エピローグ

「ねえ、おばあちゃん」

 耳もとで下の孫娘が私に囁く。だけどその声は遠くに感じた。

「お姉ちゃん、おばあちゃん寝てるよ」

「ペペ、大きな声出しちゃだめよ」

 上の孫娘が妹を嗜めているけど、その声も遠くに聞こえる。

「寝かせといてあげましょ。おばあちゃん少し疲れちゃったのね」

「うん!だけどおばあちゃんってほんとこの揺り椅子が好きだよね」

「椅子というよりこの樹が好きみたい。たくさんの思い出が詰まっている樹なんだって」  

 上の孫娘だろうか。ずり落ちていたブランケットを肩の上までかけてくれた。 

「ふふ、おばあちゃんきっと楽しい夢でも見ているのね」

 孫娘達の足音が離れていく。

 意識はあるけど、私は眠っているのだろうか。

「サラ、ねえサラ」

 誰かが私の名前を呼んだ。

 誰だろう。なかなか思い出せないけど、とても、とても懐かしい声。

「サラ起きてよ。もう、お寝坊さんなんだから」

 重い瞼をうっすら開けると、そこにはノエルの顔があった。

「……ノエル……ノエルなの?」

「サラったら、まだ寝ぼけてるの?今日は花を摘みに行く約束してたじゃん」

 ノエルが笑いながら私の手を取った。

「ノエル……ノエル!」

 ずっと、ずっと会いたかった。

「サラったらまた泣いてるの?相変わらず泣き虫なんだから」

 ノエルが呆れた声で呟く。だけど目は優しく笑っていた。

「だって……ずっと会いたかったんだもん……」

「サラ、僕はずっとサラの側にいたんだよ。そして、これからもずっと一緒だからね」

 そう言うとノエルは私に微笑んだ。


 ノエルの樹はそっと風に靡き、葉が何枚かゆっくり、舞い落ちた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幸せを願う樹 @eisukesatoh

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ