第77話 海戦 02
(……どうしてこうなった、って思うな)
ジャアハン国のとある森の中の岩場の上。
いつものようにクロードが夜にくつろいでいると、その横でコズエが(まあまあ)と宥める。
密会、という言葉では語弊があるのだが、クロードが人目を憚って休みに行くと、大抵コズエが先に占領しているということが多かった。その際に脳内会話をすることは、今や通常行為となっていた。
(クロードさんの目論見では人数を増やす計画はあまりなく、少数精鋭で突き進もうとしたのですよね?)
(そうだ。君達も含め、集団で行動する必要性がないのだから)
(でも、ジャスティスに恨みを持っている人を拒否できない、っていう形で増えてしまったんですよね?)
(……まあな)
クロードは頬を掻く。
そんな彼を擁護するようにコズエは伝える。
(だけど結果的に『
(結果だけだ。この結果がどう生むか、俺にはさっぱり予測が付かない。現に、一緒に行動をするという人間が増えてきていることが心配だ)
(まあでもそこは、お兄ちゃんが意外と統率行為を上手くしているから、大丈夫でしょう)
コズエはのんびりとした言葉を伝えてくる。もしかすると兄が一役買っていることに嬉しさを感じているのかもしれない。
そんなリラックスしている様子のコズエに、クロードは問う。
(なあ、一つ訊いていいか?)
(何です?)
(みんなは俺のこと、どう思っているんだ?)
(どうって……そうですね)
コズエは顎の下に指を当てて考える様子を見せる。
(ライトウはあなたに頼り切りと言われるくらい信頼していますし、ミューズは情報操作するのが楽しくて仕方ない様子です。お兄ちゃんは忙しいと言いながらも充実した顔をしています。こういうの向いていたんですね。アレインはその……前の戦闘でへまをした際に助けてもらったことを感謝しているようです。……くそう……)
(どうした?)
(いえ、負けません、って思っただけです)
(答えになっていないが)
(あ、いや、そのですね……)
(俺が訊きたいのはそういうことではない)
クロードは首を横に振る。
(具体的に言えば、あの赤い液体のことだ。あの液体は場合によっては人を殺す道具だ。相手側に非があるとはいえ、そういうものを用いさせたことにどう思っているんだ?)
あの赤い液体は既に大量に作成してある。
それを新規に属する者に試練を与える行為をしているのは――
(特にカズマだ。どう思っている?)
(どうと言われましても……最初は「何でこんなことを……」と悩んでいたようですよ)
いた。
――過去形。
(でも今は完全に吹っ切れた様です。仲間になる際の四つ目「時には非情になること」がこういうことなのか、と理解したようです)
(殺さなくても、と思ったりはしていないのか?)
(そこは仕方ないと思っているようです。殺さないと仲間に犠牲が出る可能性がある。それを事前に防ぐためには仕方のないことなんだ、と)
(病んでいるのか?)
(いいえ。お兄ちゃんはそんな精神が弱いわけではありません)
珍しくむきになって感情を乗せるコズエ。
彼女が憤怒の様子を見せるのは、いつもカズマのことだった。
(今や統率という新たな利点を見いだせはしていますが、それはあくまで現状を必死に考えて行動した結果であり、元々は特化した能力もありません。ですがお兄ちゃんは多くの犠牲の上に立っている人間です。馬鹿ではありません。自分の仲間に危険が及ぶようなことは絶対にしないし、させないようにしています)
(そうだな。そこを疑っている訳ではない。すまない)
(あ……こ、こちらこそごめんなさい)
無言で頭を下げるコズエ。
その頭を撫でてやる。
(えへへー。これ好きなんですよ)
(そうか。コズエの髪はふわふわしているから、撫でる方もある程度心地いいぞ)
(……そういうのさらっと他の人の前で言わないでくださいね)
(そうだな。持ち運びコテージのおかげで五人は、風呂とか他の人よりも格段に生活レベルがいいからな。髪もきちんと整えてあるということで他のメンバーに妬まれるだろうし、行動には気を付けるとしよう)
(そういうことじゃないですが……まあ、それもありますね)
(しかし風呂か……女性陣のモチベーション向上につながるのであれば、持ち運びの温泉も検討しようか)
(いいですね、それ! このジャアハンには有名な温泉地があるので、それを模倣してください!)
(出来るか保証はしかねるが、やってみよう)
(わーいやったーっ!)
コズエは飛び上がらんばかりに喜びを内部の声に乗せた。だが実際に飛び上がらないのは、クロードが頭に手を置いたままだからである。
(……クロードさん。ありがとうござます)
(ん? 何だ唐突に? 温泉のことか?)
(違います。先の質問の回答です。クロードさんのことをどう思っているか、ってことへの)
コズエは目を細める。
(クロードさんと出会ってから、みんな生き生きしています。ジャスティスへの復讐心をきちんとぶつけることが出来て。だから凄く感謝しています)
(そうか。こちらも、みんなの働きは非常に助かっているぞ)
これはクロードの本心だった。
(ライトウはジャスティスを一刀両断出来るからジャスティスの破壊の促進になるし、アレインも敵を攪乱してくれる。そろそろ拳で破壊できるんじゃないか? カズマは増えたメンバーの統率をしてくれているし、人員配置や各国への情報収集をするための要因としてミューズと連携してくれている)
クロードは撫でながら続ける。
(コズエ、君もテレパシーで仲間のピンチを教えてくれる、非常にメッセンジャーとして優秀な存在だ)
(えへへ。そんな褒められても……)
(褒めてなどいない。事実だ)
クロードは頭から手を離す。
(君達は俺が想定した以上に仕事をしてくれている。非常に優秀だ。仲間にして間違いではなかったと今ではいえる)
(クロードさん……)
コズエが涙ぐむ。
(コズエは相変わらずよく泣くな)
(……泣いていませんよ。雫が零れ落ちるまではセーフです)
そう言って彼女は手の甲で水滴を拭い去ると、クロードの前に立って
(だからこれからも、よろしくお願いいたします)
頭を下げた。
(……勿論だ)
クロードは相も変わらず無表情にそう言葉を返す。
沈黙が場を支配する。
その静寂に耐え切れなくなったのか、コズエが(あ、ああ、そういえば)と切り出す。
(ミューズが情報を掴んだようです。明日、海沿いに一気にジャスティスの軍勢がジャアハンに上陸する、と)
(上陸?)
(軍事演習ではなく、恐らくはこっちを確実に潰してくるための追加支援になるかと)
(ジャスティスがこっちに来てくれる分にはいいことだな)
(そうなのですが……)
(何か心配事でもあるのか?)
(いえ……まだ不確定要素なので明日またミューズに訊いてください。恐らくはその場では確定情報となっているでしょう)
(分かった。また明日訊くとしよう)
クロードは頷いて、身体を起こす。
(俺はもう戻る。コズエも身体を休めろ。明日何かあるのならば、流石に岩場は止めておけ)
(分かりました。少し時間経ったら戻ります)
「それじゃあな」
クロードはいつものように手をひらひらと振り、岩場を降りてコテージの方へと戻って行った。
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