別離
第19話 別離 01
◆
「上手くいったようですね」
ルード軍基地、会議室。
以前と同じ場所に、ジェラスは書類から顔を上げない女性から、そう言葉を掛けられる。
陸軍元帥、アリエッタ。
彼女は淡々と言葉を続ける。
「長い間生活していたのですから、住民の方達が魔女の息子に感情移入してしまっていた可能性がありました。故に、完全とは言えない作戦でした」
ふふ、と彼女は短く微笑する。
「昨日、通っていた学校でショックのあまり早退したそうですね。上手くいって良かったですね。ジェラス大佐」
「……ええ」
「どうしました? 神妙な面持ちですが」
アリエッタは、顔を上げずにそう訊ねる。一体どうやって見ているんだと疑問に思いながらも口には出さず、ジェラスは顔を曇らせる。
「本当にあの少年は、ジャスティスを破壊したのでしょうか?」
「そんなことはもう関係ありません」
ピシャリと彼女は言い放つ。
「ジャスティスは彼の家で破壊されていたそうじゃないですか。つまりは、魔女の息子としての力が発現したということです」
「……そんな非現実的なこと有り得ますか?」
「勿論、私も本気で魔法やら超能力やらを信じている訳ではありませんよ。恐らく、彼は対抗兵器を所持していたのでしょう。ウルジス辺りからですかね。そうなると、外交的な問題が発生しますね」
ようやく書類から眼を離して、彼女は言う。
「それはともかくとして、彼がジャスティスの攻撃を受けなかったのは事実です。人々の恐怖心を煽り立てる存在となっているのは変わりないでしょう。今回、重要なのはそこなのです」
「ですが、アリエッタ様……」
ジェラスはおずおずと切り出す。
「一般人……魔女の息子であるだけで軍事的には一般人の彼が、何処の国も実行できていない、ジャスティスに対抗するための兵器を所持しているとは思いませんが……」
「やはり、そう思いますよね」
あらかじめそう聞かれるのが判っていたかのように、アリエッタは返す。
「そこが一番の問題なのですよ。しかし、魔女の息子がジャスティスを破壊した方法は、他に考えられないのです。あなたはどう思いますか?」
「私は……」
返せず、ジェラスはそこで口を閉じる。そんな彼に、アリエッタは微笑を向ける。
「ああ、気にしないで下さい。答えなど誰にも判らないのですから、あなたの答え如何で私の評価がどうなるとかはありません」
「……正直に言いますと、私は彼がジャスティスを破壊できたのは、その……」
言い辛そうにジェラスは言う。
「【魔法】によるものだと思っています」
「まあ」
少し意外そうに眉を動かすアリエッタ。
「最も想定していなかった答えですね。一体、どうしてそう思ったのですか?」
「魔女の息子、だからです」
自信無さそうに、ジェラスは言葉を紡ぐ。
「その……私はアドアニア侵攻の直後に異動してきたため、恥ずかしながら詳しいことは知らないのですが……どうしてその人物は、魔女と呼ばれていたのですか?」
「アドアニア侵攻の際は、私はまだ学生ですよ」
アリエッタは苦笑いを浮かべる。
「ですが、その理由は知っています。いや、知ったつもりになっています。こちらに来る前に、文献で色々と調べましたので」
「……申し訳ありません」
「いえいえ。ジェラス大佐はお忙しい身ですから、そのようなお伽噺に近いようなことを調べる暇などないでしょう。実際、お伽噺みたいな話で、俄かには信じられないですけれどね」
そのジェラスよりも遥かに忙しいであろうアリエッタが眼にしているため、彼は思いきり後悔の念に駆られた。優先順位が低かったとはいえ、魔女が何であるかくらいは調べておけば良かった、と。
そんなジェラスの様子には構わず、アリエッタは魔女についての説明をし始めた。
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