第41話 復讐 06

    ◆




 翌日。

 式典当日。

 クロードが予告した日。

 あの後、結局クロードの姿は発見できなかった。また、どのようにして放送をジャックしたのかも掴めなかった。このことによりテレビ局の報道はさらに過熱し、特別報道番組も組まれた。

 そして、アドアニア基地の面々は、そこからが大変だった。

 式典など行わないと思い込んでいたため、一から作業を行わなくてはいけなかった。コースの選定や許可などは事前に行っていたから良かったが、時間の通達や交通整理の班区分けに警備重点区間、狙撃可能な場所の洗い出しなど、一日では到底できない作業が山積みであった。だが、アリエッタはそれを、会見に出ずにジェラスに押し付けた者――つまりは、ジェラスより上の者全員に行うよう通達し、さらに無能だと判断した場合は懲戒解雇すると明言し、必死に行わせるように仕向けた。そんなことをしたら、下の者が大変になるであろうとジェラスは心配したが、アリエッタはそんなジェラスの表情を読み取って「大丈夫ですよ。『部下任せなのは部下が優秀ということです。本人が無能であることをわざわざ露呈する愚かなことは、まさかしませんよね?』と釘を刺しておきましたから」とジェラスの肩を叩いた。全く抜け目のない人だ、と相変わらずの畏怖と尊敬を込めて、ジェラスは頭を下げた。


 結局、何とか式典の開催までこじつけられた。だが、それは上の者が頑張ったからではない。あらかじめ、アリエッタがある程度まで手配していたからだった。彼女はその場限りで発言する人ではないということが判っていたためジェラスは別に驚きはしなかったし、それ故に、部下に押し付けるという行為が無駄になってしまうからこそ、先程の心配をしていたのだった。しかし、彼女の本質を理解していなかった者はそれを当然の如く察することができず、また、部下からの信用がない者はその無駄さを指摘されることもなかった。緘口令が敷かれていたとはいえ上司を失脚させたくない者がいたら、こっそりでも教えるだろう。


 その結果、ジェラスより上の者はほとんどいなくなった。信じられないかもしれないが、アドアニア支部長さえも解任されたのだ。まるで、最初から全員解雇したかったかのような所業であったが、この緊急事態に無能を排除するという意図は確実にあったらしい。


 しかし、その中でたった一人だけ、鬼のようなリストラに残った者がいた。


 その者は若いながらも戦場で武勲を上げ、弱冠一八ながら中将まで上り詰めた、エリート中のエリートだった。アリエッタとは違い、身分も何もなく実力だけで押し昇った人物である。しかし、いくら実力があろうとも低年齢でそこまでの地位に辿り着けたのはおかしいと周囲に不審がられたが、アリエッタという前例がいるために、誰も口にはしなかった。もっとも、その者が男で美系であるから、アリエッタに気に入られたという説はまことしやかに囁かれているのだが。

 そんな彼が、今回の大リストラを回避した方法は、ただ一つ。


 


 既に準備は終わっているということを把握し、自分の仕事に専念していた。それが有能の証であり、アリエッタが求めていた正解であった。

 そういう訳で、非常に難関であるその答えを導き出した彼は、結果としてアドアニア支部長となった。

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