第124話 カルアの大事な友達

 ミカとアリムが帰った日の真夜中。

 メフィラド王国の姫、カルア・メフィラドは友達と過ごした一時の、余韻を感じていて中々眠れなかった。




「ふふ、今日も楽しかったですわ。アリムちゃん、それにミカちゃん」



 カルアには友達がいなかった。いや、居たことは居たのだが、どうも表面上の付き合いだと感じていた。

 自分が姫だからだろう。皆、下手にへり下る。

 今まで遊びらしい遊びを一緒に楽しんでくれたのは、姉だと慕っている大臣さんの娘…リロと、大司教様の…ミュリだけだった。


 それでも年が4、5歳も離れていれば『お世話されてる』という感覚があることが否めない。結局は同い年では無いのだ。

 そこに現れたのがアリムだった。ほぼ同い年の友達。一緒に隣同士でご飯を食べ、一緒の部屋で遊び、一緒の寝床で眠れる。そんな友達。


 アリムとカルアが知り合ったきっかけは、およそ三週間前に行われたこの国の伝統行事、武闘大会優勝者との食会で。

 その時の食会、彼女は初めて参加するものだった。いつもパーティ等で自分の緊張をほぐしてくれるリロお姉様とミュリお姉様は参加できないはずだった。

 最終的には、二人ともアリムちゃんと知り合いということで参加できていたけれど。


 最初はこの国の国王である、父からのお願いとは言え、誰か知らない他人との食会なんて…カルアにとっては緊張して押しつぶされてしまいそうで、不安で仕方なかった。


 ところがどうだろうか? Aランクの部を優勝したのは同じくらいの女の子ではないか。

 最初は本当に、目玉が飛び出るのでは無いかと思えるほど、驚いた。

 それに、リロお姉様達とも知り合いなのだという。


  アリムは食会前に話しかけてきてくれた。隣に座って、リロお姉様とミュリお姉様に揉まれながら自分と親しく談笑してくれる。

 お父様もアリムちゃんと仲良くするのを良しとしてくれた。それどころか、アリムちゃんに遊びに来てもいいという許可まで出してくれた。

 さらには、彼女は私のことを友達だと言ってくれた。


 なぜお父様がここまでアリムちゃんを信用してるのか。

 それはカルアの兄であるルインがピピーの村から帰ってきてからの、私達に話してくれていた話が原因であった。

 森の中で見つけた記憶喪失の少女、その娘にリロお姉様達を助けてもらったこと。

 その記憶喪失の少女こそがアリムだった。


 一度、ルイン兄様様達に助けられ、また、ルイン兄様達を助けている。

 さらには伝説の大薬師と同じ、ただの薬草から簡単な道具のみでグレートポーションを作り出したりしたのだという。

 なるほど、お父様の信頼を得ていたのは当たり前のことなのかもしれないと、カルアは納得した。


 それに………ファウストという、評判がすこぶる悪いSランクの部の優勝冒険者も、騎士団長、SSランカーの冒険者であるバッカス、Bランクの部優勝冒険者、ラハンド様方の協力により指名手配され……言葉は悪いが、追い出すことに成功した。

 カルアも彼は正直嫌だったのだ。

 その後、死んだと聞いたのは心底驚いたが………。


 それはさておき、食会も彼女にとってはとてま楽しかった。アリムちゃんの隣に座り一緒に食べる。

 貴族の娘たちとよそよそしく食事するのとは全然違う。まるで一番上の兄であるテュールやルインと食事をする…家族と食事をするような安心感があった。


 そう思ったのもつかの間、食会中にどこから現れたのか、Sランクの魔物が城の屋根を突き破り、乱入。

 騎士団長曰く、あのファウストとかいう方が呼び出した可能性があるのだとか。


 あの怪鳥が放つ電流をただ恐怖で、ボーッと立ってかわすこともできなかったカルアをアリムは命懸けで庇った。

 カルアにとって、そのことは一生忘れられないだろう。


 ただ、あの美しかった顔が焼き爛れたアリムの、あの時の顔は…あまり思い出したくはない。

 アリムはどうやらその時の自分の顔を知りたがってたみたいだれども、絶対に知らない方がいいと、カルアは思っている。


 怪鳥を難なく倒したアリムの勇姿は、今でもカルアだけでなく、その場にいた者全員の目に焼き付いている。


 それと彼女が鈍臭い自分に怒っていると、カルアが勘違いしたこと。あれはの彼女の中で一番の失敗だと言っても過言ではない。

 最初、カルアはアリムな怒って、自分に剣を投げつけてきたのかと思っていた。

 しかし違った。彼女は迫り来る魔の手から自分を救うために剣を投げて、ファウストを避けてくれた。

 

 それからだ。アリムとカルアの仲は。

 さらには今日、カルアには新しい友人が増えた。ミカだ。

 仲良くなったのは良いが、カルアはミカとアリムの関係に対し、少し嫉妬している。

 そのことは本人も気づいてないけれど。

 

 それと、アリムはカルアにに装飾品を、その天才的なもの作りの知識で作っあ。

 その装飾品はカルアの宝物。これをつけてると、彼女から護られている気がするらしいのだ。


 だからカルアは毎日これをつけてるし、寝ている間もつけている。


 そういえばと、カルアは思い出した。

 アリムは近くに引っ越したって言っていた。お忍びで訪れるのもいいかもしれない。


 そう、一人で考えてニヤけていたところ、突然コンコンコンと、自分の部屋のドアを叩く音がした。

 誰だろう、もう真夜中の筈だ。



「姫様、開けてよ。忘れ物しちゃったんだよ」



 間違いない、アリムちゃんの声だ。忘れ物しちゃっ……て?

 あれ、『姫様』? おかしい。アリムはカルアを『カルアちゃん』と呼ぶ。 初めて会って、二人でそう、呼ぶことに決めたのだ。

 

 怪しすぎる。もしかしたら、ファウストが生きていて…?

 そういうことも考えられる。少しかまをかけてみようと、カルアは試みた。



「どなたですか?」

「ボクだよ、アリムだよ」

「そうなんですか……ところでアリム"様"の一人称って、『オレ』ではありませんでしたっけ? 

変えてみたんですか?」

「う!? うん、そうなんだよ。はは…気がすこし変わってさ」

「へぇ…」



 頭の回転が良いカルアは、この会話で時間を稼ぎつつ、騎士団長にメッセージを送っている。

 ……明らかにアリムちゃんではない。もう少し時間をかけよう。大臣様を呼ぶのもいいかもしれない。あの方も相当強かったはず。



「そうそう、アリム様、昨日作ってくださったスイーツ…とても美味しかったですわ。お名前は…えっと…なんでしたっけ? あ、あとアレのなかに入ってた冷たくて甘い物は………」



 すると突然、ドアの向こうの人物の声色が変わった。



「おんやぁ? たった13歳だと言うのに生意気にも"カマ"をかけようとしてますねぇ? 流石は一国の姫様と言ったところでしょうかぁ?」



 ……やっぱり。カルアは誰かを大声をで叫ぼうとする。が、さっきと違って声が出ない。

 …なにか魔法を使ったのだろうか?



「本当はこんな手荒な真似したくなかったんですがねぇ? 寝てる間にひょいって攫ってくつもりだったんですが……仕方ないですよねぇ」



 だが、この部屋にはエンチャントがしてある。許可無き者が戸を無理矢理開けようとすれば、騎士隊にそれが伝わり、カルアのもとに駆けつけてくれるようになっている。


 それだけではない、今、騎士団長もこちらに向かっている。

 騎士団長は仮に冒険者ならばSSランカー程の実力。この者はすぐ捉えられるだろう。


 それに、騎士様達がたどり着くまでの時間稼ぎに部屋の壁から人工ゴーレムが出てきて……。



「いやぁ、このドア、いろいろと仕掛けがあるようですからねぇ? 俺、ドアの隙間から通り抜けちゃいましたよぉ~!」



 え? 


 目の前に現れたおかしな道化のような男は、さらにこう続けた。



「じゃあ、いきましょーか? お ひ め さ ま」



 

 ________カルアの意識が遠のいていった。




__________

_______

____



「カルア姫様、何事ですか!?」


 

 この国の騎士団長は姫から連絡を受け、急いで駆けつけた。所持している緊急用の鍵で姫の部屋の戸を開けた。

 そこにはカルア姫様がちゃん居た。



「あぁ、ごめんなさい。少し、大きめの虫が出てきてしまったので驚いてしまって」

「そ、そうですか。よかった何もなくて。もう深夜ですからね。お眠りください」

「はい。ご迷惑おかけしました。おやすみなさい」

「おやすみなさいませ」



 騎士団長はホッと胸を撫でおろし、姫様の部屋から去った。


 ただ彼は知らない。


 それは姫様でないことを。





 それと同時刻、真夜中だというのに、二人の少女が慌てた様子で城門の前に居た。

 

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