第29話 別離 11

『え……?』


 呆気に取られるルード軍。

 それは、ルード軍だけではない。

 カメラを廻し、実況していたテレビ局の人達も。

 傍観していたクラスの人達も。

 クロード以外の誰もが、驚愕していた。


「ほら、洗脳じゃこんなことできないだろ?」


 無表情のままのクロードは歩きながら、どんどんと階段を昇るように上昇していく。勿論、足場など何もない。

 そしてクロードは、ジャスティスの眼の高さまで身体を移動させる。


「いや、洗脳系でそういう映像を見せている、と考えればできるか。……なんか幻想系って卑怯だな。何でもかんでも『幻想だ』って言えばいいし、惑わされるし、実際、やろうと思えば俺にだって可能だしね」

『お前……それは幻想なのか?』

「信じてもらえないだろうけど、これは幻想じゃないぞ」


 それに、とクロードは表情を変えずに挑発する。


「そもそも、お前らはゴーグルを付けているじゃないか」

『……ッ!』


 スピーカー越しに歯軋りの音が聞こえた。相当頭に血が上っているらしい。


『もういい! 全員! あいつを撃ち落とせ!』


 ついに堪忍袋の緒が切れた様だ。その合図とともに、一斉に空に浮かぶクロードに銃が向けられる。


『撃て!』


 ドン。


 同時に銃弾が放たれる。

 多少ずれているものもいるが、約五〇の弾丸は全てクロードに向かう。

 この間の様子は、眼には見えない。

 まさに、一瞬。

 その間に、行動などできない。


 ――


『ば、馬鹿な……』


 拡声器から喉を零れ落ちた様な声が垂れる。一般兵も眼を見開いて呆然とする。

 クロードはその場にいた。

 そこから動いてもいない。

 微動だにしない。


 ――しかし、


『弾が、消えた……?』


 放たれた弾丸は何一つクロードには届かず、彼から離れた位置で消失したように見えた。


「正確に言えば……まあ、いいや。教える義理はないし」


 クロードは文字通り一般兵たちを見下す。

 あくまでも見ているだけ。

 だが、一般兵たちはそう捉えなかったらしい。


「ひ……こ、殺されるっ!」

「助けて!」

「うわああああああ」


 混乱。

 狂乱。

 乱心。


 眼をあらん限りに見開くか、または眼を固く閉じたまま、一般兵たちはクロードに向かって弾丸を放ち続ける。

 それでも彼には当たらない。

 と、


「――――」


 唐突にクロードが身体を傾ける。

 そのまま、落ちていく。


「あ、当たった……」


 一般兵の一人がガッツポーズをする。釣られて他の人の顔も明るくなる。

 しかし、そのように徐々に歓声が上がる中、先程から声を放っていたジャスティスからは、言葉を発せられていなかった。

 恐らく、その人物は気が付いていたのだろう。

 クロードに、弾丸など当たっていない。

 そして――彼は身体を傾かせる前に、こう口にしていたということを。



「ああ――



『お前ら逃げろ!』


 そう声を発した時には、もう遅かった。

 一般兵たちは歓喜の声を止め、息を呑む。


「な、何だあれ……」


 地面に激突する直前で、クロードの身体が宙に停止している。

 浮いている。


 一般兵の目の前で、


「……っ」


 静寂が走る中、その口が開かれ、次のような言葉が紡ぎ出される。


「邪魔だ、どけ」


 ――その瞬間。

 クロードの近くにいた一般兵たちが、彼を爆心地としたように弾け飛ぶ。クロードから離れていた者も飛んできた他の兵の勢いに負け、吹き飛んで行く。

 一瞬の出来事だった。

 五〇人はいたであろう一般兵は全て排斥された。


 残ったのは、ジャスティスが三機。

 そして――クロード。


「ようやく静かになった」


 透明なマットから降りるように、身体を起こして地に足を付けるクロード。


「さて、次はお前らか」


 その言葉がはっきりと聞こえ、静寂があたりを支配する。

 息を呑む音が聞こえそうな、静けさ。

 その中でクロードは、巨大なロボットと向き合う。

 相手は戦争で負けなし、どの国にも解析されていない、ルード国の兵器、ジャスティス。

 しかも三機。

 それでも。



 誰も、クロードに勝てると思える人はいないであろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る