第6話『口が滑った』
これで
「さっきも言ったように、この世界を創造したとされる神々は今はもうこの世界には存在していないか、もし存在しているのだとしてもその力を行使することはないとされている。
「ああ、大丈夫だ」
いやそれはいいんだけどさ、その神様とかいうやつは本当にいたのかよ。正直眉唾なんだが。だって今はどこにもいないんだろ? そんな疑惑の言葉は、取りあえず腹に据えておく。
変に話の腰が折れても困るし、それ以上にグレイは嘘をついているわけでもなさそうに見えた。そして、話ぶりから神とやらへの以上な傾倒も読み取れない。なんならグレイ自身もさっきこの辺の話はよくわからないっていってたしな。
だから、彼が今この話を俺にしているということは、彼が理性的にそれなりに筋道が通っていると思っている話が続くのだろう。少なくとも、このまま話を聞く価値はあるはずだ。
「ははは、顔は大丈夫だとは言っていないよ。」
などと思っていたが、顔には出ていたらしい。やれやれ、拙者はまだまだ未熟者にて候う。
「まあ、君が信じられない気持ちはよく理解できるよ。でも君も、
「彼ら?」
それっぽいやつの話を聞いた記憶、なんもねえんだけど。
「この世界には、人の領域を遥かに超えた力を持つ存在が色々といるんだよ。彼らのことも後からはなすよ。まあそれ以外にも神の存在を証明する証拠はきちんとあるから、安心して話を聞いてくれ」
「いや、むしろない方が精神衛生的には良かったんだが」
「ああそれはその通りだ。僕も心からそう思う」
軽口のつもりで言ったことだったが、随分と厳しい口調で同意された。いやさ、俺も大概未熟者って自覚はあるんだが、お前も大概だよな。すぐ取り乱すし。それにしても、なんか逆鱗に触れたかな。随分とお顔が怖くなってるんだが。あ、グレイじゃねえぞ、グレイの顔もそこそこ険しいけど、それ以上にその後ろにいるトカゲさんの顔が怖い。あと、何処か遠いところを見ている気がする。マジで怖い。チビりそう。物理的には逆鱗に触れてねえ筈だし、何か不味いことを言ったのかもしれない。
「ん? ブリティエグ、どうしたんだ?」
ようやくグレイがトカゲさんの雰囲気が変わったことに気がついたらしい。おせーんだよアホが。
なるほど、トカゲさんはそのお名前をブリティエグさんというらしい。舌を噛みそうな名前だが、しっかり覚えなくては。ブリティエグさんは目の前のアホの何倍も敬意を払うべき相手なのだ。ブリティエグ、ブリティエグ……
「すまないエクセル、事情が変わったらしい」
「アホは少し黙っといてくれ」
「もしかしなくても、それは僕のことを言っているのか?」
チッ、口に出ていたらしい。えーと、ブリ、ブリティ……ああ、ブリティエグだ。よし、覚えた。
「あーはいはい、悪かった口が滑ったんだ。で、なんだって?」
「色々言いたいことはあるが、事情が変わった。一度話は打ちきりだ」
おいおい、長い長い説明はどうしたんだよ。そう言いかけたが、グレイの表情を見て止めた。怒りで我を失ったわけでもなければ、諦念を含んでいるわけでもない。勿論、動揺してビビりまくっているわけでもない。
緊張感のなかにどこか強い意志を感じさせる、いい表情をしていた。
グレイ、やれば出来るじゃねぇか。
「理由は?」
そう聞きいたのは、本当に理由が聞きたかったからではない。
今目の前にいる男が、なんと答えるのかに興味があった。
「なに、君には座学よりも実技のほうがいいんじゃないかなと思ってね」
「そりゃいいな、ちなみに実技担当講師はどちらの方がやってくださるんで?」
「その言いぶりからするに、僕じゃあないってことは既に察しているらしいね」
「そりゃまあ、さっきからのお前を見てりゃわかるわな」
「俺というよりは、ブリティエグを見てれば、だろう?」
全くもってそのとおりだよ。あと、ブリティエグさんには一度ちゃんと紹介してほしいよね。やっぱ礼儀はちゃんとしないといけねえよな、うん。
「まあ、先生は来てからのお楽しみにしておこうか」
「はぁ……なにも楽しみじゃねんだえけどな」
「安心してくれ、僕もだよ」
いや、なんに安心すりゃいいんだよ。
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