第65話 同志 07
リーダーの男性より少し幼いような、優男という言葉が似合う男性が手を上げる。
「カズマ……」
「ライトウは辛いでしょ? だから僕が代わりに」
「俺はどちらでもいい。カズマさん、でいいかな? 話してくれないか?」
カズマは大きく頷く。
「僕達五人は同じ施設で育ちました。皆、家族のように仲が良く、貧しいながらも楽しい暮らしをしていました。それがある日……」
「ルード国が攻め込んで、蹂躙した、と」
「ええ。とあるジャスティス操縦者の一人が見せしめにと、何も関係なく僕達の施設を襲撃したのです。空からジャスティスが、蹂躙するように……大人達はそこで守るために……避難の間に合わなかった子供達も一緒にそこで……生き残ったのは、僕達五人だけでした……」
唇を噛みしめる。他の四人も俯く。
「その中でもライトウは、親が施設の経営者の一人で、実の弟も……」
「そういうことか」
クロードは見抜いていた。
ライトウと呼ばれた青年の彼の目に宿る悲しみ、そして復讐の炎は確かなものだった。
他の四人もライトウとそう変わらない憎しみが宿っていた。
「問いを続けよう」
クロードは続ける。
「君達がやりたいこととは何だ?」
「……ルード国に復讐をしたい」
ライトウが再びそう口にする。
「俺達の施設の人達を燃やした、壊した、殺した――そんなルード軍のジャスティスをぶっ壊したい」
「その復讐とはルード国全体か?」
「いや、それは違う」
首を横に振る。
「俺達が復讐したいのは確かにルード国だ。だが、あくまでそれは軍部、そして侵略を指示した人間だけだ。甘い話かもしれないが、俺は、俺達のような状況の人間を作りたくはない」
「だから俺の力が必要だ、と?」
「そうだ。君はジャスティスとそれに関わる人達しか被害を出していない。そこが俺達にとって必要なことだ」
ライトウの黒い瞳が、クロードの同じく黒い瞳とぶつかる。
やがてクロードが瞬きを長く行う。
「甘い考えだな。甘い」
その言葉に、ライトウは落胆の表情に翳りを見せる。
「やっぱり、駄目か……?」
「駄目とは何だ? 考えが甘い、と言っただけだ」
「え?」
ライトウが顔を上げる。
「で、君達は俺に何をさせたいんだ?」
「あ、ああ……」
ライトウは戸惑いつつも答える。
「君には俺達のリーダーとなってほしい」
「……ん? リーダー?」
「ああ。今は俺が最年長だからこうして交渉しているが、俺達は家族ではあるがゆえに、誰がリーダーなんてことは考えられないんだ」
「というよりも、ライトウがリーダーというよりもお兄ちゃん、って感じなんだけどね」
ショートカットの女性が肩を竦める。
「ということで、ルード国に立ち向かうに当たって、俺達の先頭に立って進んでくれる人物が必要なんだ」
「それが俺、ってことか」
クロードは嘆息する。
「まず問おうか。俺にとってのメリットは何だ?」
「人員が増える。一人よりも協力者がいることで動きやすくなる部分もあるだろう」
「後は?」
「ここには優秀な人材がいます」
カズマがすかさず口を挟み、小柄な女性を差す。
「ミューズは先に述べた通り情報に長けています」
「あたしの情報網はクロードさんの想像の三倍は凄いっすよ」
ミューズと呼ばれた少女は、にっひっひと笑う。
「続いてアレインは女性ながら格闘に優れています。速さも随一です」
「まあ、どこまで通じるかは分からないけどね」
ショートカットの女性が拳を打ち付ける。
「最後に、ライトウは刀の使い手です。今はあなたと交渉するために刀は置いてきておりますが……」
「他の二人は?」
「僕とコズエは、その……信じられないかもしれませんが、とある能力を持っているのです」
その言葉に、ぬいぐるみを抱えて先程から一言も口にしない少女が首を縦に動かす。
「能力とはなんだ?」
「えっ?」
カズマが驚きに目を丸くする。
「信じて……くれるのですか……?」
「君が嘘を言っていないことは俺には判る。だから真実だと判断した」
「……」
「続けてくれ」
「は、はい」
カズマが少しうるんだ目で続ける。
「僕とコズエは所謂『テレパシー』です。離れていてもお互い会話出来ます。恐らくは実の兄妹故にだとは思いますが……」
「……」
コクリとコズエが首を縦に動かす。
「コズエさんは話すことが出来ないのか?」
「ええ……施設が襲われた時に心因性のショックで……申し訳ありません」
「謝る必要はない。――それよりも」
クロードは問う。
「ライトウさんとアレインさんの能力がいまいちだな。補足はあるか?」
「それならば、こういう事実はどうでしょうか?」
カズマが待っていました、と言わんばかりに二の句を告げる。
「ライトウとアレインが力を合わせて一体のジャスティスを破壊したことがあります」
「……それは事実か?」
「まあ、私が攪乱させて、ライトウが一閃、って形ではあったけれどね」
「一体が相手だったから出来た芸当だ。君みたいに複数相手にはしていない」
アレインとライトウが肯定の言葉を口にする。
「ふむ。ということは事実か……」
「はい?」
「いや、こっちの判断だ。気にしないでくれ」
クロードは眼前で手を振った後、訊ねる。
「君達の実力は分かった。だが――いいのか? 間違いないが、俺は殺人を犯している。どんな建前があるとはいえ、れっきとした犯罪者。しかも国際指名手配を受けている人間だ。その人間に加担するということは、君達も同様の存在になるということだ」
「承知の上だ」
ライトウが答える。
「そもそも俺達は君の影響を受けて、日常とは既に決別してきた。ルードに壊されていながらルードに庇護されたあべこべな平和な暮らしを捨てて、ジャスティスも破壊した。俺達も恐らく指名手配を受けているだろう。ローレンツの中だけかもしれないけどな。だからこそ――君になら俺の命を預けてもいい」
「……それは本気で言っているのか?」
「ああ」
カズマの頷きに合わせ、他の四人も首肯する。
「……」
クロードは考え込む仕草を見せる。
数秒後。
「――君達の覚悟を見せてもらう。少し待ってくれ」
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