ちゃんがショックでお葬式中に倒れちゃって、運ばれてきたからで……それにアナズムって…? その……すごく言いにくいんだけれど……お姉ちゃん、それって……」

「嫌っ……違う」


 

 私はそれしか言うことができない。

 目から無意識に一粒、二粒と大玉の涙が溢れ落ちてくる。



「お姉ちゃん、それは夢なんじゃ………」

「嘘っ! そんなの認めない! 夢なんかじゃない、あれは夢なんがじゃなびっ」

 


 私は思わず、自分でも驚くほどに声を荒らげた。

 顔は既に涙でグチャグチャで、この幻だと考えたい私の部屋は、まるで歪んだ鏡でも見ているかのようにクシャクシャに見える。


   

「お姉ちゃん…」

「う"るざ…いっ! …出てってぇ! じんじない、絶対に信じない、私はアリムと……有夢といっじょにいたの! ごれが夢なのっ ごれがっ…ごれがっ!」

「…ん、わかった。一回出てくね。何かあったら…呼んで」



 そう言って、桜はこの部屋を出て行った。



「ぅ…有夢ぅ…あぁぁ…嘘だよねぇ…ごれ、これ全部嘘だよねぇ?」



 私は、私の顔を、有夢から昨年の誕生日に貰った熊の人形に顔を擦り付ける。

 その行為によって涙が拭われ、グシャグシャだった視界は次第に良くなってきた。


 今の私にとってはそのままグシャグシャの世界の方が良かったかもしれない。

 私はふと、ピンクのカバーのスマホをみた。

 これにも、有夢から貰ったキーホルダーがついている。

 

 私はそのスマホを手にとって四方から眺めてみた。

 やっぱり、トズマホではない。

 正真正銘、本当の方のスマホだ。


 ロック画面を開いてみると、時刻が午後0時6分。

 そして日付は……有夢が死んで4日後、私の記憶が正しければ、葬式がすべて終わった次の日。



「あっ…あ…いやぁ…」



 私はそう、声にならない声で呟いた。

 ほとんど自動的に、と、言ってもいいくらいに私は通話アプリを開いた。

 なんで開いたかはわからない。


 私と有夢の個別チャット、そこには



<<罰として、有夢のお弁当のおかず、一個貰うからねっ!>>



 と、私のメッセージが最後に書かれていた。



「ぁ……ぁ……あぁぁ…」



 私は元々座っていたのに、さらに全身に全く力が入らなくなり、だらんと上半身をベットに投げる状態となった。

 だめだ、何も考えられない。


 これ、なんかデジャヴを感じる。

 何ヶ月も前に一度味わったようなこの絶望感。

 これは夢だ、夢なんだ、絶対に。



_________

______

___

 


 焼いたベーコンと卵の匂い。

 私はその匂いで目を開けた。


 まわりを見渡すと私はベッドの上に居た。



「やっぱり…夢だったんだ!」



 私は思わず、そう呟いた。

 だけど、よくよく周りを観察してみて気がついた。

 何故かベッドは一人用。

 それに、窓から見える外の景色は…ウルトさんの宿、『光』の一室に居た時と同じ風景。


 それだけでも十分違和感はある。

 だけど、もっとおかしいのは、私とアリムのベッドが離れた場所にあり、さらには何かガラス板のようなもので仕切られていること。


 それに、私の片脇にいつも一緒に寝てたはずの熊のお人形がない。


 一体、どういうことだろうか?


 私はとりあえず、そのベーコンの匂いがする台所へと向かった。

 途中で気づいたんだけど、どうやら私の姿はアナズムのミカではなく、日本の美花みたい。

 何がどうなってるんだろう。


 台所に辿り着くと、アリム……いや、有夢がベーコンエッグを作っていた。一人分。

 それに、腕まくりしている腕からは、私を庇った時の傷が見えない。

 ますますわからない。


 とりあえず、声をかけてみよう。



「お……おはよ、有夢」

「……チッ」


 

 有夢は舌打ちをしただけで、私に返答はしなかった。顔すら一瞬もこっちを向かなかった。


 

「ち…ちょっと、なんで無視するのよ?」



 私は少し腹が立ってキツめにそう言ってみた。

 今度は有夢はこっちを向いてくれたが、無言でこちらを睨みつけるだけ。



「どうしたの? 有夢…おかしいよ。頭痛でもするの? ほら、私に見せて……」



 そう言いつつ、私は有夢に近づいた。

 けれども、私は有夢に片腕で弾き倒されてしまった。

 邪魔だから避けた…というにはあまりにも力がこもった押し方だった。

 

 初めて、生まれて初めて有夢に暴力を振るわれた。

 なんで? なんか悪いことした? 私。



「痛いよ…有夢…なにするの?」

「うるせぇよ、さっきから。何なんだよ」


 

 やっと有夢が私に口を開いたかと思うと、その言葉だ。

 

 有夢はベーコンエッグを皿によそっている。



「何なんだって……有夢、やっぱりおかしい。私が知ってる有夢はこんなことしないわ…」

「はぁ……そうなんだ。お前の脳みそは花畑か?」



 有夢は椅子に座り、ベーコンエッグを食べ始めている。無論、私の分はない。



「……有夢? もしかして私の事嫌いになった?」

「いや、好きだったことなんてないけど、何で?」



 その言葉はあまりにも、私にとって冷酷で、あまりにも自然に彼の口から放たれた。



「え……じ、じゃあなんで一緒の部屋に…」

「それはウルトさんに押し付けられたからだけど? 本当は嫌だったんだけどね、外面は良くしないと」



 有夢は淡々とベーコンエッグを口に頬張って行く。



「有夢…嫌い? なんで嫌いなの? 私の事」

「ん? あぁ、それはね。ミカは泣いてばかりだし、事あるごとに俺に構ってくるかうざいからなんだよ。大体、幼馴染だからってなんだ? 彼女面しちゃって、ガールフレンドの一人も作れやしねぇ。俺がゲームをやっている最中に隣から押しかけてきては邪魔をする。ここに来てからもそうだ。俺の足手まといになってばっかり。俺はミカのことが嫌いだ。ミカも俺のこと嫌いだろ?」



 有夢はそんなことを私にも思ってたの?

 あの告白も何もかも、なかった事になってるのかな?

 …でも私は有夢に嫌われるなんて耐えられない。せめて、私は有夢の事が好きだと、伝えないと。



「で、でも私は…有夢の事、好きだよ? 私、これからダメなところ、直すように努力するし……それに有夢は……い、今はちょっとイライラしてるんだよね? ね? 少ししたら____」



 私がそう、言いかけた時である。

 有夢は椅子から立ち上がり、私を突き飛ばして髪の毛をひっつかむ。

 そして私はそのままズルズルと引き摺られる。



「痛い! 痛い! やめてっ!」



 私はそう叫んだが、有夢はやめようとしない。

 とうとう、この部屋の玄関まで着いた。

 そして有夢は玄関の戸を開け、私を外の廊下に放り投げた。



「もう、うざくなったから。出てけ。どこにでも行けよ」

「ま…やだ、やだ、待ってよ!」



 私は泣きながら有夢にすがりつく。



「有夢、謝る! 謝るからぁ…一緒にいて、お願い……一緒に居るだけでいいからっ……そ、そうだ、私ができる限りのことはなんでもする、ね? だから、だから……」



 私は思いっきり再度、突き飛ばされた。



「なんでもする? なら俺に二度と顔を見せないでね? 別に怒ってるからとかじゃないよ? 俺はお前が嫌いだからだよ…じゃあね」



 そして戸は勢い良く閉められ、鍵をかける音がする。

 私は頭を打ち、血が出ていた。

 遠のく意識の中、私が思うのは、何故こんなことになったかということ………………。



______

___

_



「ミ………キテ」

「ミカ………ジョブ? …テ」

「ミカ、大丈夫、起きて!」



 私は、身体を揺さぶられながら目を覚ました。

 隣には心配そうに私の顔を覗き込むアリム。

 片脇にはアリムがくれたお人形。


 私の目からは大粒の涙が流れている。



「ミカぁ! 良かった、起きたんだね。ずっとうなされてたけれど、どうしたの?」



 私はおそらく赤いだろう目でアリムを見た。

 私はさらに涙が溢れる。



「アリム……有夢……だよね? 本物?」

「ん? うん、そうだよ?」



 アリムはキョトンとした顔をしてる。



「私……私っ! うわぁぁぁぁぁん!!」



 私は泣いた。

 有夢とこの世界で再開した時と同じくらい。



「どうしたの、どうしたの?」

「有夢ぅぅあぁ……あゆむはっ…私の事嫌い? 私、有夢に迷惑かけてるよねっ」



 有夢は私をそっと抱きしめ、背中をさすり始めた。

 私はアリムに顔を埋める。



「ううん…嫌いだなんて思ったことないよ。迷惑でもない。一回落ち着いて、何があったか話して?」

「うん…うんっ」



 私は先ほどまで見ていた、嫌にリアルな夢の内容を話した。

 有夢は相槌を打ちながら私の話を親身になって聞いてくれといる。



「____ていう夢だったの……」

「そっか、だから魘されてたんだね」



 有夢はそう言いながら、私の頭を優しく指を滑らせるように撫でる。



「うん…本当にごめん。起こしちゃって。その……嫌いになったり…居なくなったり…」

「しないよ、約束する。ボクは…ミカが大好きだから」



 有夢話をそう言いながら、より強く、私を抱きしめた。

 私も抱きしめ返す。



「有夢……っ…私も…大好きっ」



 温かい、心も身体も。

 これが有夢、私が知ってる、生きてる、正真正銘の本当の私の幼馴染兼恋人____。





######


 変更点のお知らせ。

 少々、無理があったため、アリムが性別を女に変えた経緯、26話と28話と44話をすこし詳しくしました。

 読まなくてもストーリーに影響はありませんが、なんか腑に落ちない人は是非、ご覧ください。

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