第14話

 目が覚めた時、目の前にサラの顔があった。心配そうに僕の顔を覗きこんでいた。

「ノエル、大丈夫?」

 意識がまだ朦朧とする。どうやら僕は、サラを壊さないで済んだみたいだ。僕はゆっくりと起き上がった。

「無理に起き上がっちゃだめ!ノエルは一日中寝てたんだよ……」

 どうやら、日にちを跨いでしまったらしい。窓の外を見ると、ちょうど陽が登りはじめる時間のようだった。サラの顔を見ると、安堵の気持ちが広がるのと同時に、怒りがこみ上げてきた。

「サラ、どうしてあんな無茶するんだ!」

「無茶って?」

「なんで僕から離れなかったんだよ!あの時、下手したら……下手したら僕が君を壊してしまったかもしれなかったんだ!それなのに……」

「大丈夫、ノエルはそんな事しないよ」

 サラはそう言って笑った。サラは僕を信じてくれている。だけど、それはかえって僕には辛かった。だって、僕自身が僕を信じられないのだから。

「それより、ユタさんどうしよう……」

 サラは呟いた。そうだ、あいつの問題があったんだ。だけど、それはもう些細なことのように感じる。あいつは悪い人間ではない。もちろん気をつけた方がいいけど、今すぐ僕達に害を与えるようなことをするとは思えなかった。

「あいつ、何か言ってた?」

「ごめんって……自分のせいでノエルが発作を起こしてしまったと思っているみたい。まだノエルの全てはばれていないと思う。今はただ、発作を起こす事がある人形っていう感じなんじゃないかしら」

 サラの言うとおりだとしたら、このまま放置も危ない気がした。そもそも、「発作を起こす人形」だと思われているとしたら、まるで悪霊が乗り移った呪いの人形みたいじゃないか。

「ユタさんはまた来るって言っていたから、その時に上手くフォローしておくね」

 サラが自信ありげに言う。だけど、その自信がどこから涌いてくるのか正直分からなかった。サラを信じているけど、サラの説明能力については正直疑問を抱かざるをえなかった。

「ねえ、ノエル」

 サラは、今までとはうって変わって真剣な眼差しになり、僕に話しかけてきた。

「どうしたの?改まって」

「私……ノエルの事が大好きだから。上手く言えないけど、その……それだけはノエルにも知っておいてほしいの。たとえ世界がノエルの敵になっても、私だけはずっと味方だからね!……変なの、何大袈裟なこと言ってるんだろう、私……」

「……うん、サラ変だよ」

 僕は素気なく言った。サラは恥ずかしそうに両手で顔を覆っている。胸が苦しくてたまらない。僕だってサラの事が大好きだ。他の誰よりも、サラが大好きだって言える。だけどいつかこの思いが抑えられなくなって、サラを壊してしまう。

 サラの方を見ると、よっぽど恥ずかしかったのかまだ両手で顔を覆っている。きっと今の言葉を告げるだけでもたくさん勇気がいたんだろう。それなのに僕は、サラと勇気を出して向き合うことができない。

 僕は臆病で卑怯だ。僕が本当に恐れているのは、サラを壊してしまうことじゃない。それをサラに知られ、サラが僕から離れてしまうことがなにより恐いんだ。だから僕はこの黒い気持ちを必死に隠そうとしている。

 サラに告白しよう。サラみたいに勇気を出して自分の気持ちを伝えよう。その結果、サラが僕から離れてしまうかもしれない。だけど今だってたくさんサラを傷つけてしまっている。サラが傷つくより、僕が傷ついたほうがましなんだから。僕は、両拳を強く握った。

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