第50話 復讐 15

    ◆




 クロードとジェラスの二人舞台であった、アドアニア軍基地の前。

 テレビ局もこぞって、彼ら二人の様子を撮り続けていた。

 まるで彼らが主演のように。

 だから忘れていた。

 いや、忘れさせようとしたのだろう。

 じっ、と黙り。

 その存在を消し。

 見極めようとしたのだろう。

 能力を。


 そして――攻撃できる瞬間を。


「ジェラス大佐」


 凛とした女性の声が発せられたのは、パンという一発の乾いた音が十分に鳴り響いた、その後のことだった。


 同時に――


 彼の左胸には、小さな穴が開いていた。

 信じられないという表情で、彼は背部を見る。

 そしてジェラスは眼を驚きに見開いたまま、ぐらりと傾く。


 彼の背部にいたのは――彼女。

 銃口をクロードに向けている、彼女。


「軍の機密情報を、こんな大衆の前で口にしてはいけませんよ」

 アリエッタはひどく平坦な声で、崩れ落ちるジェラスを見下す。

 そして、ジェラスはそのまま、動かなくなった。

「……それにしても」

 彼女はそんなジェラスを一瞥すると、視線をクロードに向け直す。

「見えない所からなら当たると思いましたが……予想が外れましたね」

「ああ、この通りぴんぴんしているよ」

 クロードもまた、肩を竦めておどけて見せる。

「そうですか」

 さらに一発。

 放つつもりだったのだろう。

 人差し指が微かに動く。


 同時に、クロードも動く。


「ッ」

 わずかな動揺を見せるアリエッタ。

 その隙を、クロードは見逃さなかった。

 否――見過ごさなかった。


「ありがとう。――


 呼び捨て。

 公然でそう口にした。

 だが――それすら気にならないほどの衝撃的なことを、クロードは行っていた。

 誰もが眼を疑った。

 舞台上で対峙している二人。

 ――対峙して『いた』二人。



 そんな二人は――



「――」


 驚きの言葉すら、アリエッタは発せられなかった。

 ――発せさせなかった。


 彼女は抵抗しなかった。

 ――抵抗させなかった。


「本当にありがとう。ここまで俺の言った通りにしてくれて。君の協力がなかったら、成功しなかったよ」

 クロードは言う。

「……ええ」

 アリエッタも口を開く。



 頷いて、抱き返す。

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