第51話 復讐 16
(――違うっ!)
アリエッタは、心の中で叫び声を放つ。
だが、それが実際に外に出ることはない。
(声が出ない……身体が動かない……表情すら全く動かない……)
悔しい。
その気持ちが、どうやっても表現できない。
それもまた、悔しかった。
(これも魔王の能力で――)
(――その通りだ)
(なっ!)
頭の中で驚きの声を出すアリエッタ。
(今、魔王の声が頭に……)
(だからその通りだと言っている)
(……耳からではなく明らかに頭での会話。それが成り立っている。だけど……周囲の状況から、その声はどうやら私にしか届いていないらしい。驚きはしているけれど、耳を疑うような仕草はしていないし……)
(あー、言っておくが、その小説の地の文みたいなことも全部聞こえているからな)
(え……?)
(手に取るようにあんたの行動も、全部俺に伝わっている。そして、お前も突き動かしている。これが、俺があんたに与える――罰の一つ目)
クロードは頭の中の声でも淡々と言葉を紡ぐ。
(俺になすがままにされる。だけど、文句は言えない。抵抗もできない。言い訳もできない。表情にも出せない。俺に従順な犬と化せ)
(……嫌よ)
(まあ、頭の中でそう言おうが、どうにもしょうがないし、仕様がないからな。無駄に抵抗すれば? 頭の中で)
(……)
アリエッタは唇を噛み締める――想像をしただけだった。
抱きあっているため、顔を覗くことはお互いできない。だが、笑っているのではないかとアリエッタは思った。
同時に、恐怖した。
こうやって思考していることさえ、もしかしたら操られているかもしれない、と。
(――ああ、そういやさ)
と、クロードは唐突に思い出したかのような声を伝える。
(あんた、俺の能力が判っているみたいだな。さっきからの思考を見ると。それに俺がジャスティスを破壊している間も、大佐の人と話している間も、じっと観察していたし)
(ええ……と断言はできないけれど、恐らくは)
(言ってみろ。冥土の土産にイエス、か、ノーで答えてやる)
(……)
言うかどうか、アリエッタは迷った。
(迷っても意味無いぞ。別に教えなくてもいいし)
(……本当に全部、思考を読んでいるのね)
(恐ろしいか。当然だな)
(ならば、もう判っているでしょう? 私が思っている、あなたの能力とやらを)
(判んないよ。あんたが思っていることを読んでいるだけだし、深層心理までは読めない)
(それはいいことを訊いたわね)
(いいことか? 別にお前から無理矢理引き出すことだって可能だぞ。まあ、そうなると恐らくは思考からじゃなくて、口から出してもらうことになるけどな)
(……)
(押し黙るなよ。頭の中を無にすることなんできないんだからさ。ていうか、俺にとっては別にメリットでも何でもないんだからさ。早くしないと損するぞ)
(……)
魔王はアリエッタの全てを判っているかのような言い方をしているが、反対に彼女は、彼が考えていることが全く判らなかった。考えても、得なことは見つからない。
(だから気まぐれだって。さあ、どうする?)
(……)
伝えてもいないのに当たり前のように返されている。だから彼が本当のことを言っていると、アリエッタは確信した。
だから彼女は最後に少しだけ悩んで、彼女は決めた。
(……【変化】)
(ん?)
(魔王。あなたの能力とやらは、物をステルスにすることでも、他人を洗脳させることでも、空を飛ぶことでも、ジャスティスを破壊することでも――ある)
(ほう)
(あなたの能力は、全部。その全てに共通しているのが【変化】しているということ。そして良く見てみると、あなたに放った弾丸は、あなたから離れた所で消滅していた。大きめな弾で良く判ったわ。加えて、ジャスティスを破壊した時のおおよその目測で、あなたとジャスティスの距離は――五メートル程度)
(へえ、良く見ているね)
本当に感心したような感嘆の息を、クロードは短く現実で放つ。
(で、すなわち、結論は?)
(私は、あなたの能力を――【五メートル以内のモノを変化させる】と推測したわ)
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