会話

第71話 会話 01

    ◆





 コテージの外に出ると、予想通りに真っ暗闇だった。山道なのだから無理もない。五人共流石にコテージに入ったようだ。外に出るまで誰にも遭わなかったから、もしかするとまだ外にいるかもしれないと思ったが、それは杞憂に終わったようだ。コテージに入るということは、クロードのことを信用していなくては出来ない。つまり皆、クロードのことを心から信用しているということだ。


「さて」


 クロードは目的地へと歩き出す。

 その場所は、夕刻までクロードが腰を据えていた岩場であった。

コテージを少し離れた位置に作成したのも、あの岩場が存外気に入ったためである。


「野宿している内に、ああいう所が落ち着くようになったのはまずいよな……」


 そう独り言を発しながら、岩場まで歩いていくと、


「……おっと。先客がいたか」


 クロードは意外だというようにそう口にする。

 もっとも、そこにいた人物は意外ではなかったが。

 その人物は、クロードの声に小さな身体ごと振り向く。


「どうしてここにいるんだ、コズエ?」


「……」


 コズエは上部に人差し指を向ける。

 クロードも視線を上に向ける。


「……ああ、今日は結構な晴れ模様だったからな」


 そこには一面の星。

 月まで満月ときた。


「こういうの好きなのか?」


 コクリと首を縦に動かす。


「そうか」


 ならば邪魔をする必要はない。


「だが、俺もそうなんだ」

「……!」


 コズエは目を見開く。

 それはクロードが大きな岩場の上まで、まるで重力を感じさせない様に跳躍して着地したからである。


「隣失礼するぞ」

「……」


 呆けながら首を縦に動かすコズエ。

 クロードは遠慮なくコズエの右側に座る。


「いい場所だろ? 俺が見つけたんだからな」

「……」


 じっと彼女はクロードを見る。

 見続ける。


「……はあ」


 クロードは一つ息を吐くと、自分のこめかみに右手の人差し指を突きつける。


(さあ話せ、コズエ)


(……なっ!?)


 コズエは肩を跳ねあがらせてクロードを凝視する。

 だがクロードは左手で彼女を制す。


(落ち着け。こういうの昔にやったことあるんだよ。頭の中での会話、ってのはね)


 アリエッタ相手に。


(……どういうことですか?)

(俺の能力だ。色々と分かっているだろ?)


 クロードは身体を倒し、寝る形となる。


(コズエ、お前だけが俺の能力を察しているのだからな)


「……」


 コズエは口を真一文字に結んでクロードを見る。が、やがてクロードと同じように岩部に寝そべって空を見上げる。


(クロードさん、あなたの能力ですが……モノを変化させる、という能力ではないですか? しかも質量すら変化させることが出来る。但し、適用範囲がありそうですね)

(おお、やっぱり賢いな、コズエは)


 正直驚きしかなかった。

 ここまで短い間でそれ程の情報量は与えていなかったにも関わらず、正確な答えを出したのだから。


(いや……違うか。当たり前か)

(当たり前、ですか?)

(ああ。――が、その前に伝えたいことがある)

(何ですか?)

(俺に嘘をつくな。ついたら本当に爆発するぞ)

(爆発って……いや、分かりました)


 ひどくあっさりとコズエは了承する。


(それで、何が訊きたいことでも?)

(確認したいことが何点かある)

(どうぞ)

(あの場で嘘をついた人はいない。それは俺の能力で判定済みだ)

(あなたにああ脅されたら、誰だってそう言いますよ)

(そうかもな。だが、一人だけ――俺に対して嘘を口にした奴がいるんだ)


 嘘をついた人はいない。

 だが、嘘を口にした人はいる。


(それが誰だか、コズエには当然分かっているよな?)


 コズエは小さな頭を縦に動かす。 



(……お兄ちゃん)

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