番外編 聖夜 09

 ◆クロード


「何だコズエいたのか……ああ、切り替えようか」


 クロードは能力を使用し、脳内で会話できるように切り替えた。


『ショッピングモールにいたんだな』

『そうです! いましたよ!』


 袖を掴む手を離し、頬を膨らませる彼女。


「何故怒っているんだ?」

『何で食料品売り場に行こうとしたのですか!?』

『いや、ちょっとだな』

『……まさかクリスマスプレゼントを買いに行こうとしたとかないですよね?』

『……いや、そんなことはない』

『そうであれば一人の女子として忠告しますが、仮に実用的なモノとして考えていてその思考の末に食料品に至ったとしても、それを渡されても困るだけですからね』

『そういうものなのか?』

『っていうか人間として常識ですよ』

『そうか。そういうものなのか。……あ、誰かにプレゼントをするとかそういうんじゃないんだからな』

『そうなんですねえ。へー、そうですかあ』


 つーん、とそっぽを向くコズエ。

 だがすぐに笑みを浮かべながら振り返る。


『クロードさん、女性にそういうの贈った経験ないんですね?』

『ないな』


 アドアニアの幼馴染のマリー家ではクリスマスに豪華な食事をしたくらいだ。だから食事がいいのではと思ってしまったのもあるが。


『そうですかそうですか……ふむふむ』

「何で嬉しそうなんだ?」

『べ、別にそんなことはないですよ!? っていうかさっきからちょくちょく声に出ていますよ?』

『わざとだが』

『……そういう使い分け凄いですよね。周囲に怪しまれないように時折声を掛ける所とか』

『もっと褒めてもらっても構わないぞ』

『それ本心で言っています?』


 ふふ、と息を漏らして笑うコズエ。


『さて、クロードさんはこの後どうします?』

『どうしようかな……ガチで悩んでいるんだが』

『だったら私と一緒に幾つかお店回りませんか?』


 コズエがそう提案してくる。

 

『そうだな……少し一緒に回るか』

『デートですねデート!』

『ん、そうなるな』

『え……?』

『どうした? デートするんだろ? 行こうか』

『え、いや、ちょっと照れますよ……』


 コズエの頬がほんのり赤くなる。


『は、初めてなので優しくしてくださいね……?』

『うん? ああ、そうするよ』

『そこはつっこんでくださいよ!』

『知っていて敢えてツッコミはしないぞ』

『そういう所ありますよね、クロードさん……って、えっ?』

「ほら、行くぞコズエ」


 ちょっと涙目になっている彼女の手を引く。


『ちょ、え、え……?』

「デートって手を繋ぐもんじゃないのか?」

『いや、その心の準備が……』

『そんなに待てないぞ。俺の顔が割れる前に行くぞ。知っている人にはすぐ分かるらしいからな。コズエに見つかったみたいに』

『しまったぁ! そういう落とし穴がありましたか……っ!』

『何のことだ?』

『いえ……でもまあいいです。行きましょう』


 コズエの小さな掌がギュッと握り返してくるのを感じる。

 そのあまりの小ささと弱々しさに改めて驚く。

 普通のか弱い少女。

 二人でいる時はそれを感じさせないのは本当に凄いと思う。

 そんな彼女が望むならば――


(……まあ、今日くらいはコズエの好きにさせようか)


 ――実は。

 クロードはコズエのプレゼントについては既に購入済みであった。

 昨日に決まったと同時に抜け出し、能力を使って高速で移動し、閉店前に購入して戻ってきていたのだ。


 理由は、ちょっとしたきっかけで顔バレして騒ぎになって購入できないことを防ぐためだ。

 故に、このショッピングモールには既に用事はなかった。



 そして。

 コズエに振り回される形でクロードもショッピングモールを回ったのだった。



 その時のコズエの様子が楽しそうだったので、クロードも満足していた。

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