第1話『君、誰よ? 』
全く見覚えのな居場所で、俺は一人立ち尽くしていた。
気がついたときにはここにいた。
うん、ここまで非常に既視感が強い状況だね。
ただし、今度は目の前にイケメンがいない。残念なことに美人なおねーさんもいない。正真正銘の一人ぼっちだ。
それに、もっと違うことがある。
つまり、今目の前に色があり、俺はこの足で立っている。
天をあおげば青空が広がり、地を見渡せば草原が風になびく。
少し向こうには森が繁り、そのさらに奥には山がそびえてたつ。
そして、それらすべてを太陽が照らしている。
そう、この世界は黒1色、あるいはモノクロカラーじゃない。
他のことの衝撃が大きすぎて隠れていたが、正直黒一色の視界に実は気が狂いそうだった俺としては、大きな喜びをもってこの景色を受け入れたいと思う。 最高だなおい。
しかし、今の俺はあくまでクールに冷静に現状を分析するべきだろうな。
取り敢えず草の上でごろごろしたり、すこし走り回ったりはしてみようとは思うけど、これあれだよあれ……そう! 体の感覚に違和感がないかどうかの確認だよ。 断じてはしゃいでいるわけではない。俺はフールボーイではなくクールガイなのでね。
では行こうか、ひゃっほう!!
って訳で走ってきました。楽しかったです。
そして、分かったことが一つ。
自然って素晴らしい。
あと、ついでに誰かいないかな~とか思ってたけど誰もいなかったぜ!! 楽しかったから問題ないね!! また変な鎧野郎が出てきても困るし!!
あと、今更だけど改めて現状確認をしとこうと思う。俺は冷静沈着なのでね!!
まず、俺の名前はエクセル!!
記憶喪失な男の子!!(ち○ちんが今もゆらゆらしてるぞ!!)
気が付いたら真っ黒世界にいて、そこで変な奴と話したあと、気を失ったと思ったらここにいた!!
次に今の俺の容姿について!!
そばに水溜まりがあったから確認したよ!!
俺は、黒髪銀眼で、肌は淡橙の青年だったぞ!!
主観的に見てイケメンだと思う!! 鋭い目付きが我ながらイカしてるね!!
ちなみに、なにも着ていないぞ!!
以上!!
他に分かっていることは……ないんだなぁ……
強引にテンションで押しきろうとしたが、明らかに情報量が少ないのはどうにもならない。
ちなみに記憶喪失であること自体は、今はもうなんとも思ってなかったりする。
固有名詞とか思い出は全部忘れてるけど、一般名詞は全然覚えてるしな。
人は失って初めて失ったものの大切さに気づくってよくいうけど、どんなものを失ったかもわからないのに感情なんてわいてこねえよ! いやマジで。
人は、自分が知っているものにしか執着を抱けないんだなって。
まあ記憶が戻るならその方がいいのは当たり前なんだけどな。
それにしても、これからどうしようか……
特にすることというか出来ることがない。
ここがどこかも知らないし、流石にこれ以上はしゃいで体力を浪費する気にもならない。そして、当然持ち物はなにもない。
そんな今の俺にでもできることは何か……睡眠とかか?
この案は結構いいんじゃないだろうか。
ほら、果報は寝て待てと言うし。
はしゃぎすぎ……状況確認に精を出しすぎて疲れたし。
よし、決まりだな。
寝よう。
さて、何時間たったのだろうか。寝る前は青かった空が黄昏色に染まっているところを見るに、それなりに時間がたっていることは確かだろう。
そよ風に吹く広々とした草原に素っ裸で大の字になって寝るのは中々に心地よかったが、今にして思えば獣なりなんなりに襲われるリスクが大きすぎたな。どう考えても正気の沙汰ではない。先程、もしかしたら今も俺はそれなりに追い詰められた精神状態にあるという自覚は持っておいた方が良さそうだ。
ただまあ、結果論的には悪くない選択だった。肉体的というよりは精神的な回復が出来たことは大きい。
さて、いい加減に文字どおり目の前の現実から目を背けることにも限界があるな。
そう、想定してしかるべきだった野性動物の接近とは少し違うが、俺が寝ている間にそばによって来ていた存在がいたのだ。
俺が目を覚ましたとき、ちょうどそいつの顔ーー逆さになったイケメンフェイスが目の前にあった。
目が覚めたら目の前にイケメンとか、実に覚えがあるシチュエーションだな……まあ、あいつの無愛想面と違って今度のはなかなかいい印象を受ける顔だが。ほんの少しだけ青みがかった黒髪に透き通った碧眼、目鼻立ちは整っているが少しばかり幼く見える。俺より年下なんじゃないか?
どうやら、彼は寝ている俺の顔を覗き込んでそれなりにまじまじと眺めていたらしい。目を開けた瞬間、しっかりと目があったのはそういうことだろう。
俺がイケメンだから見とれてしまうのはわからないでもないが、流石に失礼ではないだろうか。
それに俺はノンケで男と見つめ合う趣味はないし、緊張するだけだ。
正直な話とっとと目の前から退いてもらいたいんだが、俺が目を開けてからはや数分、俺も相手も微動だにしない。
仕方ない、俺が話の糸口を切るとしよう。
俺はどっかの無愛想馬鹿と違って礼節ってものを弁えているので、さぞかし滑らかな会話ができることだろう。
というわけでだ……
「君、誰よ?」
そういえばあの無愛想馬鹿の名前はなんというのだろうか、聞くのを忘れていた。そんなことをふと考えた。
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