第86話 海戦 11

  ◆





(どうしてお兄ちゃん!? 早くそこから降りて!)


 頭の中で高い声が響く。

 妹の声だ。

 妹が必死に叫んでいる。

 いつもなら押しの強い妹の言うことを聞いてしまうが、今回ばかりはそうはいかない。

 今までの自分は無力だった。

 何も出来なかった。

 そんな自分にも武器が手に入った。

 加えて妹のピンチだ。

 神が味方したとしか思えない。

 ただ、手に入れたのは悪魔の力だったが。


「今行くよ、コズエ」


 何度呟いたか分からない言葉だが、自分を奮い立たせる為に再度呟く。

 目の前の海には、大量のジャスティスが見えている。海の上に立っているように見えるが、これが海軍専用ジャスティスなのだろう。

 それに戦艦もいくつか浮かんでいる。その戦艦の上にもジャスティスが大量に配置されている。

 圧倒的な制圧量。

 それが、カズマが抱いた相手への印象だった。

 だが、怯んでなどいない。

 自分の命に代えても助ける。

 そのために自分は悪魔に魂を売った。

 戻るなど考えるはずがない。

 そんな考えなどない。

 進め。

 道はそこにある。

 ――ヒュン。

 振り切る様に持っている大きな刀を振る動作をさせると、そんな風に風を斬った音が鳴った。この刀はジャアハン国のジャスティス特有のものらしく、デフォルトで装備されていた。

 勿論、カズマには刀を扱ったことは無い。ライトウという存在がいるのだから、やろうとも思わなかった。

 しかし、今はそんなことを言っている暇はない。

 ジャスティスが持つような大きな刀の扱いは。ライトウだってしたことがないのだ。彼の方が上手く扱えたかもしれないとか、そんなことは議論するだけ無駄だ。

 自分がやるしかない。


「コズエ、待っていてくれ」


 カズマを乗せたジャスティスはグッと足を曲げると――


「今助けるからなああああああぁぁぁっ!」


 叫びながら戦場――海上へと走り出した。

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