第39話 復讐 04
「えー、ではただいまより、アリエッタ陸軍元帥による会見を始めさせていただきます。質問は後に時間を取りますので、そちらの方よろしくお願い致します。では、アリエッタ元帥、お願い致します」
「はい」
返事をして、彼女はすっとマイクに口を近づける。
「アドアニアの皆さん。ルード軍、陸軍元帥のアリエッタです。現在、私はあなた達の国に来ております。その理由は……皆さんも十分にご存知だと思います」
ちょっと間を置いて彼女はゆっくりと首を縦に振る。
「私はこの問題を非常に重く見ています。魔王の存在は、皆さんの心を非常に不安にさせています。だからこそ、私はここで宣言致します。ルード軍は、あなたたちの安全を守ります」
淡々とした口調だが、その言葉には重みがあった。これを直接聞いて、口先だけだろうとはとてもじゃないが言えない。しかし、画面を通した者にはそうは聞こえないのかもしれない。
そのことを想定していたらしく、彼女はこう続ける。
「ですが、この言葉だけで信用する人はいないでしょう。だから私は身をもって証明致します」
立ち上がり、アリエッタは堂々とした面立ちで宣言する。
「明日、正午より式典を行います。これは元から行う予定ではあったのですが、この件によって中止する方向で動いていました。ですが私は敢えてこの状況を鑑みた上で、実行しようと思います。パレードのように大々的に街を歩いて、大丈夫だとアピール致しますから、ぜひ気軽に参加して下さい」
この提案には、テレビの前の人々も驚きの様子を示す。
その驚きに含まれているのは二種類ある。
一つは、そんなことをやるのか、という驚き。パレードのように、とは言っていたが、結局はお祭り騒ぎをするということ。そんな場合ではないだろうという、表層だけを読み取った者の驚き。こちらは驚きの後に、すぐに呆れ顔になるから判り易かった。
残るもう一つは、そんなことをして大丈夫なのか、という驚き。こちらは表層だけではなく、きちんと奥まで理解している者の反応。パレードのようなことをするということは、自分の居場所を堂々と明かすということ。ルード国陸軍元帥はいわば要人である。すなわち、遠くから狙撃されるなど、殺される可能性がかなり増すということである。そのようなリスクを背負うのか、という驚きを見せている者は次に不安そうな顔に変化していた。
ジェラスの考え方は後者であり、そしてアリエッタは、影武者を立てるなどの安全策は取らず、生身で勝負するつもりだということにも気が付いていた。ここで逃げる態度を見せたら信用を失墜させてしまう。故に、彼女は身体を張らなくてはいけないのだ。最も、それを保護するために、周りの人間である自分達はもっと苦労することになるのは間違いないのだが。しかし、一般兵が周囲にいた所で、既に何の安全もアピールできない。
となると、方法は一つ。
「そして、皆さんの安全を確保するため、この式典には、普段よりも警備は厳重にいたします。その象徴として――」
アリエッタはその答えを口にする。
「このアドアニアにあるだけの『ジャスティス』を全て動員して、皆さんを守り――」
その時だった。
――ブツン。
突然、目の前のモニターが全て黒くなった。
停電か、と一瞬思考したが、電気が消えていないため、それは違うと断定する。ジェラスは目の前の放送兵に問い掛ける。
「機材トラブルですか?」
「い、いえ、見た所は断線などの異常は何もないはずなのですが……ちょ、ちょっと待って下さい」
焦りながら、放送兵は機材を調べ続ける。
と、次の瞬間だった。
『――ほとんどの人は始めまして、だな』
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