幕間

第75話 幕間

    ◆




 ルード国。

 周囲の国々を征服し、その領土を確保し続けていたため、広大な領土を誇っている。

 その首都『カーヴァンクル』。

 メタルリックなビルが建ちのぼり、いかにも機械工業が発展した国、という形を持ちながらも、整備された道路など、他の国の産業レベルを引き上げたトップの首都、というイメージを崩さない、発展された都市。

 だがその都市に相応しくない建造物が、首都の中心部に位置されていた。


 ルード軍本部。


 それはこの国がどれだけ機械工業など技術方面に優れていたとしても、全面的に押し出されているのは武力面の軍事国家であるということの象徴している。

 ルード軍本部の中央部、中央会議室。

 軍の中でも限られた人間しか入室できないその部屋にいるのは四人。

 ヨモツ。

 ブラッド。

 コンテニュー。

 空、海、陸の三元帥。

 そしてその横に、足をプラプラとさせながらノートパソコンをいじる、白衣を着た金髪童顔の女性が一人。

 彼女の名はセイレン・ウィズ。

 科学局局長であり、ルード国の発展の技術の全てを総べる責任者。

 また、ジャスティスの生みの親でもある。

 彼女がいなければここまで軍部も技術も発展できなかったであろうため、扱いは元帥と同じとなっている。


「なー、なー、まだか? あたしゃ研究に戻りたいんだが、何の用か聞いているかい?」


 セイレンが口を尖らせると、ブラッドが厳しい口調で戒める。


「セイレン。何の用かは分からんが総帥の命だ。子供ではないのだから大人しく待っておれ」

「なにー!? あたしゃ幼く見られるかもしれんがこう見てももうすぐ四十路だぞ!」

「ゲヒャヒャ! そうは見えねー! せいぜい高校生くらいだろうが!」

「ざーんねん。こう見えても子供も産んだことあるおばさんよー。捨てちゃったけどねー」


 ヨモツの笑い声に、何故か誇らしげにそう答えるセイレン。


「……ブラッド元帥。このやり取りは毎回ですか?」

「残念ながらな」


 あははと苦笑するコンテニュー。


「そーよ、コンテニューちゃん。昇格おめでとー」

「……ありがとうございます」

「ん? なんかちょっと詰まったねー? 笑顔筋肉が若干変な反応したねー? 何かねー嫌われているかねー?」

「いえ、そういうわけでは……」

「ゲヒャヒャヒャ! お前のテンションについてけねーだけだよ、その若坊主は!」

「そっかー。ならしょうがないねー」


 大きく笑い声を上げる二人に、ブラッドが深い溜め息を付く。

 と、その時。


「――皆の者、待たせたな」


 厳粛な声が会議室に響く。

 厚い胸板に、がっしりとした足。

 軍部出身であるが故の鍛えられたそれは、ブラッドを超える老齢にも拘らず、衰えている様子を全く見せていない。

 その眼には野心が見え隠れする。


 総帥 キングスレイ・ロード。


 彼は会議室の中心部にどっかりと座る。


「ヨモツ、ブラッド、セイレン。そして新しく昇格したコンテニュー。よく集まってくれた」

「じいさんよ、遅いよー。研究が三年遅れたよー」

「すまない。ちょっと野暮用があってな」

「野暮用なら仕方ないか―」


 セイレンがフランクに話すが、総帥にこのような態度で会話できるのは彼女の他に誰もいない。

 三元帥は緊張した様子だった。


「キングスレイ総帥。今回の招集、如何様ですか?」


 流石のヨモツもTPOは弁えている。

 そんな彼の問いに、キングスレイは口を開く。


「今回の招集はある程度察しているとは思うが『魔王』のことだ」


 魔王。

 クロード・ディエル。


「魔王に、ことごとく我が軍は負けている。まるで本当に魔法のようにダメージを負わず、ジャスティスだけをことごとく破壊する様子は、他の反抗している国々によからぬ期待をさせて反抗心を増やしている。最近は【ウルジス】国が彼の確保に乗り出しているとの情報もある」


 二大国の一つ、ウルジス。

 ただ近年はジャスティスを持つルードに押され、力を落としているというのが一般的な見解である。しかしそれは表向きで、実際は資源を抑えていたり政治面での強さはいまだ健在である。


「まー、ウルジスは色々しているからねー。ジャスティスを開発しようとしたりねー。まー、あたしの頭の中にしか作り方書いていないし肝心なとこもみんなに隠しているから探りようもないんだけどねー」

「だから量産できないのだが……昨今破壊されている中、後任のために製造方法を残してくれないかね?」

「いやよー。いやいやよー」


 耳を塞いで首を横に振るセイレンにキングスレイは苦笑いを浮かべる。


「さて話を戻すが――報告で最近、魔王が組織を結成したとの情報がある」

「『正義の破壊者』……っ」


 ブラッドが苦々しく口にする。


「そうだ。最近、他のレジスタンスを巻き込んで巨大になりつつある。構成員の増え方も尋常ではない。つまりはここら辺りで潰しておかないといかないだろう」


 キングスレイは、ダン!とテーブルを叩く。


「現在、『正義の破壊者』は【ジャアハン】国にいるとの情報だ」


 ジャアハン国。

 技術的に高い標準を持ちながらも職人気質の人間性の為、ジャスティスも多く配置してある。ルード国にとっては重要な占領国でもある。

 そして大きな特徴として、大陸国ではなく、島国である。

 つまり――四方が海で囲われている国。


「ブラッド」


 キングスレイは海軍元帥の名を呼ぶ。


「本当は三勢力をぶつけたいところだが、反抗勢力は『正義の破壊者』だけではない。ヨモツとコンテニューはそちらを当たってもらう。だがブラッド。お前は全力を持って奴を潰せ。お前の力、見せつけてやれ」

「御意に!」


 ブラッドは恭しく頭を下げる。


「セイレン。ブラッドの部隊のジャスティスへの装備の手配は充実させておくように」

「はいはーい。海上戦は久々だから色々あるよー」


 セイレンはやる気無さそうに手を上げる。


「うむ。以上だ」


 キングスレイはそう言って退席する。

 その姿が見えなくなると、ヨモツが深く息を吐く。


「まあ、この世のほとんどが海だから、ブラッド元帥が適任だろうな」

「ええ。僕達は僕達で抑えなくてはいけないようですから。陸軍が一番消耗しているので、シャアパン国内の陸軍の数も減っていますし無理でしょうから、非常に助かります」

「お前んとこはアリエッタの信奉者が多かったからな。そこが勝手に突撃掛けてんだろ?」

「ええ、その通りです。僕の人望が無いことが致命的ですね。あはは」

「そうではない」


 ブラッドが否定の言葉を口にする。


「コンテニューはよくやっている。ジャスティスの被害を最小限に抑えているのは目に見えて分かっている」

「そう言ってくれるのは助かるのですが、残念ながら無駄に突撃思想が多いのがどうも……」

「あ、それ俺んとこのも血が入っているかもな。突撃大好きだからな」

「そんなことありませんよ。突撃していないじゃないですか」


 コンテニューは苦笑して、右手で丸印を作る。


「だってヨモツ元帥直下の部隊のジャスティスの破壊された数は――〇じゃないですか」

「そりゃ魔王と一回も戦ってなきゃ被害〇だわなー」


 セイレンが口を挟む。


「おめーが出させねえんだろうが、俺んとこの空中部隊をよぉ。少数精鋭って響きはいいが、やっていることが陸軍と変わらねえんでモチベが下がってるぞ」

「まー、フロートユニット付きのジャスティスは数少ないからねー。こちら側で出撃拒否しないと無茶しそうなメンバーなんだからさー」


 セイレンの、にっしっしという笑い声にイラつきを態度に見せながらヨモツが舌打ちをする。


「つーわけで、ブラッド元帥くらいしか対応できないのを、キングスレイ総帥は見抜いてらっしゃるんだろうさ」

「そのようだな」


 ブラッドが頷く。


「反抗勢力はそちらに任せよう。こちらは総帥じきじきの命令故に、私も戦場に出よう」

「ブラッド元帥も!?」

「心配しなくても大丈夫だよー」


 驚きの声を上げたコンテニューにセイレンが手を振る。


「コンテニュー君は知らないかあ。ブラッドは現役バリバリのジャスティス乗りだよー。海上では無敵と言われていたねー。別名なんだっけ?」

「……本人に言わせるな。別に私が名乗っている訳ではないのだから」


「【無敵艦隊】」


 その名称を口にしたのは、コンテニューだった。


「……何だ知っていたのか?」

「知ってはいましたが、『艦隊を率いる長』としての名称だと思っていました」

「違う違う。あの名称は違うよー」


 セイレンが人差し指をくるくると廻す。


「あれはブラッドが一人でも艦隊級に活躍をする上に負けたことがない、って意味だよー」

「そうなんですか?」

「そういう事実はある」


 ブラッドは誇らしげにではなく、至って当然だというように答える。


「魔王がどんな軍勢を率いても問題ない。仮に空を飛べたとしても、海で私に勝てるやつなどいないのだから」


 ブラッドは立ち上がり、残った三人に宣言する。


「魔王の反逆もここまでだ。それを私が見せてやろう」

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