第396話 未来 02
戦闘は未だ行われており、銃弾が飛び交う音が聞こえていた。
それでも、中央の通りのど真ん中を、クロードはひたすら歩いていた。
堂々と。
隠れもせず。
当然ながら、そんな目立つ彼目掛けて、幾つもの銃弾が放たれた。
だが当然、銃弾など効かない。それは砲弾だろうがお構いなしだ。
それどころか彼目掛けて放たれた銃弾は塞がれるだけではなく、そのまま等速で反射され、狙撃主への元へと撃ち込まれていった。
それは、その後ろを付いているウォルブスに放たれた弾丸にも同じであった。
やがて、彼を銃弾音は徐々に無くなっていった。
理由は明白だ。
相手のルード国軍人が、次々と降伏してきたからだ。
銃弾を撃てども敵将は討てず、逆に撃たれる始末。
すっかりと戦意喪失していた彼らは戦闘を止めた。
意欲を削いだのは、もう一つの要因があるだろう。
それは、ここまで全く、ジャスティスによる攻撃が無かったということ。
ルード軍が誇る最強兵器である二足歩行型ロボット『ジャスティス』が、戦場のど真ん中に敵将が歩いているという好機に一度も姿を見せていない。
それはすなわち、彼らの脳裏にとあることを刻ませることとなった。
ルード軍のジャスティスは――全滅した、と。
だからこそ、彼らは簡単に投降したのだ。
そんな異様な静けさの中、彼が歩いて行く。
――数分後。
ずっと中央に向かって休まずに歩いていたクロードであったが、唐突にその足を止めた。
見つけたのだ。
とある彼の姿を。
「……カズマ」
胸部を砕かれた緑色のジャスティスと、それを貫いているボロボロの黒いジャスティス。
その傍らに投げ出されている少年の名を、クロードは告げた。
いや、投げ出されたわけではない。
自分の意志で前に進もうとしたのだ。
それは彼の様相からひしひしと伝わってくる。
獣型ジャスティスを――恐らくはそのパイロットはアリエッタであろうが――文字通り、命を張って倒した。
クロードは横たわる彼に向かって歩みを進める。
そして――
「……」
――その横を通り過ぎた。
一瞬でも立ち止まる素振りを全く見せずに。
「……っ! 何でだよっ!」
と、そこで声が張り上げられた。
ウォルブスだった。
「その人、幹部の……お前の近しい人物だったんじゃないのかよ!?」
「そうだが?」
「だ、だったら少しは悲しむ素振りとか……」
納得していない様子のウォルブス。
親しい仲間の死を悼んでいない。
そう見えているのだろう。
(……実際、その通りだけれどな)
内心で苦笑いを浮かべながら、クロードは足を止め、敢えて彼にこう問い掛ける。
「何故だ?」
「……え?」
「何故、カズマだけに悲しむ素振りを見せる必要があるんだ?」
クロードは抑揚も無く告げる。
「カズマだろうが他の名の知らぬ兵士だろうが、『正義の破壊者』に所属している人間は、誰だってこちらにとっては失いたくなかった人だ。だけど、俺はその一人一人に魂の安息を祈って立ち止まるようなことは出来ない。しない。それが全てを束ねる者として――戦場に送り出した張本人としてのけじめだ」
説く。
だがこれは本心ではない。
建前だ。
建前だが、口にしなくてはいけない。
――それが後に必要であることとなるのだから。
「でも……それでもこいつはお前に……」
食い下がるウォルブス。
理屈は分かっているが本心は納得していないのだろう。
そんな彼に対して、これ以上言うことは無い。
「ウォルブス。こう楽しくおしゃべりをしている暇はないぞ」
「た、楽しくなんか……っ」
「ここは戦場だ。立ち止まれば死ぬぞ」
冗句を挟みながら、クロードは再び歩みを始める。
決して振り向かず。
カズマを、その場に残して。
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