番外編 聖夜 10

    ◆結果


「メリークリスマス! ――さあて、みんなの目の前にプレゼントが行き渡ったっすね?」


 後日。

 プレゼントを目の前の机に並べ立て、六人は向かい合っていた。

 その状態に男衆――といってもライトウだけだったが――は困惑していた。

 結局プレゼントは、男から女、女から男以外はランダムにされたからだ。

 そのランダムの方法はミューズが操作するコンピュータにより決定されるので、結果についてどうこう言えなかった。

 アナログだったら無理にでもアレインに渡せたのに、デジタルについてはからっきしだった。

 ライトウが買ったのは服だったので、ハッキリ言ってアレイン以外の二人にはサイズが違い過ぎるのだ。

 特に胸元が。

 故に焦っていた。


(せめてミューズに当たってくれ! コズエにだけは当たらないでほしい)


 内心でそう祈りながら、先のミューズの言葉を聞き、観念した様に目を開く。


 その結果――


「……良かった」


 ライトウは小さく言葉を落とす。

 アレインの目の前には、自分が用意したプレゼントがあった。


「くっそーっ! マジっすか!」

「ふっふーん。読み違えたね、ミューズ」

「あそこでああくるとは思っていなかったっすよ! ああ、もう!」


 ミューズとカズマが何事か楽しそうにじゃれ合っている。仲いいなあ。


「早速あけようか。何かなあ?」


 アレインが無邪気に袋を開ける。


「あれ? これって……?」

「俺のだ」

「あの時のセーター……嬉しい! 地味に欲しかったんだよね! ありがとう、ライトウ!」


 良かった。喜んでもらえて。

 それが一番の喜びだ。

 続いてコズエが袋を開ける。


「っ!」

「俺のだ。中身はリップクリームとリボンだ。リボンはぬいぐるみに付けても自分に付けても似合うと思うぞ。リップクリームは、大人になっていくコズエは欲しがっているのかと思ったから。すまんな。リップクリームくらいしか思いつかなかったんだ」


 ぶんぶんと横に振り、そして首を縦に振るコズエ。その後、貰ったプレゼントを胸元にギュッと抱き寄せ、嬉しそうに表情を崩していたので、多分「そんなことはないです。嬉しいです。ありがとうございます」という表現だったのだろう。


「え……?」


 と、横で驚いた声があがった。

 ミューズだ。


「この髪飾り……」

「ああ。似合うと思って買ったよ」

「……この時から計画していたっすか?」

「んー、何のことかな?」

「そんなとぼけて……でもありがと」

「んー、聞こえないなあ?」

「聞こえているじゃないっすか!? むきーっ!」


 カズマはミューズにウサギの髪飾りをあげたようだ。よく分からないが喜んでいるのだと思う。


 そんな感じで、男子のプレゼントは女子に喜んでもらえたようだ。


「で、では続いて男子! 開けてくださいっす!」


 顔を真っ赤にしてミューズが促してくる。

 照れているなあ、初々しいなあ、と微笑ましく思いながら言われた通り目の前のプレゼントを開ける。


「「……えっ?」」


 困惑した二つの声が重なる。


「お、カズマ。私のが当たったな」

「ねえアレイン……これ、何?」

「何って、よ」


 袋の中から大量に出てくる粉モノと栄養ドリンク。


「男の子はやっぱり筋肉! 身体を鍛えるのに便利かと思って!」

「ああ、うん……そうだね……」


 よりによってカズマに当たったか。自分だったら嬉しいのにな、と思いつつ、自分のプレゼントの方に意識を映す。


「で、これは誰のだ?」

「あ、あたしのっすね、ライトウ」

「ミューズのか」


 納得した。

 と同時に疑問を投げる。


「このは何だ?」

「健康ドリンクっす! あたしのお手製っすよ!」

「どうして泡が絶えず出てきているんだ?」

「仕様っす!」

「時折紫色に変色して緑にまた戻るのは何でだ?」

「仕様っす!」

「……安全なんだろうな?」

「未使用っす!」

「おい」


 舌を出して笑顔で答えるミューズに強い不信感を覚える。


「なあコズエ、あの二人ってもしかして……」

「……(コクリ)」


 端の方でクロードとコズエが神妙そうな顔で頷いている。恐らくクロードの手元にあるハンカチーフは、コズエからのプレゼントであろう。

 まともなのは彼女だけであったか。

 と、いう所まで思考がたどり着いて、クロードとコズエが何を神妙そうにしているか理解し、ライトウも自然と同じ表情になった。


 クリスマスを知らなかった自分。

 だがあの女子二人は、自分以上にクリスマスに関しての常識が全くなかったのだ。


 そして思った。



?」



 番外編 聖夜  完

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