第7話 覚醒 06

    ◆




 午前〇時頃。

 日が移り変わるか否かのその時刻。晴れ渡っていた空は黒へと模様替えし、眩しい日差しを提供していた太陽は風情を感じさせる淡い月へと変化し、深い闇に包まれた森の中のクロードの家を照らしていた。


「月見日和だな」


 そんな夜中にも関わらず、クロードは家から少し離れた場所に自分で作成した木製の椅子に、パジャマ姿で腰掛けていた。

 何故そんな所にいるのかというのは、月が綺麗だから、などというような美しい理由ではなく、無性に胸が騒いで眠れなかったため、少しリラックスしようと思ったからである。今までも何度も眠れない時があったが、大抵はここに一時間程度座っていると眠気がやってきたので、クロードはこの場所がえらく気に入っていた。たまにその場で寝入ってしまうほどである。

 その度に、彼はある夢を見る。

 それは、自分の母とのこと。

 夢の中の母は、クロードの記憶にある母と同じように優しかった。いや、クロードの夢は彼の記憶にある母を再生していた、と言う方が正しい。

 ある夢では、クロードは母の胸で子守唄を聞いていた。母の声色は優しく、彼は自然と瞼が閉じて行く感覚を夢でも感じた。

 ある夢では、母は困惑した顔をしていた。会話から、クロードがお使いで間違えたらしい。しかし母はクロードが間違えた食材を魔法のように上手く使って料理し、二人は笑顔で食卓を囲った。

 夢にも関わらず、クロードはここまで覚えていた。夢だからこその自分の中での無意識な捏造も考えたが、結局は判断が付かないものであるし、良いイメージの母親が出てくる分には構わなかったので、そのことについて考えることはやめた。

 そういう理由も含めて、クロードはこの場所で寝ることが好きであった。だが、流石に目覚まし時計も何もなく、明日に学校がある状態ではそこで寝る訳にもいかない。基本的に不覚を取って眠ってしまったという以外には、翌日が休日である時にしかこの場所では眠らないように心掛けていた。


「……今日は眠れないな」


 クロードが椅子に座って、既に二時間が経過していた。ここまで長い間眠気が来ないことは初めてであったので、少し戸惑いを感じていた。


「流石にもう寝ないと、明日が辛いな」


 無理矢理欠伸を行おうと口を開いたが、出たのは「ふわあ」という間抜けな作り声だけ。それでも眠気を誘うために何度か繰り返し行ったが、一行に自然な欠伸は出て来ない。


「とりあえず、家に戻るか……」


 そう腰を上げた時だった。


「……何だ?」


 唐突に、強烈な違和感を覚え、クロードは耳を澄ます。

 すると、遠くで木々がなぎ倒されるような音が聞こえた。

 加えて、鉄が擦れるような音。

 クロードは咄嗟に近くにある木の後ろに隠れる。

 音はこちらに向かってくる。

 やがて彼の眼に、その音源が映し出される。

 それを認知した時、彼は眼を疑った。

 漆黒のボディ。

 全長二〇メートルはあろうかの巨躯。

 二足歩行。

 それが動いているのにも関わらず、エンジン音などの轟音が少ない。

 そのようなモノは、この世で一種類しかない。


、だと……?」

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