第67話 同志 09

「コズエ!」


 カズマが叫び声を上げて彼女に駆け寄る。他の三人も即座に彼女の元へと向かう。

 そんな駆け寄られた彼女は――


「……」


 ブイ、と人差し指と中指を立てて、笑顔を見せた。


「何ともないよ、だって……?」


 カズマが震えた声で告げる。

 コズエは頷き、そしてカズマに促す様に手で声を放つジェスチャーをする。


「悩んでいても仕方がない。私達には彼が必要なの。だったら信用しないと。私達が疑っていては何も始まらないわ……」

「……」


 クロードはじっと動かず、視線をコズエに向ける。

 まっすぐに。


「……そうだよな」


 ライトウが自分の拳を、自分の膝に力強く叩きこむ。


「何を悩んでいたんだ。結局、彼を信じていないことと同義じゃないか!」

「そうだよね……そう、だよね……」

「全く、いっつもコズエには先を越されるっすね。あたしらがお姉ちゃんなのに……」


 アレインとミューズも、バツが悪そうに頭を掻く。


「コズエ……」


 カズマはじっと妹を見る。

 コズエはじっと兄を見つめ返す。


「……分かったよ。ごめん」


 カズマが大きく頷く。きっとその間にカズマとコズエだけの間にテレパシーでの会話があったのであろう。しかし誰も、その内容は分からない。


「さて」


 ライトウがそう切り替えの言葉を口にすると、四人は改めて、クロードの足元の赤い液体の入った瓶を手に取る。


 そして―― 一気に飲み干す。


「うわっ! 本当にただの水?」

「赤いだけで何も味しないんですね」

「うーん……まずくも美味しくもないのでリアクション取りにくいっすね」

「……さあこれで全員飲んだぞ」


 空になった小瓶を掲げる五人。

 その様子を見て、


「……まあ、及第点といった所だな」


 クロードはそう告げた。

 笑わずに。


「本当の合格者はコズエさんだけだが、まあ、いいだろう。これである程度は把握できた」

「それじゃあ」

「ああ。決めたよ」


 クロードは頷く。


「俺は君達のリーダーになろう」


「やった!」「よっしゃ!」「いえーい!」「やりましたね!」「……」


 その言葉に五人は一斉に湧く。


「――が、その前にだ」


 ピタリ、と五人の動きが止まる。


「ま、まだ何かあるのか?」

「ある。重要なことだ」

「あら。それならこっちにもあるわよ」


 アレインが腰元に手を当てて、手をひらひらと振る。


「そうか。では一緒に言おうか」

「ええ。せーのでいくわよ。――せーの」


「この集団の名を考えよう」「私達全員を呼び捨てにすること」


 静寂が場を支配する。

 が、次の瞬間には爆発したかのように笑い声が響く。



 その中で。

 一人だけ、笑い声を上げてはいないが、表情で笑いを存分に表している者がいた。


 ――そして。

 一人だけ、全く表情を変えないモノがいた。


 笑い声も笑顔も、彼は行わない。



 行えない。

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