未来

第395話 未来 01

    ◆



「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」


 ルード国、首都カーヴァンクル。

 市街地。

 戦闘地域となって住人が避難し、ひどく静かになった場所。

 木霊したのは、とある少年の悲痛な叫び声。

 黒衣を纏った、魔王と呼ばれた少年。

 クロード・ディエル。

 彼がいる場所は崩壊した――崩壊させた緑色のジャスティスの上。

 そのコクピットにいるのは紅の髪の少女。

 彼女の呼吸は止まっていた。

 クロードが慟哭しているのは、その所為であった。


「ああああああ……あああああ……あああ……ああ……あ……」


 ――やがて。

 クロードの嘆きの声が、どんどんと小さくなる。

 彼は顔を覆い、下を向く。

 黙り込んだまま、微動だにしない。

 ずっとその状態が続いていた。

 だが数分後――


「……馬鹿だなあ……」


 顔を上げ、クロードは天に向かって笑い飛ばした。


「きちんとやれ、って……俺がこの時にどんな気持ちで戦いをしていたのか、七年間で忘れたのかね? ――


 そっと服の内ポケットに手を当てる。

 そこに入っているのは、お守り。

 平和について会議をした時に子供――ジョン・スミスから渡された、黒いお守りであった。


「……さて、ここにいる俺は何だろう――なんて、妙なことが頭に思い浮かぶな。情報が一気に入れられすぎだ」


 額を押さえて、くっくっく、と笑うクロード。

 既に表情の薄い、笑わない魔王としての姿はそこには無かった。

 ひとしきり笑った後、


「…… 、か」


 彼は大きく息を吐き、やれやれと首を振る。


「……分かったよ。なかなかキツイことを要求してくるが……全てやってみせるよ」


 そう誰に言うでもなく告げ、傍らにあった物言わぬ存在になっている紅髪の少女――マリー・ミュートを一瞥し、


「だから……絶対に幸せにさせろよ。――コンテニュー」


 そう呟いて彼女に背を向け、再び歩みを始めた。


 彼が目指すのはただ一つ。

 カーヴァンクル中心部にある、二つの施設。

 ルード軍本部。

 ルード国中央会議所。

 ルード国の中枢機関であるその場所まで、彼は自分の足で歩き始める。


 と。


「――おい、そこで隠れている奴、出て来い」


「ひっ」


 唐突に彼は左前方に声を投げると、そこから一人の男性が出てくる。

『正義の破壊者』の戦闘服を着た、短髪を立てた非常に強面で筋肉質な、二十代後半くらいの男性。

 その顔には見覚えがあった。


「確か――ウォルブス・ハーケン、だっけな?」

「……っ!!」


 ピクリと肩を跳ね上げる。

 その彼の表情には恐れが浮かんでいた。

 恐れることは何もないのだが――と思っていたが、すぐに考え直す。


「その怯えよう……お前まさか裏切ったのか?」

「いや……そんなことはないが、その……」

「ん? 俺の顔に何が……ああ、そうか」


 クロードは、ハッ、と笑い飛ばす。


「俺の笑顔がそんなに怖いか?」

「……なっ!?」

「図星、か。参ったな、どこかテレビ中継でもされていたのだろうか? …………と、そうだ」


 唐突に思いついた。

 クロードは地面に手を付けると、とあるものを作成する。

 それは――


「……テレビカメラ?」

「そうだ」


 クロードは地面から生えたように作り出した大型のカメラを持つと、そのままウォルブスの近くまで歩み寄り、手渡した。


「え……?」

「電波も乗っ取った。少なくともカーヴァンクル市内の民放局の映像は、このテレビカメラから発信されている。だから君にお願いしたい。

 ――ずっと俺の姿を撮影し続けてくれ」

「なっ……何で俺が!?」

「頼んだぞ」


 一方的にそう言って、クロードはウォルブスに背を向け、再び歩みを始めた。


「……何だってんだよ、畜生……」


 言い様のない不安と脈絡のない展開と意味不明な状態に混乱しつつ、ウォルブスは彼の後を追い駆けて行った。

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