第5話『長い長い説明を始めようか』
グレイは何から話したものかと悩んでいる。まあ彼は俺のために悩んでくれているのを邪魔するわけにもいかないし、空でも眺めて待っていよう。ちょうどおあつらえむきに、星がきれいだ。それなりの時間がたった頃、グレイが口を開いた。
「よし、話の筋道はたてたけど……後出しの文句は受け付けないよ?」
「順序はまかせるっつったろ?」
「ははっ、そうだね。……うん、まず一つ確認なんだけど、エクセルは記憶喪失ってことで間違いないんだよね?」
「ああ、自分の事がエクセルって名前以外何も分かんねえくらいには記憶喪失だな」
「OK、なら名前だけ覚えていたって言うことでいいのかな?」
「いや、名前も忘れてたんだけどさ、この草原にいる前にいた真っ黒い世界としか言えない場所で白い鎧の男に言われたんだよ。『名はエクセル』って」
「真っ黒い世界で誰かにあった? それは……どういうことなんだ?」
「お前が分からねえのに俺が分かるわけねえだろ」
「そうだね……」
またグレイが悩み始めたのでしばらく星でも見ているかと思ったが、今度はすぐに目があった。
「そろそろいけるか?」
「もう悩んでいてもどうにもならないしね」
今更それを言うのかよ。ずいぶんと順番を悩んでいたのはなんだったんだろうか。だがそれは、逆に言えばそれだけ話せる情報が多いってことだ。期待が膨らむな。
「それじゃあ、長い長い説明を始めようか。もし途中で寝たら、今度は水で叩き起こすからね」
「望むところだ」
出来れば優しく起こしてほしいけど、まあ寝なければいいだけのはなしだ。
「ちなみに、僕の名前は覚えてくれたのかな?」
「グレイだろ? 当然覚えたよ」
「それは渾名だよ……」
「あぁあのやたら長いのか。全く覚えてない」
あんなに長い名前、1回しか聞いてない様なもんなのに覚えられるわけねえじゃん。
「そうだろうと思った。じゃあその話も後でいいか。まず、この世界そのものについて説明しよう。
この世界は、遥か昔にどこかからやって来た神様たちが創った世界だと言われている。この世界の他にもいくつか世界があって、神様たちはその他の世界のうちの一つからきたらしい。その後、なんやかんやあって神様たちはどこかへ去っていった。この辺りの話はよくわからない。大事なのは、今この世界には本来の創造者、支配者である神達が存在しないということだ。そして、今の世界には彼らの力の断片だけが残っていて、特徴によって細かく区分される人族種、特殊な存在である龍種と精霊種、あとは知性の乏しい動物や植物なんかが生きている。
人族種は大きく3つに分けられる。人間族群、竜人族群、獣人族群だ。
まず1つ目、僕たちが所属しているのが、人間族群のうちの人間族。すべての人族のなかでも中間的な見た目をしてるから、人間っていうらしい。他の説だと、神様達と一番見た目が似ていたから神と人の間で人間っていうんだっていう人たちもいる。僕個人としては、身体能力も魔力も弱い方の人間族が神と人の間ってことはないと思うんだけどね。ただ、
「なあ」
「なんだい」
「もしかしなくてもこの話長くなる?」
想像以上だった。既にしんどさが出てきている。明日に回して早く寝たい。
「話してっていったのはエクセルだよね?」
俺の願いはあっさり断たれた。無念。
「続けよう。仕方ないから巻けるところは巻くことにしよう。2つ目が龍の血を引いていると言われていて、個々がとても強い身体能力を持つ竜人族群。3つ目がとても多種多様な容姿を持ち、それぞれが特殊な能力を持っていることが多い獣人族。まあ今は大きく3つの勢力が争っていることがわかればいい。
そしてこれらの勢力のうち、竜人族群は完全に一つの社会を形作っているんだけど、獣人族群と人間族群は沢山の国家に別れて内戦のようなことをしている。ここまでわかったかな?」
「ああ、4つのグループがケンカしてて、うち2つは仲間割れ1つは内部崩壊してるんだな」
「あーうん。大体あってる。続けよう。僕たちが所属する人間族は沢山の国家に別れているわけだけど、そのなかでも4大国と呼ばれている大きな国があるんだ。そして、そのうちの1つがブライトロード帝国。君をこの世界に召喚した国でもある」
ほう、迷惑な奴だなブライトロード。あれ? ブライトロードってどっかで聞いたことある気が……
なにかが頭に浮かびかけたが、グレイの声に遮られる。
「そして、このブライトロード帝国は様々な脅威が存在している」
「あれだろ? 獣人族群とか竜人族群とか」
「それもある。そして他の人族の存在に加えて、他の人間族群の国家、そして『魔王』と呼ばれる存在がいる」
「魔王? また大層な名前だな。どんな奴なんだ?」
「魔王についても後で説明するよ。今は敵がたくさんいるんだ、という認識をしておいてくれればいい」
スッパリと断ったかに見えた俺の願いを汲むべく、グレイも気を使ってくれているらしい。その気持ちをありがたく受け取ろう。取り敢えずブライトロードという国には多くの敵がいるんだな。
「ブライトロード帝国はこれ等の脅威にに対する防衛策を持っておかないといけないわけだけど……正直人間族がいくら集まったところで限界があるんだ」
「と言うと?」
「さっきも言った通り、龍人族と亜人族は単体での戦闘力において人間族のはるか上をいっている。例え普通の兵士を10人集めても、龍人族の戦士一人に苦もなく蹂躙されてしまうだろう」
……それさ、人間族詰んでない?
「これだけ聞くと、人間族は他の人族に全く対抗できないと思うだろう?」
「あ、ああ」
いや、思うもなにもこんなん無理だろ。
10人で勝てないなら11人で勝てばいいという話じゃない。
10人が1人に蹂躙されるのだ。20人兵士を集めて、しかも彼らが上手く連携をとれたらなんとか勝てる。そんなレベルだろう。
「だけど、現実には人間族は他の2つと互角に争っている。この状況を支えているのがさっき言った『
「お、魔法ってのはさっきお前がろくに説明もせずに人のことを水浸しにしやがった時のあれだよな?」
「君、案外根に持つな……ああ、そうだよ。さっきのも基本的な水魔法さ。威力は高めだけどね」
「その魔法ってのは人間族しか使えないのか?」
「いや、そんなことはない。むしろ獣人族群や竜人族群のほうが魔法の威力は高い」
意味がわからないよ。
「精度が問題なんだよ。魔法の精度、速さだの精密さだのは多少のセンスの差はあれど、腕力ほど明らかな生来の差がある訳じゃない。一般的な魔法の鍛練を積んだ人間族の兵士が5人も居れば、竜人族の一般的な兵士1人相手でも連携次第では普通に勝つことが出来る」
なるほどな。
「まあ戦場ではそううまくはいかないんだけどね」
おい。
「魔法はあくまでおまけ、あくまで人間族を支えている最大の戦力は
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