第60話 同志 02
「……」
ルード軍、陸軍元帥のアリエッタは、頷きの代わりに引き続き睨みを続ける。
明らかに拷問の跡がある彼女は、それでも屈する様子は見せていなかった。
「おお、怖い怖い。そんなに旦那さんのクロード・ディエルのことが心配かね?」
「……違う」
かすれた声で否定を返す。
「私は……あいつとは……クロード・ディエルと繋がってなどいない……」
「ああ、そうですか――って信じる馬鹿に見えますかぁ?」
ヨモツが人差し指をこめかみに当てながら、煽るような口調で彼女に唾を吐く。
「アリエッタさんがぁ、あの魔王の靴を舐めて忠誠を使ったのはぁ、ぜーんこくどころかぜーん世界の人達が見ていたんですよぉ?」
「それは……私をあいつが操っていて……」
「今も操られていない、という保証はあるのかね?」
「……」
ブラッドの問いにアリエッタは答えられない。
というよりも答えない。
「まぁさぁかぁさぁ?」
ヨモツがアリエッタの胸をわし掴む。
「報告書にある様に、クロード・ディエルは『五メートル以内のモノを変化させる能力』の持ち主で、その能力によって操られたって言うのかい? このでっかい胸に誓えるかい?」
「……その通りだ」
「うわぁあお。じゃあ嘘だから揉んじゃおうかね」
「下品な真似は止めろ、ヨモツ。腐ってもお前は私達と同じ元帥なのだからな」
「んだよ、おっさん。枯れているからって嫉妬すんなよ」
ブラッドの苦言にヨモツはアリエッタから手を離して肩を竦める。
その間も真顔のまま、アリエッタは鋭い目つきを止めずにいた。
「怖い目をしているねぇ。嘘ついているように見えないのが不思議だよぉ」
「だから……真実だと……言っている……」
「戯言はよせ」
ブラッドは不毛な会話を止めるべく口を挟む。この中で最年長である彼の言葉に、二人は口を閉ざす。
「ヨモツ。今日ここに来たのはそうではないことくらい分かっているだろう」
「へいへい」
「……?」
アリエッタは疑問符を浮かべる。
ブラッドとヨモツがアリエッタの元を訪れるのは一度だけではない。元帥である彼女に対し、また魔女と呼ばれている所以もあってか、部下では彼女の尋問をしたがらなかったのだ。だからこそ元帥が出てくるのもおかしな話だが、結局、ルード国軍の中でも、アリエッタの存在はそれだけ凄かったということを象徴している。
「アリエッタ元帥。現在、貴方は未だに元帥の座にいることは、我々が呼んでいることからも理解しているだろう」
「……ええ」
そして口の端を上げる。
「続く言葉は――『それも今日まで』かしら?」
「その通りだ。――入りたまえ」
ブラッドは背部を向いて扉の近くにいた人物に入室を促す。その人物は「失礼いたします」と頭を下げて前へ出てくる。
鮮やかな金髪と碧眼。眼、鼻立ちもくっきりしており、美少年、という言葉が良く似合う。『少年』という言葉通り、彼の齢はかなり若い。一八歳である。
「コンテニューです」
コンテニュー。
名は無く、ただの名前のみしか所持していない彼。
「陸軍元帥は、君に代わって彼になる。知っているかね?」
「……ええ、よく知っていますとも」
アリエッタは嘆息する。
「彼を中将から……支部長に上げたのは……私ですから……」
「その通り。陸軍の中で君の次に有能な人物だ。今日から彼に陸軍全てを仕切ってもらう。これは総帥の意思だ」
「そう……ですか……」
「ついては君の処分についても、彼に任せようと思う」
「……」
アリエッタは表情を変えずにコンテニューに目を向ける。
コンテニューは温和そうな表情を崩さずにじっと彼女を見る。
そんな二人をよそに、
「では、ここで失礼するよ」
「んじゃーね、ただのアリエッタちゃん」
ブラッドとヨモツは退室していった。
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