第38話 復讐 03
「お身体は大丈夫ですか?」
ジェラス大佐が心配そうに訊ねる。アリエッタはつい先程、この国に戻って来たばかりであり、恐らく十分な休みは取っていないだろう。
しかし、彼女はそのような様子を見せずに、平坦に答える。
「今はそんなことを言っている場合ではありません。魔王が姿を現わさない以上、私が本格的に魔王討伐に乗り出した、と伝えて人々の混乱を抑えなくてはいけません。私が討伐に乗り出したからと言って、永続的に安心はできないかもしれませんが、とりあえずは何とかなるでしょう。一時的な安寧は、約束できると思います」
それは事実であろうと、ジェラス大佐は頷く。彼女の人気は凄まじく、魔女と罵られている反面、美貌と手腕でルード国民以外にも厚い信頼を得ているのだ。彼女が乗り出すと言えば、兵士の士気も上がるであろう。
「準備できました」
機材の用意をしていた軍の放送スタッフの声。
今の会議室には以前のようにジェラスとアリエッタの二人だけではなく、たくさんのスタッフが忙しそうに動いていた。殺伐としていた白の風景は、黒のケーブルなどで新たな色を追加させ、一種の記者会見場のようになっていた。実際に行うとしたらもっと広いであろうが、ここで行おうとしているのはテレビ会議の延長のようなもので、この部屋に記者やインタビュアーは入れない。そもそも、このルード軍基地自体に記者を入れる訳にはいかないので、軍には放送要員の兵がいるのである。ただ、外部から質問ができない訳ではなく、他の記者会見と同様に、あちら側にもモニターを通じて質問などができる。しかしそれは各キー局だけに限られるため、モニターは六つ。
そのような理由でこの会議室には、前方に一つの長机、中盤に並べられた六つのモニター、後方にはカメラが一つ設置されている。
因みに、その会見に出席する、つまり画面に映る人間は二人。一人は当然アリエッタであり、もう一人はジェラスだった。アドアニアの軍人の代表としてその場にいるのだが、彼より上の人間は数多くいる。つまりは、面倒事を押し付けられたのだ。
(そういうことをすると、あのお姫様に怒られるぞ……)
事実、彼がこの会見に出席する旨をアリエッタに告げると、
「そうですか、では、他の方は仕事が忙しいのですね。それならば減らしてあげましょう」
一つ頷いて何やら手帳に記していた。
(まあ、私も面識がなかったら、彼女と出席するなんて御免被りたかったけれど……)
「ジェラス大佐」
「は、はい!」
考えていたことが口に出たかと思い、背筋をピンと伸ばす。
「大声を出して、いきなりどうしたのです?」
「い、いえ何でもありません……それより、何でしょうか?」
「もうすぐ始まる時間ですよ。座りましょう」
彼女に促されて、ジェラスは着席する。六つのモニターはまだ黒いまま。だが、カメラを一台向けられているというだけでも、大分緊張するものだった。
そのように変な汗を掻いているジェラスの横で、アリエッタは普段と変わらない様子で、
「では、各局に繋いでください」
指示を受けた放送兵が丸印を作る。すると、一斉に黒い画面に人の姿が浮かび上がり始める。番組をそのまま映したもの、インタビュアーが一人で映っているもの、何故か判らないがアニメキャラが映されているものもある。
「皆さん、準備はいいですか?」
アリエッタがそう呼び掛けると、一局以外は全て頷きを返す。
「では、ジェラス大佐、お願い致します」
「え? いいのですか? あの……」
ジェラスは眉を潜めながらアニメ画面を指差す。
「いいのですか、あれ?」
「あれはいいのです。いつものことですから。どの国でもそうなのですよ。一局は。アニメキャラを見せることでリラックス効果があるとか何とか言っているのですが、流石にいやがらせでしかないですよね」
「はあ……」
「そう言う訳なので、あの局はあれでいいのです。音声もあの局だけは切ってありますよ。ではお願い致します」
「わ、分かりました」
コホン、と一つ息を吐いて、ジェラスはカメラに向き合う。カメラマンが親指と人差し指を結ぶ。頷き、ジェラスは口を開く。
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