第133話 VS.怠惰と無精と猛毒の悪魔

≪side バッカス≫



「………………も……………ご………」

「ねぇ、その邪魔なスカーフ……とったらどうだい?」



 なるほど、なかなかの魔法をかなり使ってくるね。主に毒の魔法での最上級。

 かすっただけでお陀仏ものだ。しかも、腕に巻いてる蛇も一緒になって攻撃してくる。

 昔の勇者たちはこんなのと戦ってたのか…。

 


「でも…ボクだって負けないさ」



 ボクは自分に速度上昇魔法……クイックロードをかける。姫様を救うんだ。多少重ねがけしても構わないだろう。

 クイックロードを重ねがけしたボクの素早さは格段に早い。

 もともと、素早さにSTPを多めに振ってるしね。



「まぁ…少しかっこわるい技なんだけどさ…喰らってよ。『体撃酒狂奥義・鳳眼拳の二連』」


 

 ボクはこの魔物の身体に無数の打撃を叩き込む。容姿は女性だ。ということは急所も人間と同じだと考えていいだろう。


 体撃酔拳奥義は、ボクの持つ"お酒"に関するスキルと、もともと持っていた[体撃轟奥義]のスキル達を合成してできた、星4のスキル。


 普通の体撃よりも、素早く、読まれにくい動きが特徴だ。しかも、酒に関するスキルの数や自分が酒飲みであるほど、このスキルの強さが上がっていく。

 すこし、体制とかが酔っ払ってるみたいでカッコ悪いけど、かなり有用な、ボクの協力なスキルの一つなんだ。


 それに……



「…………!?」

「はは、その顔……驚いた? 僕が触れた箇所はしばらく"金"になるんだよ」



 そう、これで数多くの魔物を葬ってきた。昔、ダンジョンで見つけたSランクスキル『黄金触域』……。ボクが触ったモノ、あるいはボクの魔法陣に触れたモノがみんな金になる。制限時間付きでね。


 金は柔らかいから、魔物の頭を金にして、体撃で破壊してやれば、Sランク程度なら余裕で倒せる。SSランクでも、苦労はするけど倒せるんだ。


 ……突然スカーフを彼女はとりはじめた。

 解放されたその口からは、紫色の靄が常時、吐き出されていた。



「はぁぁぁ………いい。めんどくさいけど本気だす。死ね」

「え!? うそぉ!….うぐ……!?」



 此奴の吐く息…猛毒だ! だからずっとスカーフしてたのか!?


 くそっ…しまった……もろに吸ってしまった…。



「はぁぁぁ………どうだ? アスタロードの毒は苦しいだろう? でも、楽にしてやるよ。どうだ? もがき苦しむのも、なかなかめんどくさいだろう?」



 その言葉を発するとともに、彼女が腕に巻いている蛇の目が赤く光った。



 あー、あれ? なんかどーでもよくなってきた……。あー…眠い……寝ちゃおうかな…それもいいなぁ…。



「そーだねぇ……ゲゴッゴホッ……めんどくさいね……ゴホッゴホッ」

「そうだろう? だからそのまま死ね。生きるのもめんどくさいからな」

「うん、そうさせてもらうよ……ゴホッゴホッ」



 あー、何もかもがめんどくさいー。

 孤児院経営? めんどくさいー。 

 奴隷制撤廃のヒーローの一人? めんどくさいー。 

 元奴隷の人達をボクの酒造工場で働かせる? めんどくさいー。

 国王のためにカルア姫を取り戻す? めんどくさいー。

 いっそのこと、このままこの悪魔の毒で死んでもいいかも。めんどくさいー。



「ゲゴッゴホッゴホッゴホッ……ゴホッゴホッ」

「葡萄酒くさい若者よ。我が術により生きるのもめんどくさくなり、そのままはてろ」

「ゲゴッゴホッゴホッゴホッゴホッゴホッ」


 

 あー、このまま死ぬのかー。25年の短い人生だったなー。

 ラストマンー、ラハンドー、ガバイナー、その他みんなー。

 孤児院のボクを本当の父親のように慕ってくれた子供達ー。

 ボクの会社の社員の皆さんー。

 国王様ー、姫様ー、ゴルド先輩ー。

 アリムちゃんー。ミカちゃんー。

 マイハニー……ママ……パパ……。


 みんなごめんよー。ボク、生きる気力無くしちゃったーあはー。

 死んじゃうー。あはー。


 パパー。パパのお酒の夢、叶えられなくてごめんねー。ボクもお酒は好きなんだけど、めんどくさ………………めんどくさい?


 お酒が? めんどくさいだって?


 いやいやいやいやいや、お酒こそ最高の娯楽でしょ。たくさんの人を笑顔にする、料理を美味しくする、価値のトレンドにもなる。


 めんどくさいものか。酒がこの世にあるんだ。

 まだ死ねないね。

 ボクはまだ見ぬ酒を飲みたいんだ。

 こんなとこで死ねないよ。


 あー。でも、本当にこのまま死んじゃうかも。

 死ぬのめんどくさい……そういえばアリムちゃんがポーションくれたんだっけ? 飲むのめんどくさいけど、死ぬのは回避できるかも。


 ボクは5本中2本の少ない方のポーションを取り出して開けて飲んだ。

 すると、気分がスッとして、さらに毒の苦しみも消えた。


 あれ? あれ? あれあれ。


 ボクは今まで一体、何をめんどくさがっていだだろう。

 早く目の前の悪魔を倒して姫さま救わないと。



「そうだ……そのまま…めんどくさく果てて……」

「うん、そうはいかない…かな?」



 ボクは黄金触域を発動させ、アスタロードとかいう悪魔に全力で打撃を叩き込む。



「あれ…なんで……めんどくさがってな……」

「ふふ、まぁ、本当に好きな物があったら、めんどくさがってる暇なんてないんだよね」



 悪魔の身体がみるみるうちに黄金化していく。毒を吐く口はいち早く黄金化してふさいだ。



「…………ふもっ………ふぶも……」

「もう、毒は吐けないよね。じゃあラストにさせてもらうよ」



 ボクはパパから教えてもらった技……[酒術・極]リクェア・マーチレスを唱える。


 この技は、属性だけでいえば水なんだけど…アルコールを含んでいてね。

 自由にアルコール濃度も調節できるんだ。

 パパは言っていた『アルコールはよく燃える』ってね。


 ボクはアルコール濃度99.99%を指定。酒の濁流を悪魔は頭からかぶった。



「…………………!?」

「お酒はよく燃える。金は熱でよく溶ける……。さぁ、君は火達磨になるといい。『ファイヤー・マーチレス』」



 ボクはすこし距離をとってこの魔法を唱えた。壮大なる炎により、アスタロードは業火に包まれていく……。凄い熱量だよ。全く。


 アスタロードの焼死体からはSSランクの魔核一個が出てきた。

 悪魔が魔核でできてるってのは本当だったんだね。


 どうやら、ミカちゃんの闘いも終わったみたいだし、アリムちゃんがカルア姫様を助けたら、あとはここから出るだけかな?


 

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