第64話 同志 06
ローレンツ。
アドアニアと同程度の小国ではあるが、森林資源が豊富な国である。例にももれず、ルードに支配された国でもある。
「……はぁ」
日が落ちてきた頃。
人気もほとんどない獣道の道中にあった大きな岩の上で、クロードはため息を吐く。
これで何度目の勧誘だろう。
クロードは辟易していた。
彼の目的は『この世のジャスティスをすべて破壊すること』だけだ。別にルード国に復讐することではない。結果的にそうなっているだけである。
その度に言ってきた言葉を、目の前の者達にも告げる。
「俺は仲間など必要としない。そういう噂などは聞いたことは無いか?」
「ある。だがそれでも俺達には君が必要なんだ!」
先程からずっと話している、一番近い位置にいる男が顔を上げる。
「俺達は家族をルード国に殺された! 抵抗もする間もなくジャスティスに……だからルード国に復讐をしたいんだ!」
(……ほう)
ピクリ、とクロードは反応する。
彼らは今までとは違った。
今までは自分を利用する気満々の大人ばっかりであった。
自分の利益の為。
誰も彼もが戦争や戦闘を利益に変えたいために、というモノで、ジャスティスに対しての復讐心が薄かった。
それらの人々の誘いは全て断り、逆恨みする人間はジャスティスを破壊する邪魔になりそうだと判断して制裁を加えたりしていた。
だが、現在目の前にいる者はそうではなかった。
もしルード国への恨みつらみだけを言うのであれば、今までの人物と同じ対応をしていただろう。
彼らが口にしたのは、ジャスティスへの恨み。
そこにクロードは興味を示し、初めて彼らの姿を認識し始めた。
そこにいたのは、男女折々に五人。女性の方が多い。
先程から言葉を発しているがっしりとした短髪の男性。
線の細そうな男性。
ショートカットの女性。
金髪の小柄な女性。
ぬいぐるみを抱えている大人しそうな少女。
共通項として、全ての人々が若かった。
もっとも年がいっていそうな人でも先に声を上げた男性で二〇代前半であり、クロードよりも年が下に見えるような女性もいる。
そのことがクロードの警戒心を少し緩めたと言ってもいい。
「よっ、と」
岩から降り、彼らの近くまで降りる。とはいっても、一番遠い人から五メートル圏内で、近い人でも一メートルほどの距離は離しているが。
「悪いがアドアニア公用語で話してくれないか?」
「アドアニア公用語? ……すまんが俺達は習得していない」
「今話せるようにした。その証拠に、俺が今まで口にしていたのはアドアニア公用語だったが、理解出来ているだろう? ――今は他の四人も、だ」
「そんなこと……あっ」
五人は目を見開く。
そして各々が会話をし始める。
――アドアニア公用語で。
「さっきからずっと何やら判らない言語で話しているのによく会話になっているなあ、と思っていただけなのに急に分かるように……これはどういう手品なの?」
五人の中ではクロードと同い年くらいのショートカットの女性が問い掛けてくる。
「手品だと思う?」
「い、いや、そうだとは思わないけど……目の前の現象にまだ追いついていないだけなの。ごめんなさい」
焦った様子の女性。クロードの機嫌を損なったのではないかと勘違いしたのだろう。
そんなことを気にもせず、クロードは代表の男に口を開く。
「あらかじめ言っておくが、俺に対して隠し事は通じない。本心で話せ。じゃないと自分自身が爆発するぞ」
「えっ?」
「冗談だ」
クロードは笑わずにそう言う。
だがそれを冗談だと捉える人は五人の中に誰もいなかった。
ゴクリ、と五人は息を呑んで感じ取る。
目の前の少年は、やはり只者ではない、と。
「さて、まず問おう」
クロードは抑揚のない声で問う。
「俺をどうやって見つけた?」
「それはただの偶然だ。このあたりに来ているとの噂があったので探した所で見つけることが出来た、という流れだ」
「そうだとは思った」
実際、クロードを見つけるのはルード国軍もそうだが、偶然というパターンが多い。
「でも最近はルード国軍が来ずにあんた達みたいのが多いんだけど、そこも関係ある?」
「関係あるかは知らないが……俺達には情報操作できる奴がいて――」
「はいはーい。あたしっすよ」
小柄な女性が手を上げて割り込んでくる。
「あたしの情報網はもう凄いもんっすよ。だからルード国側にブラフを巻きつつ、有用な情報はこっちで取得するなどはお茶の子さいさいっす」
「……ということがある。事実としてそれがどれだけ作用しているかは分からないが」
「成程」
「軍の、特に陸軍の士気が下がっているってのも要因っぽいっすよ」
小柄な女性が補足説明をする。
「分かった。じゃあ次に聞こう」
クロードは目を細める。
「ジャスティスに家族を殺された、ってのはどういうことだ?」
「……それは」
「――そこは僕から話をします」
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