第78話 海戦 03
◆
一人残された森の中で、コズエは思考していた。
この数か月、クロードをリーダーとして、かなりの激動の日々を送っていた。
だが、それで良かったと思う。
施設を焼かれ、色々と苦労して何とか生き抜いていただけのあの頃から、皆の目も輝いているし、生きているという実感も湧いてきている。
(……正直、賭けでした)
クロードの活躍を聞いて、そこに飛び込んだ。
彼をも利用と画策した。
だが――考えが甘かった。
対峙した瞬間に、彼を利用するなんて思いは吹き飛んだ。
思考を読む能力が使えなかったこともあるが、それ以外でも本能が察した。
この人が内に秘めている復讐への気持ちは半端なモノではない、と。
悲壮な覚悟を持って復讐に臨んでいる、と。
そのために何か、大切なモノを犠牲に既にしたのだ、と。
だから即座に服従を誓った。周囲にも誓わせた。
勝てないし、利用するなんて考えた所で殺される。
相手は化け物だ。
魔王の異名に偽りがない。
――しかし。
(……こうして数か月過ごしたけど、あの人、最初の雰囲気と違うんですよね……)
クロードは非情だ。――そう言える出来事がまるでなかった。
能力で作成したコテージだって、先に会話した温泉だってそうだ。
自由勝手にすると思ったら、きちんとリーダーをしている。
仲間を大切にしている。
(私なんて前線に張らせられると思ったんですけどね)
コズエの能力の有用な使い方は、前線にスパイとして入り込んで相手の思考を読み、テレパシー能力で伝えるというやり方だ。
だが、クロードはそういうやり方を一度もとったことは無い。
彼がコズエに与えた役割は、ミューズの情報をカズマに伝える、ということだった。
つまり、安全圏である後衛だった。
前線はクロード、ライトウ、アレインの三人が主だった。
正確には、そのほとんどがクロードだった。
(本当に何でも一人でできるんですよね、あの人)
だからこその余裕なのであろう。
本当にコズエ達などは必要ない。
にも関わらず、コズエ達を仲間扱いしてくれる。
役割を与えてくれる。
「……」
コズエは自分の髪を触る。
クロードが撫でてくれた頭を。
(表情がないのに、笑わないのに、凄い落ち着くんですよね、頭を撫でてもらえるの)
表面上は冷たい人。
だが、中身は暖かい人。
(冷たい人だと思ったのにそんなことされたら……好きになっちゃうじゃないですか……)
クロードに対しての気持ちは、いつの間にか尊敬から恋に代わっていた。
魔王と呼ばれた彼の優しさは、一緒に会話していて分かった。
そしていつの間にか、コズエの思想は変わっていた。
彼の役に立ちたい。
彼のためにならば自分を犠牲にしても構わない。
彼の復讐を成し遂げたい。
(だからこそ――明日の敵はこのままではいかないです)
ミューズの思考を読み取ったが故の情報。
明日、『
しかも【無敵艦隊】と呼ばれるブラッド元帥が出撃してくるという話だ。
(クロードさんがどれだけ規格外でも、そのままで勝てるとは思えない)
コズエは分析していた。
クロードは無敵の様で一つ弱点がある。
その弱点を告げたら「よく分かったな。やはり頭がいいな」と頭を撫でられた。
(あの時は気分も含めかなり気持ち良かったですねえ……コホン)
話を戻す。
クロードは実は集団戦に弱い。
具体的には、ただの集団戦ではない。
自分が動かなくてはいけない際の集団戦に弱い。
彼の能力は何にでも変化させられること。
だが一つだけ、彼でも変化させられないことがある。
それは――自分自身。
彼の周囲を変化させることが出来るが、自分自身を弾丸が通らない皮膚に変化させるなどは出来ない。
故に常に周囲の空気を弾丸を止められるようにするなどをしなくてはいけないが、それをするのは難しいらしい。常に周囲に解除と作成を繰り返すから細かい動きが必要なので、俊敏な動きなどは出来ないとのこと。
つまり、集団戦でどこから来るのか分からない乱れ撃ちをされると対処できないいうこと。
その場でじっとしていれば負けないと思うのだが、それも弱点があるとのこと。
イメージできるようなものではないと、変化させられないらしい。
言うなれば「最強の盾を装備しているから何も効かない」ということは出来ないのだと、だからミサイルなどを防げるモノが想像できないため、避けるしかないとも口にしていた。
万能に見えて意外と弱点がある能力だとクロードは言っていた。
それでも反則級ではあるが。
でも、だからこそ仲間を集めることで、その弱点を補おうとしているのかもしれない。
(だから今度の敵、ブラッド元帥は……相性が悪いんですよね)
ブラッド元帥が司るのは海軍。
海は広く、また自然の脅威だ。
クロードに対して不利な要素はかなりある。
まずは、海は安定した足場がない。つまり足元の精製からしなくてはいけないのだ。空中に飛ぶ場合は先の銃弾の嵐の対処が難しいだろう。
次にジャスティス同士の距離がかなり遠いこと。それは対処に時間が掛かるということでありリスクが高くなる。
一番の不利な要素は、海はジャスティスをかなりの数を配置できるということだ。それこそ陸より広大であるがゆえに、比較にならない程の殲滅戦が可能である。
そして、それらの懸念を表すように、ブラッド自身がこの戦場に出てくるという情報を掴んでいる。
そこから導き出されるのは、ただ一つ。
海軍全てのジャスティスを配置して、数の暴力で殲滅をするということ。
そこにはブラッドがどのジャスティスに乗っているかを隠す意図もあるだろう。
であれば、相当な数が出てくると推察できる。
(クロードさんは自分の力を過信しすぎています。それにジャスティスへの復讐心は強いから数で攻められたら殲滅まで止めないでしょう。その分だけリスクが高まってしまいます)
かといって。
(情報分散してジャスティスを少なくするのも、彼の目的から離れることとなります。海側の戦力が集まってくれるなら、逆に好機ともいえます。だからそんな作戦承認させられないでしょう)
それならばどうすればいい。
(……)
思索の末、彼女は一つの結論を出す。
たどり着いた答えが間違っていようとも。
彼女はクロードのために、事前に動くことを決めた。
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