第412話 正義 12
◆
アドアニアで行われた世界連合総長の任命式での出来事は、世界中の人々に衝撃を与えた。
魔王クロードが何者かの手によって襲撃された。
それをきっかけに、その姿を、黒い羽根と変化させて消え失せた。
しかしながら、声が響いた。
存在し続けると、宣言した。
永遠に、魔王たる存在として――人々の手の届かない存在として。
結局。
その場はウルジス王が収めた。混乱する人々に対して大声を放ち、クロードの恐怖に打ち勝つべく、元々の目的である世界連合として全世界、協力して行こうという投げ掛けをした。
争うべきはお互い同士ではない。
そもそも、魔王によってそれは封じられている。
だから一つにまとまろう。
その演説によって人々の心は安寧と平和を望む気持ちに切り替わった。
そして司会の機転により、その場で世界連合二代目総長の採決が取られ、満場一致でウルジス王がその座に付くことが承認された。
結果、彼が世界の王となった。
但しそれは、魔王という実質的に世界を支配している存在が上位にいる、という前提条件ではあった。
魔王。
その存在は、目に見えない形でずっと存在し続けていた。
それがどれだけ恐ろしいことか、皆は実感した。
クロード・ディエル。
別称は『魔王』。
そして――『
独りでジャスティスを破壊し尽くした存在。
皆の認識はそうであった。
ここで疑問に思うべき点がある。
それは、一部の認識が事実とずれていることに気が付いていない点だ。
『正義の破壊者』はクロードが率いた組織の名だ。
だが今は、クロード一人の異名として誤認識されている。
その理由は簡単だ。
クロードがそう望んで、あの瞬間、全ての人間の記憶を捏造したからだ。
このような展開は全て、クロードが望んだ通りの展開だ。
全ての責任を自分で負い、自らの命を持って平和を導き出す。
共通の敵。
しかも永遠に倒せない敵。
クロードは自らをそのような存在――魔王となった。
もはや概念的な存在といっても過言ではないだろう。
全てはクロードの――コンテニューの計画通りだった。
クロードは自身の全てを持って、この世界にけじめをつけるつもりであった。
全世界の人々に服用させた『赤い液体』の効果で、互いを傷つけ合わない世界を実現することで。
この平和は永続的でなくてはいけない。
そう。
――クロードが死んだ後でも。
その為に必要なことを、彼らは行ったのだ。
彼ら。
コンテニューとユーナ・ディエル――クロードの母親だ。
クロードが死んだ後も、クロード自身の能力が残る必要がある。
それが出来るかは、クロードが死なないと分からないのが実情だ。
だが、そのことをほぼ確定できる方法がある。
それは、既に実行出来ている人物に対し、同じ分野で全てにおいて凌駕することだ。
クロードの異能は思い込みによって左右されることは経験上から把握していた。
一番、その思い込みで有益なのは「既にやったことがある」ということだった。
黒い翼を生やしたり、銃弾を防ぐ透明な壁を作ったり、どんな攻撃も通していなかったジャスティスの外装をクッキーに変えたり――復讐心のみで動いていた時に考えなしに出来ていたことは『過去に出来ていたから』という理由でその後も出来ていた。
だから普通は出来ないと思えることでも、既存ならばクロードならば出来る。
――あの人が出来たことは自分にも出来るはずだ。
既存であれば、そのような思考にも繋がる。
即ち、クロードと同じ異能を持つ母親の行ったことならば、全く同じように出来る、ということだ。
しかしながらクロードの母親が行使した異能について、どこまで何を行ったか、実は把握していることは少ない。
クロードが知っているのは二つほど。
ライトウ、カズマ、アレイン、ミューズ、コズエの記憶を封じたこと。
そして、クロードの異能を封じたこと。
この二つは、確実に母親が行ったことだ。
これらは母親の死後も継続して行使され続けている。
つまりこの異能は、対象が死亡した後も継続することが証明されていた。
だが、継続性という意味で懸念が一つある。
それは、クロードとライトウの二人が、彼女の異能から解除されているということである。
クロードの場合は、母親が「ピンチの時まで発動しない」という制約を設けていたから、という意味合いで説明が付くが、ライトウの場合は自力で記憶を呼び起こした。そこはクロードが「努力すればするほど成長する身体」を与えたからということもあったが、それでは理由が弱い。
故に行わなくてはいけなかったのだ。
母親を超えること。
それを物理的に――死ぬことが出来なかった母親を殺すことで。
こっそり母親を生かす、ということも出来なかった理由がそこにある。
母親が生きているのであれば先のことは全て『母親が気まぐれで解除した』ということが通用し、異能の継続条件が『母親が生きている限り』ということになり、構想していた理論が崩れてしまうからだ。
母親は死ぬしかない。
更にクロードの――コンテニューの手で殺さなくてはいけない。
全てはクロードの死後、その異能が保たれる為に。
そして彼らがその計画を実行したことを、クロードは知った。
だから腹を括ったのだ。
自身の犠牲で、世界を平和にすることを。
しかしながら、その為にはもう一人、犠牲が必要であった。
クロード自身を傷つける人間、という犠牲が。
それを請け負ったのが、母親だった。
コンテニューがその責を負うことも出来たのだが、自分で自分を殺すには、コンテニューという存在は曖昧すぎた。
クロードから生じた存在。
そして、クロードに倒される存在でもある。
故に様々な面で、このような展開には出来なかった可能性が高い。
他の人に依頼することも考えた。
だけど、そのような責務を負わせられる存在は、彼の中ではただ一人しかいなかった。
甘えられる存在が一人しかいなかった。
かなりの重責を母親に課してしまった。
それでも、母親は行ってくれた。
七年前から飛び、小さな子供に偽装して、クロードの左胸にナイフを突き立てた。
その心中はどれ程のモノだったか計り知れない。もしかすると自分を殺してくれということに対してや、クロードと同じく世界を混乱させたことにけじめをつけよう思っていたのかもしれない。
いずれにしろ、母親は実行してくれた。
その後に母親は過去に戻り、コンテニューの手で殺された。
だから実行犯が誰なのかは露呈することではない。
そしてもう一つ。
クロードは実行していた。
それは記憶の操作だ。
操作した記憶の内容は『
それはクロードがずっと望んでいた、もう一つのこと。
ジャスティスに関する記憶の消去、だ。
設計図や図面、開発者はこの世には既にいない。
元となったモノも、全てクロードが破壊した。
あんなものは二度と生み出されてはいけない。
だからクロードは消した。
ジャスティスそのものを。
そして人々の記憶からも。
これでクロードは名実ともなった。
『
彼は永遠の存在となって、人々の記憶の中で生き残る。
魔王として。
そして
平和を奪われ、平和を望んだ少年の復讐の物語は、ここで幕を閉じる。
そして――
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