ストーカー

和泉side



俺は、和泉浩太です。

日常生活部の書記をやっています。

まあ、仕事なんて、ほとんどないですけど。

得意なことは、料理、洗濯、お裁縫など。簡単に言うと、家事全般が出来ます。

部員のみんなからは、主夫、お母さんと呼ばれることがあります。

言われても、あまり嬉しくないです……

最近は、真実ちゃんのお世話をやっています。

正確に言うと、真実ちゃんの家のお手伝いさんのバイトをやっています。

別に、恋愛感情はありません。

俺には、好きな人がいますから……

そのことは、後で話すかもしれません。

実は、最近、東野先輩にストーカーがいるそうです。

一日に、同じ字の手紙や、東野先輩のビデオや写真が届いたり、誰かにつけられているそうです。

一週間前から、エスカレートしてきているようでした。

東野先輩は、確かに他の男子から人気です。

成績優秀。眉目秀麗。性格もいい。

まさに、完璧な人です。


今日は、東野先輩のストーカーの犯人を見つけることにしました。


「よし、これから東野のストーカーを探す。というか、今も見張られていないか……?」


阿久津先輩が周りを見渡す。


「確かに、何か良くない気配がする……」


リョウ君も、珍しく不快そうな顔をする。


「嫌だ……怖い……」


ユイラちゃんが、レイラちゃんに抱き着く。


「……落ち着いて」


レイラちゃんは、ユイラちゃんを安心させようとする。

それが正しいのかもしれない。

この中の誰かが不安になれば、きっと東野先輩も不安になると思う。

それに、東野先輩は優しい。

相手を心配しすぎて、自分がどうなろうとかまわない所がある。


「東野さん、いつからストーカーにあっていたんですか?」


洋君が真剣な顔で聞く。

普段は、ドSだが、こういう時は、とても助かる。

洋君は、ツンデレな所があるのだ。


「大体、一か月くらい前から……かな」


東野先輩が、少し震えた声で言う。

やはり、不安なようだ。

洋君が、あごに指をあて、考える仕草をする。


「東野さんをこの部屋で今も見ているなら……この部屋で一番よく撮れる場所……」


全員、洋君の考える邪魔をしないように見守っている。


「阿久津さんの丁度後ろの棚、いつも東野さんが座っている関の正面です。よく映りそうですよ」


阿久津先輩が棚をよく見る。


「本当だ。隠しカメラだ。でかしたぞ、洋!」

「ねえ……この部屋、私たちが使う時以外は、鍵をかけているよね……?」

「じゃあ、カメラがあるってことは……ストーカーは、日常生活部の人ってことだよね?」

「本格的に怖くなってきたな……」


流石に全員ゾッとしたようだ。

周りの空気が重くなってきた。

阿久津さんが言う。


「もし、この中に犯人がいるなら、正直に話せば、許すかもしれないぞ」

「はい……僕がやりました……」


一君が突然言った。


「え?一君が?」


全員、驚きを隠せないようだ。

一君は、気が弱い。

でま、そんな犯罪のようなことは、やらないような人だ。

なぜ……


「嘘だろ」


阿久津先輩が聞く。


「本当です。カメラのファイルの中に僕が自撮りしている映像があります。ごめんなさい……」

「東野、どうする?許すか?」


東野先輩は、優しく質問した。

下手に刺激を与えないようにしている様子だった。


「榊原君、なんでこんなことをしたの?私は、榊原君が望んでやったように見えなかったけど?」


一君が、泣き崩れながら真実を話した。


「東野さんのファンクラブの人が……ナイフを突きつけて、無理やり脅してきて……怖くて、断れなくて……」

「もう大丈夫。大変だったのね……」


東野先輩は、少し怒っているようだった。

一君にではないと思う。

きっと、一君を脅した人たちにだと思う。

いくら東野先輩のような優しい人でも、仲間を傷つけようとしたら、怒るだろう。


「よし!」


洋君が突然大きな声で言う。


「洋、どうした?」


阿久津先輩が聞く。


「今から、そいつらぶっ潰してくる」

「「「なんで?」」」


みんな、なぜかわからないようだ。

俺もだ。


「和泉のため」


洋君が俺にだけ聞こえる声で言った。

ボフン

俺は、顔を真っ赤にしてしまった。

そう。俺は、東野先輩のことが好きだ。

入学してすぐ、道に迷った時に、案内してくれた。

一目ぼれだった。

あの、黒くて艶やかな黒い髪に、澄んだ金色の瞳。

ずっと忘れることが出来なかった。

このことは、勘のいい洋君しか気が付いていない。

二人だけの秘密だ。

そして、洋君は、脅した人たちの所に行った。


「「「ギャーッ!許してくれー!」」」


男子たちの悲鳴が学園中に響いた。

洋君が何をしたのか、俺土間わからなかった。

きっと、永遠に知ることはないだろう。

いや、知ってはいけない気がする……

俺は、忘れることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る