第125話 緊急事態

 俺は今日、真夜中になっても眠れないでいた。

 カルアちゃんと遊んだあとの興奮が冷め切ってないのもあるけんだけれど、それが主な原因じゃない。


 まぁ、主な原因はね……添い寝しているミカの顔がかなり近いからかなぁ…なんて。

 そりゃそうだ、互いに互いが抱き枕のように抱きしめ合ってるんだもん。

 恥ずかしい…。こんな光景、父さんやおじさん、叶や桜ちゃんに見られたら、『責任をとれ』だのと言われるはずだ。


 もっと酷いのは母さんや、おばさん。それに翔に見られた時だね。何を言われるかわかったもんじゃない。

 少なくとも3ヶ月は添い寝をした事で弄られる。


 

「アリム…なんか…私から言いだしっぺは私だけれど…その…恥ずかしいくて眠れない…ね?」

「うん…そだね…」



 わぁお、ミカも起きてたんだ。

 灯りを消す前は目を瞑ってたし、今、暗闇だし良く分からなかった。

 どうやら、ミカも眠れないみたいだね。

 恥ずかしいのはお互い様か…。


 そもそも添い寝自体は9歳くらいまで、時たまに、ミカの家にお泊まりした時とかしてたけれど、こんなに密着するのは初めてだし、仕方ないと言えば仕方ないかもしれない。


 それに、寝れないぶん、変に意識しちゃって…。

 俺は今、"アリム"だから、ミカとは同性だよ? わかってるよ? でも…口から心臓が飛び出そうなんだ。

 柔らかい唇から出る吐息がさ、俺の唇に掛かったりするんだよ…。

 こんな状態で、有夢に戻れとか言われたらどうしよう?



「アリム…その…男の子に戻っても…」



 そう考えていたら、ほぼ考えてた通りのことを言われた。

 ミカってエスパー?

 とりあえず、はぐらかさなきゃ。



「ごめん、それはさすがに理性が…ね? 色々と危ないかなぁ…なんて」

「(別に、有夢なら私は構わないんだけれど…)」

「…っ…ん…ん? なな…な、なんか言った?」

「!? なっ……何も言ってない! 気のせいだよ、気のせい」



 はっきりとこの耳で聞いた。

 とっさに聞こえなかったふりをしたけれど、確かにミカは『構わない』と言った。

 やばい…いよいよ口から心臓だけじゃなくて五臓六腑が出ちゃうかもしれない。

 心臓の鼓動の早さが、外にまで聞こえそうだ。

 顔も、完熟のトマトみたいに真っ赤になってるに決まってる。

 

 俺達はまだ12歳なんだ、地球でも未成年。

 まだ、そういうのは早いんだ。

 早いよ…うん…。

 お、俺、へ…ヘタレじゃないし! 

 チキンでもないしっ!

 

 あーあー、そうだ、この気を少しでも紛らわすために、昨日のことを少し振り返ろうかな?

 そうしよう、それが良い。


 まずは…パフェは好評だったなぁ…。今度、ジャンボパフェ作ってみてもいいかな。うん。

 あと、ゴールドローズクイーンドラゴンの肉も喜んでもらえたな。

 やっぱり、ドラゴンは高級食材からか、王様以外は驚いてたけどね。


 何よりもあれだよ、ミカとカルアちゃんだよね。

 あの二人が仲良くなってくれて良かった。本当に。これから2人で遊びに来てもいいって王様も言ってたし。

 

 主に俺の話で盛り上がってたみたいだけど…。

 うん、プニプニしてきたし。


 これから俺ら、どうすればいいんだろ。やっぱり平和的に暮らすか? このままミカと幸せな結婚が出来るまで…カルアちゃんと一緒に遊びながら。

 結婚…はぅぅ…。

 いや、今さ、お金が日本円で19億近くあるもの。

 冒険者やめて料理屋始めるのもいいかも。いや、それだったらいっそ城の料理人になった方がいいかな。いつでもカルアちゃんに会えるし、自宅から徒歩0.0003秒もかからないし。

 そしてギルマーズさんとか限られた人だけに武器を作って売るんだ。


 しばらくして、ミカと結婚して、こう訊かれたりしちゃって『子供は何人にする? 有夢?』って。ふふふふふ…今この状況じゃ洒落になんないけど、それ。


 あー、その前にあれだ。やることがまだたくさんある。

 まずはゴールドローズクイーンドラゴンで実験しないと。

 成功するかどうかとして、やってみる価値はあるもんな。

 でも成功したらなー。後処理が面倒なんだよなー。


 あと、ダンジョンで手に入れたスキルカードとか処理をしとかないと。

 SKPと合成コストは有り余ってるから、合成すれば簡単に出来上がるものは要らない。

 瞬間移動とかあったらいいなー。そういうのが欲しいね。うん。

 まぁ、今日のふりかえりはこんなところかな。

 

 はぁ、記憶を探ることによって興奮を落ち着かせることには成功したよ。よかった。

 あのままじゃ、危なかったもん。



 「ふぁぁぁぁ~」

 

 

 

 程よく眠いや……明日は午後にインタビューを受けるぐらいで、他には特に用事がない。だからゆっくり寝れる。嬉しいなぁ…。

 かく言うミカは、いつ間にか眠ってるみたいだけれどね。


 寝息が顔にかかる。

 このままキスしてもばれないんじゃないか?

 いや、やめとこうか。

 いや、こんなこと考えてる時点で、俺、興奮、冷め切ってないじゃん。


 あーもう、そろそろ寝よう。いいかげんに。


 おやすみー!








[緊急、緊急。カルアちゃんが何者かに襲われました。緊急、緊急。カルアちゃんが何者かに襲われました]



 突然、寝ようとしていた俺の頭の中にメッセージが流れる。

 なんだよ、これから寝ようとしてたのにって…

え? 

 これ、俺が渡した装飾品の効果じゃん。

 まじかよ、急がなきゃ。今すぐ。

 カルアちゃんのもとへ!

 早く!



「ミカ、ミカ起きて! ミカ早く!」

「んー? 朝ぁ?」

「違う、緊急事態なんだよ! 理由はあとで話すからはやく城に行こう」

「えー? なんでー?」


 

 ミカはベットに身体を置いたま、眠たそうに目をこすった。

 完全に寝ぼけているみたいだ。



「カルアちゃんが攫われ誰かに襲われたんだよォォォっ!」

「えっ!?」

「素早さをフルにして! 行くよ!」

「う、うん!」


 

 俺の慌てっぷりをみて、ミカも覚醒したみたい。

 俺らは戦闘になるかもしれないから、ある程度の準備を超高速で済ませ、全速力でメファラド城に向かった。

 心配で仕方がない。なにやら、胸騒ぎがする。

 

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