第397話 未来 03

 クロードは歩く。


 その間、攻撃されるが、先と同じように反射される。

 敵は降伏する。

 この繰り返しである。

 更に見て判るほどに、統率も取れていない。

 それはきっと、あちら側の指揮系統が色々と乱れているのだろう。

 もしくは――指揮する上が、既にいないのか。


(いずれにしろ……ここに行けば分かるか)


 クロードは目の前の施設に視線を向ける。


 ルード軍本部。

 荘厳たる建造物が目の前にあった。

 道中で金属の大きな門が切断されていたが、それはライトウの仕業であろう。

 ということは、彼は中にいるということだ。

 ――と。


 ビー!

 ビー!


 微かに聞こえて来たのは、警告音。

 どうやらルード軍本部内で鳴っているらしい。


「何だこの音は……?」


 ウォルブスが怪訝そうにそう言う。何だかんだで彼は、きちんとカメラを廻しながら付いてきていた。


「警告音だろう。普通に考えれば侵入者を知らせるものだろうが、内部で火事が起こっていたりとか、もしくは毒ガスの警報ってこともあるかもしれないな」

「ど、毒っ?」

「軍本部を囮にして人を集め、そこを一気に――と、まあ、ほぼ有り得ないだろうが、ありとあらゆることを想定しておくべきだということだ。―-ほら」


 クロードはそこで近くの壁に手を付くと、引っ張り出す様にして、とある物を作った。

 それはガスマスク――アドアニアでコンテニューが身に着けていたものをイメージしたモノであった。


「煙だろうが毒ガスだろうが、それを付ければ大丈夫だろう。とりあえず付けておけ」

「あ、ああ……」


 そう投げつけられたガスマスクを、戸惑いながらウォルブスは受け取る。


「お、お前はどうするんだ!?」

「俺にはそんなものはいらない」


 自身の異能でそんなものはどうとでも変化出来る。


「それに――」


 クロードは手を前方にかざした瞬間――ドカン、という音と共に、目の前に大穴が空いた。


「こうやって吹き飛ばせばどうとでもなる」

「……」


 唖然としているウォルブス。

 目の前で何が起こったのか、理解出来ないのだろう。

 実際、目の前の壁をクッキーのように脆くして、風を強風へと変化させて破壊した――なんて口にしても信じられないだろう。


「ちょうどいい。面倒だからこのまま真っ直ぐ進むぞ」

「あ、ちょっ……」


 クロードは迷わずに先へと進む。

 その先に壁があろうと関係なく破壊して行く。

 扉があるのに無視をして破壊して行く。

 中心部に向かってひたすら進む。

 それだけ。



 だから偶然だった。

 ――この部屋を通ったのは。



 その部屋にはモニターや本体など、コンピュータ関係と言えるモノが多数並べられていた。他の部屋に比べても明白な違いがあった。

 そして何より目を引いたのが、床に一人の少女が横たわっていたこと。

 幸いなことに破壊するルート上にはいなかった為、その身体の上に破片が降り積もっていることなどなかった。

 ――もっとも、その破片は全てクッキーに変化させているので万が一にも怪我などはなかったが、それよりも、壁沿いにいたらその身体がクッキーに変化させられたかもしれない、という点の方が幸いなことであったが。クロードはそこまで目の前の変化に気を配っていなかったのだから。



(気を付けるとしよう。気付かさせてくれてありがとう。

 ――ミューズ)



 クロードは呼吸をしていない、白衣の少女に心の中で声を掛ける。

 彼女は通信機の傍で力尽きており、その表情はどこか満足そうであった。

 しかしながら、どうしてミューズはそのような状態になっているのか?

 気になったので、部屋の空気中の成分を見えるようにする。


「……まさか本当に毒ガスだったとはな」

「えっ……?」


 ウォルブスがガスマスク越しにくぐもった驚き声を放つ。

 クロードが「毒ガス」と口にしたのは、通常の空気には含まれないはずの元素が混ざっていたからだ。クロードは毒ガスにそこまで詳しい――どころかほぼ素人の知見レベルであるのだが、少なくとも大気中の元素比率がおかしいのは分かった。だからある程度、推測も交えてそう口にしたのだ。

 だが普通の空気と同じようにすれば良いだけ。

 クロードは知っている。

 細かい組成は知らなくとも、普通の空気とはどんなものなのかを。

 だから――変化させられる。


 ぶわ、っと。

 一陣の風が吹いた。


「これでいいだろう。ただ念のためにガスマスクは付けておけ」

「な、何をしたんだ……?」

「この場の空気を一新しただけだ。――さあ、行くぞ」

「あ、ちょっと!」


 またもやクロードは足元に横たわる幹部ミューズに労りの言葉を掛けることも無く、同じようにその部屋の壁を破壊し、その場を通り過ぎて行った。

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