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「――以上が例の死神ゲームの顛末だ。これのおかげで僕達はあの騒動に巻き込まれてしまったわけだよ」


 悠々と椅子に腰をかける彼は、床に胡坐をかく僕に向かってそう言った。


 随分と長い話だった。死神ゲームの説明をするのであれば要所要所をかいつまんで話せばいいというだけなのに、彼はまるでそれを見て来たかのように話すのだった。


「何故こんなに情緒的に語るのかって? こうやった方がリアリティが出るだろう? それに、淡々と事実を話すよりも死神ゲームに対しての危機感が出る。あれは繰り返してはならない悲劇だと感情的に訴えることができる。特に君のような奴にとっては効果的だ――そうだね?」


 彼は口の端を上げて言った。……イイ性格をしている。でも確かに、そのやり口は僕にとって効果的だったかもしれない。最初は乗り気ではなかったけれど、俄然やる気が湧いてきた。


「結局、彼らが起こした暴動は死神界を変えるほどのものではなかった。しかし、死神ゲームを表向きに禁止にまで追いやった功績は大きい。あれほど皐月君には逸るなと言った筈だったんだけれど、まあ、結果成功したんだから良しとしよう。今更どうこう言ったって仕方ないしね」


 肩をすくめながら彼はそう言った。彼は自虐的に笑いながら続ける。


「死神ゲームは終わらない。死神界が変わっても絶えることはない。規制されたからといってなくなるわけではなく、裏社会で闇賭博として開催され続ける。手を変え品を変え、少しづつでも姿を変容させながら残り続ける。これはね、現実世界の薬物と同じで一度始まってしまったら止まらないのさ。脱法と取り締まりの繰り返し。この地獄はそんなものへと既に変容してしまっている」


 溜息を吐いた。確かに、そんな話かもしれないけれど、


「――でもね、彼らがやったことは決して無駄ではなかった。こうして死神ゲームは規制され、数が零にさえならなかったものの、開催される回数はぐんと減っている。つまり、その分犠牲者が減っているということなのさ」


 彼の自虐的な笑みは依然変わらない。でも、彼の目だけはずっと笑っていなかった。


「鑑境谷はもういない。この世の何処にも。あの世の何処にも。姿形一辺さえ、消え去った。しかし、逆に言ってしまえば今のこの死神界そのものが彼と言ってもいいのではないだろうか。彼がいなければ死神界がここまで変わることはなかっただろう。彼が残した爪痕は、今も深くこの世界に突き刺さっている。それはもう抜けることはない。癒えることはない。消えることなく、残り続ける」


 彼は力強くそう言った。僕もそう思う。そう思わなければ、報われない。


「彼らのように先に逝ってしまった者達の後始末をするのが僕達の役目だ。それが残された者達の宿命なのだから」


 ふふっ、僕は笑ってしまった。残された者? 逝くことを許されない者の間違いではないだろうか。彼も――僕も。


「さて、君には死神ゲームがどんなものか十分に理解してもらったと思う。それで本題だ。僕らがわざわざ上海まで来たのは、ここで死神ゲームが秘密裏に行われているからそれを潰そうってわけだ。ショーケースなき今、死神ゲームを行うに際し実際の都市を一時的にゲーム用に加工してなんとか運営している。つまり、下手をすれば現実世界に何かしらの影響を及ぼしかねない。違法化されたが故の弊害だ。皮肉なものだね」


 ――でも、だからこそ。


「止める。これ以上好きにさせるか。彼らが燃やした魂を、灰にまみれたままにはさせない」


 彼と僕は立ち上がった。そろそろ日が昇る。死神ゲームが始まる。




 きっとこれは終わらない。




 抗い続ける者がいる限り、諸悪もまた存在し続けるのだ。




 それでもきっと、立ち向かうことが正しいと信じて。




 僕達は、戦い続ける。






《――夜が明けました。

 これより、死神ゲームの開始を宣言します――》











⦅死神ゲーム 了⦆


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